すっかりダレてて配信サボっておりましたごめんなさい。秘密会合に出席したりいろいろと用事があり五日間で四回も上京していたのです。それですっかり生活のリズムが乱れてしまいました。まあ月末だというのに気持ちの切り替えがきかない自分のせいなのですが。

　さて、そうして乱れたリズムを何とか是正しようと、おとといは朝からちゃんと翻訳作業に伴う辞書データの入力などをはじめておりました。しかし、作業をはじめるとすぐにドアをノックする音がします。そしてドアの向こうから男の人の声がするのです。

　うちのアパートメントは居住している人間だけに鍵が渡されていて、その鍵にキーホルダーのような鉄片がつけられています。住民が建物の中に入る際には、まずその鉄片をしかる場所に挿入し、電子的に施錠しないと入れないようになっているのです。

　そういうことなので時折、鍵を持たずに外に出てしまい、住民が閉め出されている場面をよく見かけたりします。そういうときに皆様が私を見つめる目は、いつものような、この日本人一体いつも部屋に閉じこもって何してやがんだ、といったような疑惑を含んだ視線ではありません。

　ああいいところに来てくれたあなたは魔法の鍵を持つ神様です困ったあたしをはやく建物の中に入れて下さい、というような視線なのです。そういうときのわたくしはなんだか地域社会の役に立っているような気がして嬉しいのです。冷静に考えてみればそのくらいしかこの地域のお役に立てないんですがわたくしは。

　しかし、最近なんか問題があったのか、泥棒が入る恐れがありますので勝手に鍵を開けて部外者を入れてあげてはなりません、と言う貼り紙が貼られたのです。間違いなく部外者の出入りには管理人さんも神経質になっているようです。
 
 
 

　そんな最近の状況にも関わらず、ドアの向こうからノックと男の声。

　わたくしはドアの向こうから聞こえた声に首を傾げました。金曜日の午前中です。工場地帯の真ん中に位置するこのアパートメントにおいて、金曜日の午前中にいきなり建物に入ってきてわたくし部屋のドアをノックすることが可能な人間など想像できません。

　他の部屋に住んでいる男は大部分が例外なく工場に出勤してしまっておられるし、いらっしゃるとしても夜勤明けで熟睡しておられる時間なのです。

　つまり、そういう風なかたちでわたくしの部屋をノックできる人間は、管理人室にいる管理人さんによっぽど信頼されているか、もしくは圧力をかけることの人間だと言うことです。

　もしくはごく少数の例外としてアパート管理人という職種の人々に取り入ることにかけては天才的な 犬巻のお姉さんしか考えられませんが、声は明らかに男の声なのです。

　わたくしはおそるおそるドアを開けてみました。するとそこには何度かお会いしたことがある地元の有力者の手下様が立っていらっしゃいました。
 
 
 

　ボスがお呼びです、と手下様はおっしゃいました。下で待ってますからすぐに服を着て降りてきて下さい、と事務的におっしゃられてわたくしに背中を向けられました。問答無用です。ほぼ強制です。

　わかりました、と答える間もなくわたくしは服を身につけました。地元の有力者に呼ばれたのですから、問答無用で行かねばなりません。それに何より最近ダレていたわたくしには断る理由などないような気がしたのでした。

　つづく。