王国暦136億年(億は嘘)
王国首都スットコブルク。

春の風に花のつぼみがほころびだした頃だった。

一人の兵士が走っていた。
彼は勅命を受けた国王直属の兵士。任務は、街のスーパーでチョコレートを買ってくる事。
5年前にこの仕事を請け負って以来、喜んでいいのか悲しんでいいのか複雑な考えを抱きつつ、一日をたったこれだけの仕事に費やす、そんな毎日を送っていた。
いつもの彼なら周りの景色を眺めながら、その時期なら変わり始めた空気の匂いを味わいながらのんびり歩いて王城へと帰還するのだが、その日はいつもと違っていた。

その頃、王城の謁見の間では一人の兵士が国王の前にひざまづき、うやうやしくチョコレートの包みを差し出していた。
「うむ、よくぞ戻った」
王ヌワンデスは威厳ある微笑で兵士を迎え、ねぎらいの言葉をかける。そして彼が天国にもあると信じている―もし天国があるとするならば―その兵士が差し出したものに手を伸ばした。
そこまでは昨日と、そしていつもの日常と変わらぬ光景であった。


その時、王城の入口から声が響いた。


「そいつはニセモノだ!」
入口から、一人の兵士が息を切らせて走ってくる。しかも妙なことに、たった今王にチョコレートを差し出した兵士と姿形が全く同じなのだった。
「エダンが二人・・・
これは一体、どうしたことでしょう」
王の隣でそれまで微笑んで玉座に腰掛けていた王妃アーラヨットが、怪訝そうに二人を見た。
「あわてるでない、アーラヨット。こういう時は本人に聞くのが一番手っ取り早い。
エダンよ、そなたは本物か?」
「本物でございます」
エダンと呼ばれた兵士の一人が答えた。
「ではそちらのエダン、そなたはどうだ」
「本物でございます」
「ふむ、そうか・・・アーラヨット、どうやら二人とも本物なようだぞ」
「アホすぎてツッコむ気も起こりませんわ、あなた。
エダン、自分を証明できることは無いの?」
「承知しました。このエダン、朋輩からは虹のエダンと呼ばれておりますが、その由来は背中にかかる虹の橋でございます。失礼をば!」
走ってきたほうの兵士の方が、上半身裸になり王と王妃に背中を見せる。
そこには、見事な七色の虹がかかっていた。
「ええ、確かにエダンの背中には虹の刺青がありますわね。身体測定のとき見ましたもの」
「・・・・妻よ、のぞいていたのか?」
「コホン、さ、さてもう一人はどうかしら?」
国王と王妃、上半身裸になったエダン、そしてその場に控える家臣一同の視線が一斉にもう一人の兵士に集まる。



彼は立ち上がり、不敵な笑みを浮かべた。
「『虹のエダン』の通り名は、『親の七光り』から来たのかと思っていたよ」
その声は今までの兵士の声とは全く違った物になっていた。


一同の顔が、驚きの表情に染まった。
「貴様、姿を真似ただけでなく暴言までも!」
「落ち着くのです、エダン!」
自分の偽者につかみかかろうとする兵士エダンを王妃が制する。王妃は一人、落ち着いて続けた。(ちなみに国王は驚いて声も出なかった。)
「あなたは、何者ですか?」
気丈な王妃がそう問いかけたとき、偽者の体のまわりに色とりどりに輝く霧のようなもやが噴出し、その体は暗闇に包まれた。そして暗闇から獣の瞳のような二つの光点が浮かび上がる。
その場に控えていた親衛隊が一斉にそれを取り囲む。エダンも身構え、王と王妃をかばうようにして立った。
「お答えしよう、王妃」
それは語りだした。地の底から響くような声だった。

「我は常夏の帝王、カチ割りよりも冷たき者、豆腐の王・・・・」

「は?」
「違った!
我は常闇の帝王、極地の海より冷たき者、恐怖の王・・・・ホンダラマンダ」
一瞬にして場の空気が変わったのを、一同は感じた。
もっとも、明るい方になのか暗い方になのかはよくわからなかった。


「ああ、宮廷道化師希望の人か」
「何だ・・・」
一同は一応納得し、親衛隊も緊張を解いて元の立ち位置に戻った。
「違う!私は謎の暗黒魔導師だっ」
「ほう、コントもやるのか。」
「面白そうですわね」

「実際に恐ろしい目に合わなければわからないようだな・・・」
ホンダラマンダの体を取り巻く色とりどりの霧がホンダラマンダの体を覆い隠した。国王と王妃、それにその場に控える臣下一同は、期待に胸を膨らませてそれを見ていた。
すると謁見の間になんとも言えぬ妙な臭いが充満し、空間がピンク・緑・水色・白などの原色に輝く粒子が霧の姿を成して中空を流れ出す。それは四箇所に集まり、何かを形取った。
そしてそれら4つの中から、それぞれ違った形をした進化の法則を無視したような奇妙極まりない生物が現れた。
一つは三日月の形をした顔を持ち、まゆ毛が異常に長く太く、ヒゲが濃く、ランニングシャツとジャージ姿の筋肉質の生き物、
他は体の無い石に似た肌を持つ巨大でいかつい顔で、ひときわ大きな鼻の下にチョビヒゲを生やしている。
もう一つは鉢に収まったサボテンの姿をしており、サボテンのてっぺんに開かれた花の真ん中に細い目と半開きになった口があった。体の両横からは腕が生えており、鉢の下にちょこんと足がついている。
最後の一つは、人間に良く似ていた。胸に「Q」と書かれたマークが付いた青い全身タイツを身に纏い、赤い手袋、赤いブーツ、赤いマントを着用している。何よりも人目を引くのは、その表情だった。必死に葉を食いしばって、さかんに目を光らせている。比喩ではなく、本当にまばゆく光り輝いていた。
そして、ホンダラマンダ当人の姿はどこにもなかったのだった。

