「よく来たな、モサシ=モョモト」
突然、何の前触れもなくホンダラマンダが現れた。

「・・・・・?」

「ふふふ・・・度肝を抜かれているようだな。
よもやこんなにも突然現れるとは思うまい」

「もう少し、前触れとか演出があるものと思っていた」

モサシは驚きあきれつつも答えた。

「フフフ・・・
 

ドアを開けると異臭が漂ってきた。その場所は、明らかに空気が今までと違う。

一歩踏み出せば、完全な闇だった。

目を閉じているのか開けているのかの区別もつかないほどの闇の中、勘だけを頼りに前へと進む。

突然、寒気を感じた。本能が『危険だ』と騒ぎ出す。

その時、暗闇で獣の目のような二つの点が光った。


 

・・・ぐらいの演出がほしかったか?」

「期待は、しておらぬ」

「・・・だろうな」

ホンダラマンダは漆黒のローブに身を包み、フードを被っていた。暗闇のフードの中からただ目だけが光っていた。

「モッツァレラーニャリ姫は、無事なのだろうな?」

「フフフ・・・あの娘のことか」

ホンダラマンダは首を後ろに振った。その向こうには、白いドレスをまとった少女が鎖につながれている。

Hello! I like eggplant!

Dead or alive!」
少女は突然叫んだ。

「・・・は?」
「Today is cloudy-―――――――――――!!!」

「フフフ・・・

モッツァレラーニャリは我が呪いによって、英語しか話せなくなってしまったのだ!」

ホンダラマンダは、さも誇らしげに語った。

「ア・・・アホらしい。

しかも、まったく意味をなしていないではないか・・・」

モサシはもはやシリアスなクライマックスは期待できないと感じた。
 

「呪いを解き姫を助けるには、私を倒すしかないぞ!

どうする!モサシ=モョモト!!」

「言わずもがな!

観念せい、ホンダラマンダ!」

「来い、モサシ!」
 

ホンダラマンダの周りに、色とりどりの禍々しいオーラが渦を巻き始めた。圧迫感が増し始める。

モサシも、呼応するように気を発した。

二つの異質な気が、ぶつかり合う。

「虹色怪光線ビャ〜〜〜〜〜〜〜!!」

ホンダラマンダは両手をかざした。指から怪光線が発射され、モサシを狙う。

なんてマヌケなんだと思いつつも、モサシは殺気を感じて身を反らす。

「虹色怪光線ビャ〜〜〜〜〜〜〜!!」

どうやら言わなきゃ出せないらしい。

再び怪光線が、モサシを襲った。

モサシは一か八か、身を低くして突っ込んだ。怪光線を放射している間はほかの動作が出来ないと見越してのことだった。
 

「甘いぞモサシ!虹色怪光線ビャ〜〜〜〜〜〜」

光線が、顔面から放射された。モサシは横に避けようとして、左肩に光線を浴びてしまった。

火花が、派手に上がる。
 

モサシは一旦体制を崩した。しかし、すぐに持ち直す。

「この程度で、俺は殺せん」

モサシは踏み込んだ。ホンダラマンダはすぐさま両手を上げ、迎撃しようとする。モサシは攻撃位置を予測し、跳んだ。

上空から、斬り降ろす。一筋の光が走り、ホンダラマンダは真っ二つになった。
 

しかし、手ごたえは無い。

斬られたホンダラマンダはボロ布のように床に落ち、オーラが離散した。

まだだ、とモサシは思った。壁を背にし、構えなおす。

突然、天井から黒い何かが落ちてきた。

それは鈍い音を立てて床に激突する。頭を痛そうにさすりながら立ち上がったそれは、ホンダラマンダだった。
 

「・・・・頼むから」

「す、すまん・・・・」

ホンダラマンダは頭を掻きながら、バツが悪そうに立ち上がった。


 

再び、七色のオーラが立ち上るのがモサシには見えた。

モサシは無理矢理仕切りなおす気だ、と感じたが、この際決着が付けられればそれでいい、と思った。

ホンダラマンダは両手を広げた。オーラが両手に集まっていき、交じり合ったそれは光り輝く剣を形作った。

「こっちの方が貴様もやりやすいだろう。

さあ、最後の決戦だ!」

「望むところよ!」

ホンダラマンダは二本の剣を舞わしつつモサシに迫った。

気迫、剣技、一撃の重み、いずれも総大将にふさわしい実力だった。一撃一撃が荒れ狂う稲妻のように襲ってくる。モサシはそれでも一歩も引けを取らずに、互角に切り結んだ。

刃を合わせること五十回ほどになったころ、モサシは異質な殺気を感じて飛びのいた。

「虹色怪光線ビャ〜〜〜〜〜〜〜!!」

顔面から怪しい波長の光線が襲い掛かる。モサシはかわしきれず、左腕に光線を浴びてしまった。

モサシは片ひざを突いた。構えが解けるとともに、ホンダラマンダがとどめを刺そうと剣を振り上げる。

モサシは一瞬の判断で剣を鞘に戻した。
―我が心は氷 我が身は刃―
一筋の光が走った。同時に、光が軌跡を描いて床に落ちた。

モサシの居合斬りが、ホンダラマンダの右腕を剣ごと斬り落としたのだった。

ホンダラマンダは後方に飛んだ。

「・・・さすがだな」

オーラが斬られた腕に集まっていった。すると腕が斬られる前と同じ形に再生し、光の剣も元通りになっていた。

(再生したか・・・いや、

腕など最初からなかった、か)

