「オ〜 マイ ゴーーーーッド!!!」
「俺たちの教室が焼けてしまった〜ッ」
「歯を大切に!」
「俺たち、どうしたらいいんですか、先生ッ!」

声の主は複数のようだ。

「大丈夫だ!」
ひときわ強い声が、叫んだ。
「俺とお前たちがいる限り、そこはどこだろうと俺たちの教室だッ!
たとえ、海の中だろうと、火山の火口だろうと!!

さぁ行くぞお前たち!!あの夕日に向かって!!!!」

「うるさい お前ら〜〜ッッ!!!!」

モサシは思わず飛び出していた。

「何、朝から人が寝ている所で、わけのわからん青春ドラマをやっとるのだ!!」
モサシは言った。
まだ朝もやのかかった、涼しい時間だった。この青春ドラマ的やり取りがなければ、さぞ寝心地良かっただろう。

青春ドラマの出演者たちは、一斉にモサシの方を向いた。
なんだかよくわかりかねる生き物が数体いる。長くて曲がった二本のヒゲをもつ緑色のゲル状の物、「歯を大切に」と大きく書かれた、暑苦しいスマイルの男のポスター、底抜けにブサイクで巨大な顔から手足が生えた、鼻に牙を刺して手に槍を持ったもの、風邪をひいているらしく、氷嚢を頭に当てて布団に入っているもの、
そしてそれらに取り囲まれるようにして、手足のある巨大な鉢植えのサボテンがいる。花が咲いており、その中に微笑んだ顔があった。見る限りは、この男が主犯格・・・彼らの一人が言っていた「先生」のようだ。

「歯を大切に!」
ポスターが叫んだ。
「ゲホ!ゴホッ!先生、誰なんですか、アレ!えごふ!」
風邪引きが言った。
「紹介しよう。
転校生の、モサシ=モョモト君だ!」
「何を言っている!?」
モサシは思わず、首をかしげた。
「彼はシャイだからな、仲良くしてやってくれ。」
「強引に進めるな、それに何故俺の名を?!」
「よろしく、モサシ君!ゲフ!ゴフッ!!」
「歯を大切に!」
「オッス!オレ、ベベベルベ人!」
「俺、ヒゲスライム!よろしく!」
「うるさい、お前ら!!」

一瞬、静かになった。
「モサシ、みんなと仲良くしなきゃダメだぞ」
サボテンが言った。
「お前達の遊びなどに、付き合ってはおれん」
「わかってる!
先生、わかってるぞ!!
本当はみんなと仲良くしたいのに、強がってる」
「・・・・・・・・・。」
モサシはもう何も言う気になれなかった。

「先生、みんなわかってるぞ!
友情を育むには、スポーツだっ!!
一元目は体育だーーー――!!!」
サボテンはそう言って、ホイッスルを吹いた。
その瞬間、サボテン以外の生き物達が、すばやくモサシを取り囲む。
「今日は『カバディ』だっ!
モサシ、みんないい奴だから、警戒しなくていいぞ!」
モサシは言ってるそばから警戒していた。

それというのも、たった今モサシを取り囲んだ四体から、激しい殺気が感ぜられたからだった。
モサシには、これから彼らが何をするつもりなのかということが、よくわかっていた。
そして、彼らが何者かということも、わかっていた。

ホイッスルが鳴った。
同時に、四方からの殺気が激しくなる。

「カバディカバディカバディカバディ!!!!」
表向きはあくまで「カバディ」らしく、しっかりと叫びながら向かってくる。
しかし、巨大な顔は槍を構えて真っ直ぐに突きかかってきた。
モサシは身をかわし、抜き放った。槍のけら首が飛び、続いて鮮血が舞った。
すぐさま背後に気配を感じる。とっさに、身を反らす。
目の前をゲル状物質が通り過ぎた。体制を立て直すと、すばやく背後に回り、袈裟懸けに斬りつける。ヒゲスライムと名乗ったゲル状の物は、真っ二つになった。
突然、ポスターが目の前に現れた。白い歯が輝き、モサシの目をくらませる。
モサシは気配だけを頼りに、突きかかった。

何かが剣を止めた。わずかに見える目を開くと、ポスターの歯が剣をとらえていた。
「歯をはいへふに〜〜〜ッ!」
執念だった。
ポスターは剣を離すと、モサシの右に回りこんだ。強靭な歯が、モサシの頭を狙う。
モサシは体を回転させ、左手一本で突きを放つ。剣はポスターの口に真っ直ぐに吸い込まれた。
手に、確かな手ごたえを感じる。
ポスターはなおも迫ったが、モサシが剣を抜くと、音もなく地面に落ちた。

