ドッコイショ王国物語 第五話

『→5km ホンダラマンダの居城 ホンダリアン宮殿』
立て札だった。
旅館の裏手の出口付近に、しっかりとそう書かれていたのだった。
「この辺も、観光地化が進んでいるらしい・・・・」
「どうしてこんなのが、今まで見つけられなかったのかしら?」
「主君が主君だからな・・・」
「でも、部下も部下ですわね」
ドッコイショ王国国王ならびにその部下一同は、人知れずボロクソに言われていた。

立て札に従い進んでいくと、数分もしないうちに巨大な岩作りの建物が見えてきた。
巨山のごとくそびえる頑強そうな城だったが、所々に月や星、さらにはハートマークがついた、雄々しさとメルヘンが融合した城だった。
「悪趣味だな・・・」
モサシは城を見上げて、一言口にした。

「私だったら、恥ずかしくて住めないですわ」

エルフローネ密も城を見上げて言った。
「きっと中にとらわれているモッツァレラーニャリ姫も恥ずかしいに違いない。
・・・行くぞ!」
「はい!モサシ様、
地獄の果てまでも付いてまいります!」

二人は城の入り口へと、早足で向かった。

 

 

「いらっしゃいませー!
ホンダリアン宮殿へ、ようこそ♪」
緊張感が一瞬にして消えうせた。
足を踏み込むや否や、二人を出迎えたのはテーマパークで着るような制服を着た女の子の笑顔だった。
モサシは気を取り直し、言った。
「油断するな、これは罠かも知れん」
その手は刀の柄にかけられている。
「そうですわね。普通の女の子に見せかけて、実は恐ろしい敵なのかもしれませんわ」
二人は女の子に油断なく近づいた。
「お二人様ですね?入館料、300ζになります!」
「何ぃ!金を取るのか?!」
「そういう作戦だったのね!!」
殺意もなく、それどころかむしろ素敵な笑顔で接してくるので、モサシ達は仕方なく300ζ支払って入ったのだった。

 

 

 

「フフフフフフフフフフフ・・・・・
フフフフフフフフフフフフフフフフ・・・・・
フフ・・・・おい、いつまで笑っておればよいのだ!」
「私に聞かれましても・・・ホンダラマンダ様」
『悪役は笑いながら現れる』という自分なりの鉄則を踏まえつつ、ホンダラマンダは自室から外を眺めていた。

「奴らが場内に踏み込んだか」
「はい。いかがいたしますか」

ホンダラマンダの部屋にその知らせを持ってきたのは、入り口で受付嬢をやっていた女だった。今の表情には、あの笑顔は伺えない。

「・・・それでいい。早く私の元にやってくるがいい。
愚かしさという罪に対する罰を、この私が与えてやる・・・
ミヨコ、モアイチョビヒゲの用意をしておけ。」
「・・・?ご自分で始末なさるのではないのですか?」
ホンダラマンダは女の方を向いた。

「奴らは来るさ・・・

だが、それまでの道のりに何もないのでは、彼らもさぞかしさみしいだろうからな」

「・・・かしこまりました。」

 

 

 

城内は入り組んだ造りになっており、ふざけた外観とは裏腹に内部は複雑な迷宮となっていた。
しかし、壁に貼られた観光地のタペストリーやアイドルのポスター、去年のカレンダーなどが城主の性格をうかがわせる。

「はっ、モサシ様、あれ!」

密がふいに前を指差して叫んだ。その方向には、編隊をなして飛来する複数の石造りの人面像があった。いかつい顔をしているが、鼻の下に生えているヒゲがユーモラスだ。
「あれは・・・モアイ?」
密はそれと似たものを海外旅行のパンフレットで見たことがあった。しかし、パンフで見たそれにはヒゲは生えていなかったはずである。
そもそも石像にヒゲは生えないことに早く気が付くべきだと、心の中で自分にツッコミを入れた。
「あの怪しさは、ホンダラマンダの手先に違いあるまい」