「神聖ホンダラマンダ軍、ここに有りってんだちきしょーめ!」
「我々はこれから宮殿を占領する!キュピーン☆」
三日月と光る目が口々に叫んだ。
「おお、手品か!」
「でも何か、言ってる事がぶっそうですわね」

「無礼であろう、陛下の御前ぞ!」
勇敢にして勤勉な、八人の親衛隊兵がそれらの生き物を取り囲んだ。
「何だ、邪魔をするのか!邪魔をするなんて・・・
お前たちは、腐ったミカンだ!!」
突然、サボテンが全身にびっしりと生えたトゲを飛ばした。親衛隊の一人は全身にトゲを突き立てられ、それこそサボテンのようになった。兵士はそのまま断末魔の叫び声と共に倒れる。
取り囲んだ親衛隊兵達は倒れた仲間を見て一瞬うろたえたが、すぐにそれぞれの獲物を構えた。
一人が、自分たちに向けられるプレッシャーをはねのけるように怒号を発した。床を蹴り、真っ直ぐに槍で突きかかる。
その瞬間、兵士の視界に一条の光が走り、兵士の胸を貫いた。兵士は前のめりに倒れるがその勢いは消えず、顔からトゲがびっしりと生えたサボテンの体に突っ込んでしまった。
「ふふふ、我々と遊んでいていいのか?キュピーン☆」
「今ごろおめぇさん方のでぇじな(大事な)お姫様がどうなっちまってんだろーなってんだべらぼーめ!」
光る目と三日月が言った。サボテンが自分のトゲに刺さった兵士の顔をはがす。すでに物言わぬ身となった彼の顔から、おびただしい量の血が噴出した。
「何だと?!陛下、王女殿下はどちらに!?」
「二階の自室だったはずだが・・・」
「お急ぎください!御免!」
エダンは国王を引っ張り、二階へ続く階段へと急いだ。王妃もすぐにその後に続く。
丁度エダンが階段を昇り切った時、悲鳴が聞こえた。
王女の自室からだった。


「王女ぉッ!」
エダンは部屋の扉を開けた。彼は一瞬、あの奇妙に光る色とりどりの霧に体を包まれ、顔だけを出した王女と、その傍らで笑っているホンダラマンダの姿を認めた。
二人は、そこで消えた。

ホンダラマンダが王女モッツァレラーニャリと共に消えた途端、謁見の間で暴れていた妙な生物も姿を消した。
親衛隊の戦況は、軽傷二名、重体五名、死者一名。
全身にトゲが刺さった兵士はどうにか命を取りとめたが、胸を撃たれた兵士はこの世から去った。


国王は最後まで手品だと思っていた。
・・・どこかでそう思っていたかったのかもしれない。


もしくは、本当に頭が足りないのかもしれない。


ようやくこれからの対策を練ろうとしだしたのは、三日後になってもモッツァレラーニャリ王女が帰ってこないことに気づいてからだった。

四月七日。ドッコイショ王国軍全軍に勅令が届いた。


『通達0930154126(奥様行こう良い風呂)
全力を持ってホンダラマンダの居所を突き止め、モッツァレラーニャリを奪還せよ。
居所を突き止めた場合、座標の報告を優先する事。
おやつは300円迄。バナナはこれに含まれないが、イチゴはこれに含まれるものとする。
なお王のお使いの役を請け負っている者は、これまで通り町にチョコレートを買いに行く指令を最優先する事。
又、遠征の際には、おみやげを買ってくる事。くさやの干物が望ましい。』


さらにヌワンデス王は暴虐の限りを尽くしたホンダラマンダに対してこれだけの事では飽き足らず、ホンダラマンダに賞金をかけて国民の協力を募った。

三日後、国王宛に手紙が届いた。

「\(^o^)/貴様の娘は預かった。\(^o^)/
返して欲しくば国王の全権および所持する財産をすべて私に献上せよヾ( ̄◇ ̄)ノ
なお十日間の間に返事が無ければ、帰国の領土に侵略を開始する(キュピ★_★ーン!!)
☆〜(*^‐゜)b(゜▽^d)ホンダラマンダ(b^ω゜)d(゜ω゜)♪」


この内容を見て国王は怒髪天を突くが如く激昂し、カミソリメールを百通用意しろという命令を出しそうになった(臣下が必死で止めた)。

ちょうどその頃、王国首都スットコブルクに一人の旅人が訪れた。
腰に刀を差し着物に袴という風貌をしたその男は、体格こそそれほど大きくは無いが、その眼光は抜き身の刃を思わせ、静かながら堂々たるその身のこなしは百獣の王を思わせた。
名を、モサシ・モョモトと言った。

彼は宿屋に入った時、何気に玄関に貼ってあった賞金首の張り紙を見た。
路銀もちょうど尽きかけていた頃だった。しかし、もしかしたら、何か運命的なものを感じたのかも知れなかった。

「稼げるかも知れぬな・・・」
モサシはそこに貼ってあった賞金首ホンダラマンダの張り紙を見ると、独り言をもらした。


to be continued....

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