四次元への扉へ戻る  

 四次元半正多胞体

 三次元の半正多面体に対応する四次元半正多胞体の話である。このページの内容は以下の博士論文に頼り切っているので、もっと知りたい方は、主任教授である京都大学人間環境学研究科の宮崎興二教授に連絡すると良いであろう。

  石井源久。多次元半正多胞体のソリッドモデリングに関する研究。1999年

 立体のカラー写真(CG)が美しく、ながめるだけでも楽しい。3〜6次元の、アルキメデスの半正多面体のサブグループに相当する「積正多胞体」の図が網羅されている。7次元はワイヤーフレームと呼ばれる線画である。
 なお、本論文の内容を含めた、多面体の図が満載の書籍が京都大学学術出版会から近々出るとの情報がある。

▼上述の本は出版された。(2005-6-29追記)
  宮崎興二、石井源久、山口哲。高次元図形サイエンス。京都大学学術出版会、2005、ISBN4-87698-645-2

● 三次元の半正多胞体(半正多面体のこと)を石井氏は以下のようにまとめている

<<A>> アルキメデスの立体
 13種の何となく丸く見える半正多面体である。列挙すると、「切頭4面体(3,6,6)」「切頭立方体(3,8,8)」「立方8面体(3,4,3,4)」「切頭8面体(4,6,6)」「切頭立方8面体(4,6,8)」「菱形立方8面体(3,4,4,4)」「ねじれ立方8面体(3,3,3,3,4)」「切頭12面体(3,10,10)」「12-20面体(3,5,3,5)」「切頭20面体(5,6,6)」「切頭12-20面体(4,6,10)」「菱形12-20面体(3,4,5,4)」「ねじれ12-20面体(3,3,3,3,5)」。カッコ内は各頂点に集まっている正多角形の角数を順に並べたものである。
 三次元積正多胞体は5つのプラトン立体(正多面体)と、上記の13のアルキメデス立体の中から2種の「ねじれ」立体を除く11種(単純半正多面体)の、合計16種の立体である。積正多胞体は系統的に座標計算でき、しかも高次元でもその計算法が通用するのが、論文の骨子である。
 蛇足だが、石井氏によるCGがとても美しい。色分けが完璧であるだけでなく、面に厚みを付けているのでタイル張りのように見える。

<<B>> アルキメデスの角柱
 正多角柱のこと。側面は正方形の帯である。上下の「ふた」の正多角形は無限にあるから、正多角柱も無限にある。

<<C>> アルキメデスの反角柱
 反正多角柱のこと。側面は正三角形の帯である。上下の「ふた」の正多角形は無限にあるから、これも無限にある。

<<D>> ねじれ菱形立方8面体
 いわゆる「ミラーの立体」。菱形立方8面体の帽子を45°ねじった感じ。

▼ 以下の<<E>><<F>>は定義の話であり、図形を付け加える話ではない。

<<E>> 単純半正多面体

 アルキメデスの立体13種から、ねじれ立方8面体(変形立方体)とねじれ12-20面体(変形12面体)を除いた11種の半正多面体を、単純半正多面体と名づけておくと後々の議論がやりやすい、とのこと。

<<F>> 準正多面体

 辺の周りが同じ状態である半正多面体、つまり立方8面体と12-20面体のこと。

● 四次元半正多胞体

<<A>> 単純半正多胞体

 石井論文のテーマの一つ。アルキメデス立体の中で、左右対称な11種の半正多面体に相当する。39種ある。ちなみに、四次元正多胞体は別項で述べたように6種ある。
 概要すると、正多胞体に対して切頭操作を次々に繰り返してゆくと得られる四次元の凸立体である。アイデア自身は単純に見えるが、これでこの群の既知の立体が網羅されてしまうのと、美しい図が添付されている(つまり座標計算ができる)のがすばらしい。
 これら単純半正多胞体の表面は、おなじみのアルキメデスの立体(単純半正多面体のみ)と正多角柱が覆っている。正多角柱では、三角柱、四角柱(立方体)、五角柱、六角柱、八角柱、十角柱が見られる。立方体を除くと、正四面体、正八面体、正二十面体の3種の対称性に合致しないのがおもしろい(正八角柱は微妙)。