モサシは刀を抜いた。モアイの編隊はモサシと密を確認すると、行く手を阻むように弓形に並んだ。

「目標確認、作戦行動開始。
内容・・・敵の殲滅」

モアイの中の一体が機械的な声で言った。

「まあ、モサシ様のセリフより漢字が多いわ」
「感心するところではない」

モサシは身を低くして一気に近づき、斜め上に斬り上げた。その動きは意表を突いたようだったが、刃の切っ先が触れるや否や、火花が散り、刃を弾いた。

モサシは危険を感じ、飛び退いた。

「損傷軽微、任務継続可能。
目標射程範囲内。オメガ・ヒゲランチャー一斉発射」
「了解、攻撃開始」

機械的な声が言った。

途端、モアイ達のヒゲがモサシ達に向けて逆立ち、針のような硬いヒゲが一斉に発射された。

モサシと密は、とっさの動きで避ける。多角的で無駄のない攻撃ゆえに、二人は互いの動きを確認する余裕がない。

「目標、攻撃を回避。再度攻撃に移る」

「攻撃、開始」

モアイの集団は次々にヒゲを放ってきた。モサシはいったん刃を収めると攻撃をかいくぐり、距離を詰めていく。

十分な距離になって、抜き放った。刃が、石のような体に食い込む。
刃を引き、すぐに飛び退く。すぐさま反撃がきた。

(見た目はアレだが、なんと言うマトモな攻撃だ。それにあの硬さ・・・
これまでの奴等とは、まるで違う!)

モサシは四方から迫る攻撃をかわしながら、算段していた。
その時、ヌワンデスが夢の中の特訓で言っていた言葉を思い出した。

 

「雲虎羅独鯉掌は一瞬のうちに敵を倒す技。その予備動作の少なさと放った後の隙の少なさゆえ、機敏に動き回れば集団を一気に倒すことが出来る」

 

実際はもっと余計なことも言っていたのだが、モサシはしっかりと必要な部分だけを覚えていた。

壁を背にすると、モアイの集団に凍りつくような視線を向ける。

モアイ達の動きが、一瞬止まったように見えた。

その時、モアイ達にはモサシから青白いオーラが立ち上るのが見えたかもしれない。

 

モサシは弾かれたように飛び出した。

 

疾風が吹き抜けた。

 

その後、静寂が訪れた。中空に浮いていたモアイ達は、ある者はラジオ体操を100万回させられる、ある者は寒いパーティージョークを100万回聞かされる、ある者は100万人のマッチョ・アニキに迫られる、ある者はタンスの角に小指を100万回ぶつけるという幻想を見せられ、そして全員床に落ちた。

 

 

モサシは肩で呼吸していた。

実際に使ったのは、初めてだった。思ったよりも疲れる。

しかし、効果は確かだった。それに、まだ余力もある。

ホンダラマンダに会うまで、消耗し尽くすわけにはいかなかった。

ふと周りを見渡すと、密がいない。

これまで共に戦い、何度か危機を救ってくれた密がいないのはかなり不安だったが、ここで立ち止まるわけにも行かなかった。

モサシは刀を納めると、怪しげな迷宮の奥へと進んでいった。

 

 

 

「ああっ・・・

モサシ様のそばに私がいなければ・・・

物語が思い切りシリアスになってしまう・・・!」

ホンダリアン宮殿地下一階。

モアイチョビヒゲとの戦闘中、実はさりげなく仕掛けられていた落とし穴の罠にかかったエルフローネ密は、割とどうでもいい心配をしながらのんびりしていた。

というのも、辺りは静かで何も出てこなかったからなのである。

密は、意味もなくスキップをしながら鼻歌を歌いつつ進んでいった。

「ふふふ・・・焦りが見えるわね、エルフローネ密」

突如、密の前に一人の女性が現れた。

「シリアスな物語の展開を、必死になってコミカルに戻そうとしている。

でも無駄よ。

どんな物語でもクライマックスにはシリアスな展開になるものなのよ」

「あ・・・あなたは!

