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■デジクリトーク

ちゃんこ番の空虚感。

白石昇


●ちゃんこ番の空虚感。

 白石昇です。一ヶ月以上前にこのデジクリで、今やっている泰日翻訳言語藝作品の下訳が完了したとここで皆様にお伝えしたわたくしなのですが、その一部を何とか理解できるにっぽん語にするまでにことのほか時間がかかってしまいました。ええそれはもう重々時間がかかってしまったのです。

 と、いうかその作業がことのほか時間がかかることがやりだしてすぐに明らかになったので、すねてダラダラしていたというのが実際のところなのですが。

 そもそもわたくしが終了した、とほざいている下訳、と言うものが一体どの段階をもってして下訳、としているのかさえ本人自ら怪しく感じられてきた今日この頃です。

 あ、どうでもいいですけどなんか今日天気がいいのでもう雨期明けたのかもしれません。もしかしたらダラダラしていたのは雨期のじめじめした気候のせいかもしれませんね。

 というかそういうことにしてしまうとダラダラしていた張本人としてなんとなく気持ちが楽になるのでそういうことにしていただくわけにはいかないでしょうか?

 というわけでとりあえずその完了した下訳、と臆面もなくほざいていた微妙に意味不明であるJISコードの羅列のうち、一章だけがようやく何とか読めるにっぽん語になりましたので、とりあえず市場出荷に向けて動いてみることにしました。ええそれはもう滞りなく動いてみることにしたのです。

 しかし今までにこのようなことをした経験がないのでわたくしはとりあえず何をしていいのかよくわかりません。しかしかといって何もしなければ半年以上も収入無くダラダラとやってきたおそろしくチマチマした翻訳作業が全部無駄になってしまいます。
 
 
 

 言ってみれば一人でちゃんこ鍋大量に作ったにもかかわらず兄弟子達が食ってくれない新入り力士のような空虚感を味わうことになってしまうです。故にやるしかないのです。

 とりあえずいろいろと考えてみた結果、まずは出版社様とのコンタクトが必要ではあるまいか、とわたくしは判断いたしました。経験がないなりにもわたくしは世の中のスジとして一般的な翻訳言語藝作品が市場出荷されるプロセスというものを考えてみました。ええそれはもうよんどころなく考えてみたりしたのです。

 1.翻訳作業
 2.著者との契約
 3.出版業者のセレクト
 4.出版業者との契約
 5.出版
 たぶんこんな感じだと思います。たぶんこれが一番スジが通る物事の運び方かと。しかしわたくしは次のようなプロセスを経ることに致しました。せっかくの市場出荷なので、ちょっと違うプロセスを経てみたかったのです。
 1.翻訳作業
 2.原本出版業者でのプレゼンテーション
 3.著者及び原本出版業者との契約
 4.編集作業
 5.出版
 とまあこんな感じで市場出荷を進めていこう思ったのですわたくしは。これはどういう事かと言いますと要するに、にっぽん語版の編集までを一人で執り行い、オリジナルを出している出版社で印刷販売していただこうと思ったわけです。

 ちなみにこのプロセスを経ることによって発生すると予想される利点難点その根拠等は以下の通りです。



利点

1.安いコストで出版でき、安い商品をお客様にお届けできる
(根拠:泰日両国の物価及び人件費の違い)

2.泰国の企業に外貨が入る
(根拠:通常のやり方であれば、出版業者が日本の企業となりますので、著者以外の泰国籍の人間に利益をもたらすことはありません)

3.翻訳者の美意識が尊重される
(根拠:編集者がいないのでそれはもう当然)



難点

1.わたくしの仕事が増える
(根拠:DTP含む編集作業が全て翻訳者の手に委ねられます。だってわたくし以外ににっぽん語読める人いないんだもん。いえーい)



 というわけで、ここで言う出版業者様、というのは日本の出版社ではありません。翻訳の元となったテキストを出版している企業のことです。そういうわけでわたくしはとりあえず出版業者様に連絡したのであります。

 知らない人に自分からアプローチなんかするのは大和撫子として非常に恥ずかしいのですが、事情が事情だけに致し方ありません。しなければこの半年以上の地道に引きこもっていた時間が全て無駄になってしまうのです。わたくしは意を決して受話器を握りました。ええそれはもう余すところなく握ったのです。

「RRRR」
「はいもしもし」
「あ、出版社でアルか? 違うか?」
「そうですけど」
「編集者いますか、編集者、こんな名前の。わたし日本人よ、おたく出す昔本、したよ翻訳、にっぽん語。みせたいよ翻訳」
 
 
 

 長期に渡り引きこもっていたため、わたくし、電話での泰語会話がボロボロです。

 一応電話番号を聞かれ、担当者様から折り返し電話するから、と言う御言葉をいただきましたが、一週間たった今、いっこうに電話などかかってきません。
 
 
 

 怪しい日本人がイタズラ電話掛けてきたと判断された可能性大です。

 電話であんなに吃りまくりの日本人がスラングいっぱい一〇〇頁以上の泰語本を訳したなどど誰が信じるでしょうか? いやわたくしなら信じません(反語)。ええそれはもうよんどころなく信じないと言っても過言ではないでしょう。

 と言うわけですごろくスタートひと振り目のサイコロでいきなり振り出しに戻ってしまいました。とりあえずむこうから電話がかかってくることはまずないと思いますので次の手を考えねばなりません。つづく。
 

初出・【日刊デジタルクリエイターズ】  No.0970 11/11/08.Thu.発行

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