モサシは右腕のみで剣を構えた。

「左腕の傷が、効いているらしいな。片腕だけでどこまで戦える?」

モサシは攻撃される前に打ちかかった。

肉薄するモサシの眼前に、一筋の光が横一文字に走った。ホンダラマンダの斬撃が、モサシの菊正宗をまっぷたつに斬ったのだった。

その時、モサシの眼光がホンダラマンダの目を捉えた。ホンダラマンダの動きが一瞬止まったのを、モサシは確認した。

身をかがめ、相手のふところに跳びこむ。そして、突き上げるような掌底の一撃を放った。

途端、ホンダラマンダの前に一人の男が現れた。
「不可能という言葉は、フランス語にはないっ!」
その男は戦艦のへさきに立ち、兵士たちを鼓舞していた。男の乗っている船の後ろに、何千という大艦隊が従っている。

反対側からも大歓声が響いた。見れば、そちらにも大艦隊を率いる男がいる。

「勝つか、さもなければウェストミンスター寺院だ」

男は兵士たちにそう言った。

その言葉とほぼ同時に、双方から大規模な砲撃が始まった。ホンダラマンダは前後からの大砲撃に巻き込まれるが、大笑いして言った。

「雲虎羅独鯉掌か!そんなもので私を倒せると思うな、モサシ!」

ホンダラマンダの体から、凄まじいオーラが放出された。渦巻くオーラのうねりは艦隊を飲み込み、飲み込まれた戦艦は次々と大破していく。

そしてそれは、「不可能はない」といった男の艦も飲み込んでいった。

「さらばわが子らよ!・・・私は諸君らをこの腕に抱きしめたい。せめて、この国旗に接吻させてもらいたい」

それが、彼の最期の言葉となった。

いつのまにか、ホンダラマンダの眼前から大艦隊は消えかわりに大きな川が流れていた。

その向こうには、黄金の鎧に身を包み白い馬に乗った武将とそれに率いられる大群の兵士たちがいる。

「犀は、投げられた!」

武将は剣を掲げ、兵士たちに言った。そして、川に馬を乗り入れる。

「小ざかしいわ!

虹色怪光線!ビャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

怪しい波長の光線が間抜けな効果音とともに軍隊を蹴散らしていく。

そして、武将もそれを浴びて火花を散らしながら落馬する。

「ブルータス、お前も・・・か・・・」

彼は死の間際に、そう言い残した。

ホンダラマンダは燃え盛る建物の中にいた。川は、いつのまにかなくなっている。

その中で何かを覚悟した表情の男が、手に刀を持って上半身裸であぐらをかいて座っている。

男は重々しい声で言った。

「人間50年、下天のうちを比ぶれば、夢まぼろしの如くなり。ひとたび生えを得て、滅せぬ者のあるべきか・・・・・・・・・・・・・

「死ぬのならば一人で死ね。私はこの程度のことで死にはせん!」

ホンダラマンダは袖を振るった。衝撃波が起こり、炎を吹き飛ばすとともに壁に穴をあける。

ホンダラマンダはすぐさまその穴から脱出した。程なく、建物が全壊し、全焼した。
 

その後も、目まぐるしく場面が変わった。

「われわれに自由を与えよ、さもなければ死を与えよ!」

「侵略すること火の如し、動かざること山の如し!」

「どうした・・・味方の砲撃の音が聞こえないぞ!」

「我らは一つ、栄光の銃士!」

「屁のツッパリはいらんですよ!」

「セクスィーーーーーーーーーーーーーーーービィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーム!!」

「さ〜おや〜〜〜〜〜 さお〜〜〜〜〜だけ〜〜〜〜〜♪」

「くっしゃみ一つで呼ばれたからにゃ〜 それが私のご主人様〜よ〜♪」

「生きるべきか死ぬべきか。それが問題だ」

「明日は明日の、風が吹く・・・」

「また、つまらぬ物を斬ってしまった・・・・・・」

「君達!君達がいて、ボクがいる」

「これにて一件楽ちゃ〜〜〜〜く。カッカッカッカ」


 

「やかましいわーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

ホンダラマンダは全ての幻想を吹き飛ばした。

「モサシ!何でもかんでも見せればよいというものではない!

全部の元ネタがわかったなら、それはそれですごいがな!」

「何が見えるのかは、俺にもわからんのだ」

「フフフ・・・切り札の雲虎羅独鯉掌も私には効かぬ。

白菜漬けたな、モサシ!」

「は?!」

「違った!万策尽きたな、モサシ!

一気に葬り去ってやるぞ!

眠れ、愛も情けも全く無い『哀』のラニーニョの嵐の中で!!!」

ホンダラマンダはおびただしい量のオーラを放出した。あたりの気温が急激に下がり、ダイヤモンド・ダストが発生する。

モサシの体には霜が降りはじめていた。体力は奪われ、血が凍っていき、体の自由が効かなくなる。

しかし、その視線だけは鋭さを失わなかった。

「その闘志も、やがて我が超低温の前に屈する。

意識のあるうちに言っておいてやろう・・・・

貴様もまた強敵(とも)だった、と・・・・!フッ、我ながら格好いいぜ!」

全く聞く余裕の無いモサシはさておき、ホンダラマンダは一人でニヤケていた。

モサシは片ひざをついた。
もはや目の焦点すら合っていない。

(目が、かすんできた・・・もはや、これまでか。

密、国王陛下、皇后陛下、姫君、・・・・・・・・・・すまぬ)

口にこそ出さないが、心の中でそう思った。

それが彼の最期の記憶になった。・・・・・・はずだった。

その時、爆音が響き部屋全体が揺れなければ、そうなっていただろう。

「何だ!?」

ホンダラマンダは爆音が起こった方を向いた。

そこには頑健なはずの壁に大きな穴が空けられている。

そこから煙がもうもうと上がっている。その向こうから、一つの人影が姿をあらわした。

 

「・・・・お前は・・・・・!」

 
 
 

To be continued…………
 


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