    ・・受付嬢??」

その女は、ホンダリアン宮殿に入ったときに入場料を徴収した、あの受付嬢だった。

「ふふふ・・・改めて、ホンダリアン宮殿へようこそ・・・エルフローネ密。

盛大な歓迎をして差し上げるわ。

この世を地獄と思うほどの、苦痛をもってね!!」

女は、剣を掲げた。薄暗い通路で冷たい光が舞う。女は構えつつ、ゆっくりと距離を詰めてきた。

 

 

「情熱ファイヤー!」

「ぎゃああああああああああああああああっっ!!」

 

女は密が様子見に放った情熱ファイヤーを浴びて、黒焦げになってその場に倒れた。

 

「よ、弱い・・・」

「ほっといて!!」

 

密は、女のそばにしゃがみこんだ。

「何よ、情けをかけるつもり?・・・やめてよ、気軽なやさしさなんて。

あなたも女ならわかるでしょう。

こういう時は、一人にしてもらいたいものなのよ。」

女はその言葉とは裏腹に、密にしがみついてきた。

「そんなのじゃ、ありませんわ」

密はすがりつく女を叩き落すと、女の持っていた剣を拾って満足げな顔をする。

「割といい物、持ってますわね」

 

 

 

モサシは広い円筒状の部屋に出た。

中央にひときわ大きなヒゲの生えたモアイがそびえ、その周りに普通の大きさのモアイが並んでいる。

モサシは、それらを確認すると鋭い視線を向けた。

「ノー、アンサン」

突然、大きなモアイがしゃべった。

「モアイ ト モサシ ッテ、似テルト思ワヘン?」

「・・・・・・・・。」

モサシはノーコメントだった。

「ジャア、モサシ ト メザシ ハ 似テルヤロ」

「・・・・・・・・。」

モサシは殺気で返事をした。

「ワシ、モアイチョビヒゲダス。

チョビヒゲダカラッテ、世界大戦ヲ起コシタリ、トーキー映画ニ出タリ ハ シトリマヘンデ」

モアイはなおも続けた。

「コノチョビヒゲノセイデ誤解サレタリスルンヤケド、本当ハワシハ気サクナイイ奴ッテ言ワレテルンヤ。

人間見タ目デ判断シタラ アカン!」

「だから何なんだ」

モサシはとうとう痺れを切らした。

その時、向かって右側にいたモアイのうち5体が、見事なハーモニーを奏でた。それは見事なもので、しかも一人はボイスパーカッションまでしている。

続けざまに、左側にいたモアイのうち2体がショートコントをしだした。

「お待たせいたしました、お客様。60年物のロマネコンティという名前の牛乳です」
「牛乳かよ!」

モサシはいまいち笑えないと感じた。

さらに、左側の別の6体が組み体操を始め、扇を形作った(国土交通相)。続いて、塩川(財務相)、竹中(経済財政相)と続き、最後に小泉(内閣総理大臣)を形作った(20021031日現在)。

そして残りのモアイたちは卒業式の練習をはじめた。「お父さん!」「お母さん!」「先生、在校生の皆さん!」「僕たちは!」「卒業します!」「卒業します!!」

「・・・意味は?」

モサシは誰にともなく、聞いた。

「モアイ ト 見合イ ッテ、似トルト思ワヘン?」

「黙れ」

剣が舞った。

モサシはもっとも大きなモアイを斬り捨てていた。おどろくほど、あっさり真っ二つになる。斬ってしまえば、物言わぬ石の塊でしかなかった。

同時に、周りのモアイたちのバカ騒ぎも止んでいた。

「この大きな奴が、ほかの奴らを制御していたというのか・・・?」

モサシは床に転がっている上半分のモアイを見下ろした。

 

「だとしたら、失敗作だな」

 

モサシは剣を収め、足を進めた。

 

 

To be continued……

 

 

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