背後に殺気を感じる。飛び退くと、巨大な顔が飛び掛ってきていた。頭から突っ込み、頭突きを狙う気だろう。
先程切った傷が、何故かふさがっていた。しかし動きは単調、横に回りこみつつ横一文字に斬りつける。
鼻の辺りから鮮血が散った。すると、すぐさまヒゲスライムがそこに跳び、長いヒゲを傷に当てる。
すると、傷がふさがっていった。

(・・・・何でもアリだな)
モサシは心の中でつぶやいたが、ベベベルベ人に向かった。
ベベベルベ人は来るなら来いとばかりに拳を振るった。しかし、モサシは跳躍し、ベベベルベ人の頭上に足をつく。
そして、ベベベルベ人を踏み台にし更に高く跳躍する。
落下先は、ヒゲスライムのいる地点だった。剣を逆手に持ち、真上から突き立てる。
そして剣を地面から抜くと同時に、あわてふためくベベベルベ人に斬りつけ、さらに蹴りを食らわせた。
もう一度ヒゲスライムに向き直り、何度も踏みつける。
これで仕留めた。あと、一体。
モサシは振り向いた。

「ゲホ!ゴホ!うげへ!ヘクシッ!!」
布団をしいて寝ている風邪の精霊は、苦しそうに咳き込んでいた。

「そこまで!3秒6、上出来だ」
サボテンが、リストウォッチを見ながら言った。
「・・・時間を計る意味があるのか?」
「そうでなきゃ成績がつけられないだろう?
あ、ちなみに風邪の精霊は風邪だから見学だ。・・・それにしても、
虫歯予防のポスター!ヒゲスライム!ベベベルベ人、授業中に居眠りをするんじゃない!!」
「せ、せんせぇ〜」
「おれたち、燃え尽きました・・・・」
「は、歯を・・・・大切・・・・に・・・ガクゥ」
「口答えをするな!
お前たちは、腐ったミカンか!!」

「この辺で帰ってホンダラマンダに伝えろ。
この程度の刺客はよこすだけ無駄だ、おとなしく自分の家で待っていろ、とな」
モサシは刀を納めつつ、しかし柄に手をかけたままサボテンに言った。
「・・・・・ほう」
サボテンは「生徒」達に向けていた視線をモサシに向けた。
「そんなことを言って、授業をさぼるのかね?」
「・・・・・・・・・・。」
モサシは答えなかった。最も、こんなことを言った所で、自分の望む答えが返ってくるはずもなかった。
相手の性格が性格なだけに。
「なんだ!その反抗的な目は!!
お前のような不良生徒には、こうだっ!!!」
サボテンは突然態度が変わった。
「制裁!!サボッテン・の・ランチャー!!!!」
サボテンは全身の針をモサシに向けて飛ばした。
それは一瞬の出来事だった。身をかわすヒマもなく、それらはすべてモサシの全身に突き刺さったのだった。
急所はとっさに腕で覆っていた。しかし、全身の毛が逆立つような痛みが走る。思わず、ひざをついた。

「痛いか?!痛いだろう!!?
先生だって痛いんだ!!
お前と一緒に授業が出来なくて、俺は寂しいんだよ!!!」
モサシは答えずに、サボテンと向かい合っていた。

「朝っぱらから何の騒ぎですの?」
モサシとサボテンが死闘を演じていることなど知る由もなく、エルフローネ密は何気なくテントから出てきた。
これから朝のラジオ体操をやろうと思っていた所だった。
一つ大きなあくびをすると、そこでやっと傷だらけのモサシに気づく。
「モサシ様っ!大丈夫ですか?!」
密は駆け寄った。モサシの返事は無い。

「むっ!・・・エルフローネ密!!」
密は突然名前を呼ばれ、驚いてサボテンの方を見た。
密は立ち上がると、少し間をおいて言った。
「どうして、私の名を?」
「俺たちの青春の巣を、よくも焼いてくれたな!
まだ巣立っていないヒナドリ達がいたにも関わらず!!」
サボテンは密の問には答えずに、大声でまくし立てた。

「は?」
密は、首をかしげた。

「・・・わかった!おとついの夜に食べた酢豚ですわね?
たしかに、酢を入れて焼きましたわ」
「『酢』ではない『巣』だ!!」
「酸味を加えることが、そんなにいけないのですか!」