<<B>> 4次元正多面柱、半正多面柱

 アルキメデスの角柱の4次元版。三次元の正多面体を4次元空間内で垂直方向に辺の長さだけ走査するとできる。同様に、三次元の半正多面体を走査しても、四次元半正多胞体の定義に合致するものができる。上述のように、三次元の半正多面体は無限にあるから、この群の半正多胞体は無限に存在する。

<<C>> 4次元正(m1, m2)柱

 四次元以上に現れる独特の半正多胞体。要約してしまうと、以下のように言葉のサラダになってしまい、4次元に慣れていない人には訳が分からなくなる。変人扱いされたくなければ、最初から順を追って説明するしかない。本稿でも別のページで改めて詳説したい。
 正(m1, m2)柱は、m2個の正m1角柱と、m1個の正m2角柱を連結したものである。たとえば正(5, 3)柱なら、3つの正五角柱と5つの正三角柱を連結する。この場合、まず正五角柱を正五角形の面で連結する。端と端をつなぐと、円環状になる。この円環の側面は正方形が5個と3個ずつ縦横につながって二次元のシート状になっている。この五角柱3つによる円環状の(3次元)立体を四次元球の球面上に頂点が乗るように配置する。さて、この円環のすぐ外の空間には正三角柱が5つ円環状につながったものがすっぽりと収まるはずである。なぜなら、後者の円環状の図形の側面にも正方形が3個と5個ずつつながっているから。二つの円環は互いに絡み、直交している。これらの角柱を表面とする四次元図形である。

<<D>> アリシア胞、コンウェイ胞

 捩れ24胞体とも呼ばれるアリシア(Alicia)胞は、120個の正四面体と24個の正20面体を連結した立体である。24胞体の体の位置に正20面体が、頂点の位置に24の正四面体が、残りを96の正四面体が埋めている。もちろん、これは図形の表面の様子である。
 コンウェイ(Conway)胞は、300個の正四面体と20個の正反5角柱を連結したものである。図を見ると、10個の正反5角柱が円環をなし、それが2つ球面上で絡んでおり、それらの間隙を正四面体が埋めているように見える。数から言うと、正四面体の中で200個は正反5角柱と面で接し、残りの100個は辺のみを共有している。
 この2つは例外的な立体で、捩れ操作と関係しているようであり、何かまだ四次元には半正多胞体の可能性が残っているのかもしれない。なお、名前は人物名であり、発見者にちなんでいる。

<<E>>  準正多胞体。上述の<<F>>と同じく、定義の問題である。

● 五次元以上の半正多胞体

 四次元の<<A>><<B>><<C>>に相当する立体がさらに高次元にも存在する。

● まとめ

 以上を要約すると、つまり石井氏によれば、現在求められている正多胞体と半正多胞体の数は、以下のようになる。

次元   半正多胞体
積正多胞体 その他の
半正多胞体
正多胞体 単純半正多胞体
3 5 11 3
4 6 39 2?
5 3 47 不明
5〜 3 2^n + 2^(n-1) + 2^((n-1)/2) - 5 不明
正多角柱や正(m1, m2, ... , m(n-2))柱などの無限列は除く。^はべき乗を表す

● ソリッドモデリングについて

 論文の題名の中の「ソリッドモデリング」という言葉が気になった方もおられるだろう。
 ゲーム機や機械設計用のOpenGLの立体はポリゴン(多角形)によるもので、表面モデルが基になっている。比較的高速に計算でき、かつ、細部は不自然であるが、何となくそれらしい表示ができるので、現在の主流といってよい。しかし、中身を考慮しないので面が重なろうとお構いなしに通過して行く。
 立体を立体として扱うのがソリッドモデリングで、たとえば2つの立体が重なった場合、きれいに繰り抜くなどの操作が可能である。ソリッドモデリングでは、元になる球や立方体や四面体などの「プリミティブ」と呼ばれる図形にANDなどの集合演算を使って立体を表現する。石井氏の論文では凸多胞体しか扱わないので、n次元半空間というたった一つのプリミティブですべてを表現している。なぜか論文にはストレートな表現が無いのだが、要するに、積正多胞体とは半空間の集合積で表される立体という意味であろう。単なる勘だが、四次元星形正多胞体もソリッドモデルで正しく扱えると思う。
 ここまで簡単であれば、ソリッドモデリングであってもポリゴンモデルと同じく、ハードウェアアクセラレータが構成しうるのではないだろうか。

2002年8月26日 岡田好一