モサシはそんなことより、この状況を早く何とかして欲しかった。

「答えろ、何故あんなことをした!」
「さっぱりしたものばかり食べてると、あぶらっこいものも食べたくなるのです!!」
話のかみ合わないまま、意味の無い言い争いは続く。
「これ以上の話し合いは無駄のようだな・・・」
「最初から無駄だった」モサシはつぶやいた。
「もう言葉なんていらないのよ!!
かかっておいでなさい!!」
「言われなくとも!
制裁!!サボテン・ファランクス!!」
サボテンは全身からトゲを放った。言ってることは違うが、やってることは先程モサシに放ったトゲと同じだ。
「狂おしいほどにいとおしい・・・!
燃える想いは、エクスプロージョン!!」

密は体に秘める情熱を爆発させた。凄まじい閃光と爆風が起こり、サボテンのトゲを吹き飛ばす。熱い想いを力に変える、密の情熱技だ。


「何ィ!」
サボテンは、顔をこわばらせた。
「私の想いの前には、そんなものは無力ッ!!
さぁッ、私の情熱を心行くまで召し上がれ!
・・・あら?」
その時、密の耳に心地よいテノールが聞こえてきた。

「眠りなさい〜♪
眠りなさ〜〜い〜〜♪」
「くっ、何なのですこの歌は!
脳がとろけて眠くなりそう!
ああ、瞳よ、まだ閉じないで!!」
「さぁ、音楽の授業だ。
聞けい!子守唄レベル8『眠りなさい’97』!
眠りなさ〜い〜♪眠〜りなさ〜〜い〜〜♪」
サボテンが、心地よいテノールで歌っている。歌声は優雅だが、表情は激しい。
「ああっ、このままでは・・・
・・・いえ、私は負けません。
見ていてください、モサシ様!」
密は眠くなる目を大きく見開いた。
太陽もまだのぼりきっていない大空をしっかと見つめ、口を開く。
そして腹の奥から脳天に向かって、歌声をひびかせた。

「♪あなたの心臓が波打つたびに 私を呼ばれているみたい
荒れ狂う情熱の波に 私は もう逆らわない
愛することを 拒む理由なんて 欲しくはないわ♪
私はもう迷わない 今すぐ行ってもいいですか? あなたの元へと・・・♪」

密は心の限り、歌った。甘いメロディが、早朝の空に響く。
「何だ・・・・この歌は!何か心地いい・・・?!うっ、
バカな、この 子守唄レベル8『眠りなさい'97』を超える子守唄があるはずが・・・!
・・・先生、びっくりしたぞ!」
「ノー・プロブレム。愛の力は無限大ですわ。
とどめを刺して差し上げますわ。永遠に、愛のあふれるゆりかごのなかで眠りにつきなさい!!

激しいほどに、胸の張り裂ける6000度!!
私はあなたを、焼き尽くすブレイズ!!!」


灼熱の炎。
大地を走り、サボテンを取り巻いた。
そして、火柱がサボテンを包み込む。


「グギャアアアアアァァァァァァ!!
先生が・・・・悪かった・・・・・・ァ!」

そして、サボテンの花が散った。

 

「モサシ様!大丈夫ですか?」
「心配は無用だ、密」
モサシは何とか体を起こし、全身に刺さったトゲを抜きながら、答えた。
密は愛する人に名前を呼ばれ、心をときめかせた。まるで、この世界にたった二人だけしかいないような妄想にかられる。
そして、反射的に体が動いていた。

「うっ!」
「痛いっ!」
二人は同時にうめいた。抱きつこうとした密がモサシに刺さっているトゲに、モロに触れたのだった。

ハリネズミのジレンマ、という言葉がある。
ハリネズミは愛する物の近くによりたくても、寄ってしまえば自らの針で傷つけてしまう。だから、愛するが故に離れてしまうのだ。

密は愛するハリネズミのように、身を引いた。

もっとも、モサシはトゲを抜くのを手伝って欲しかった。



 山火事は止んでいた。
生い茂った木々は、ほとんどが黒い炭と化し、もはや見る影もない。
しかし、例の『怪しげな』洞窟の入口はしっかりと口を開けていた。

「もはや邪魔者はなくなった」
アタルモ=ハッケ教授が言った。

「あら、どなたですか?」密は彼を、いぶかしげに見ている。
「もう私を忘れたのかっ!アンタガ=タドコサ大学生物学教授・アタルモ=ハッケ=アタラヌモ=ハッケだ!」
「・・・そんなことは、割とどうでもいいのだが・・・」モサシは言った。
「『割と』とは何だ!『割と』とは!!」
「・・・エキストラだし。」
「くうぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」

アタルモ=ハッケは、泣きながら引っ込んだ。

 

To be continued.....

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