2003年4月21日 17:32:25
念願のスピーカを買った。
今までは、どこかのオーディオコンポの一部らしきスピーカを流用していたのであった。もちろん、性能はそこそこなので、音量の小さいうちはいいが、少し負荷をかけると良い音とは言い難くなる。
そこで、長らく機会をうかがっていたのだが、オーディオ機器というものは一度買ってしまうと数年、場合によっては十年以上付き合うことになるので、それなりの覚悟が必要である。
とはいえ、ここ二年程かけて、アンプから始まってチューナ、DVDプレーヤと手に入れたので、残る大物はスピーカくらいになってしまっていた。そこで、今年の初め辺りから、パンフレットを集めて模様眺めをしていた訳である。
● DENON SC-T555SA-M
で、またもや大阪の日本橋にでかけ、オーディオ機器もまあまあ置いてある店に入った。ほとんど衝動買いに近いので、1セット5万円以上使う気は無く、聞き比べして少しでも良いと思ったら買おうかなと思っていた。
一応、クラシックやジャズも聴くと店員に伝え、視聴することにしたが、例によって「本店お勧め」の札がでかでかと貼ってあるスピーカについつい目が行ってしまった。それはDENONの555シリーズで、トールボーイ型とブックシェルフ型を聞いてみた。トールボーイは、かなり低音まで音が出ているように思えたし、カタログ値の35Hzだったかを覚えていたので、あまり他を聞くことも無く、それに決定してしまった。
ちなみに、ブックシェルフの方は低音が出ていないように思えたのだが、よくよく考えてみたら、そのスピーカには背面にも低音用のスピーカとバスレフ孔があるので、狭い店内にびっしりスピーカが並んでいる状況では不公平な聞き方だったのかもしれない。とはいえ、自宅の置き場所の背面はものすごく左右非対称なので、やはり全ての構成要素が前面にあるトールボーイで良かったと思う。
型番はDENON SC-T555SA-Mといい、あとでWebで調べてみたら、2000年9月の発表の機器である。そうはいっても、2002年の人気でもまずまず上位に入っているので、ベストセラーのスピーカなのであろう。
● 自宅に置いてみたら
さて、一般にスピーカの感想は慎重にならざるを得ない。スピーカは音波を空中に放出する装置であり、耳に届くまでの空間が音に重大な影響を与えてしまうからだ。
設置した居間は、お世辞にもリスニングルームに適しているとは言えない。部屋が左右非対称だし、家具は無造作に置いてあるし、壁や天井は音波を全反射しそうな材質である。窓はかなり良く閉まるが、外の音を締め出すほどではない。
おまけに、恥ずかしながら本格的なスピーカを単体で買ったのは、これが初めてである。従来はコンポやセットの一部であったり、簡易型のスピーカであった。部屋がこのありさまなので、本格的なスピーカはもったいなかったのである。
本スピーカは、もともとマルチチャネルシステム用に設計されており、直接音が大切なので、部屋の都合はかなり割り引けるのがありがたい。
安心して聞ける。これが最初の感想である。店で見た感じよりも、意外に重く大きかった。細身だが文字通り高く、同じ体積の通常の比率の箱だとかなり大きく見えると思う。少々音量を大きくしても、音が安定している。マルチチャネルシステム用だけあって、左右の音の定位は抜群である。
やはり低音がかなり出ていて、今まで聞いていた音楽に別の表情が加わった。
取扱説明書では、再生周波数が33Hz〜120kHzとなっている。33Hzといえば、通常のスピーカーではとても出せない帯域である。ちなみに、いままで使っていたスピーカは16cmフルレンジで65Hz〜20kHzとのこと。SC-T555SAは12cmのウーハが2個駆動されているので、面積ではほぼ16cm相当になる。ツィータは2.5cm+2cmなので、「ウーハ」がかなり高音まで受け持っているはずだ。
ちなみに、英語の「tallboy」は足つきの西洋家具の意味らしい。コンパクトだが床におけるからだろうか。
● 低音部
ピアノの中央のド(C4)の音高は約256(=28)Hzと覚えておくと便利である。一オクターブは周波数で言うと2倍であるからだ。実際はA=440Hzの場合、C4≒261.6Hzなので、1/3半音ほどのずれがある。面白いことに、医学用の音叉は128Hzなど、2のべき乗の周波数のようである。
なお、時報のポポポホーンはラの音で、440Hz(A4), 440Hz, 440Hz, 880Hz(A5)である。(カッコ内は音名である)
ピアノの鍵盤は通常88鍵あり、A0〜C8の7オクターブ強の音域をもつ。C1が(律儀に平均率を守っていれば)約32.7Hzだから、この辺りまでの音が再生されていることになる。ちなみに、普通の4弦のコントラバスの最低音はE1で約41.2Hzである。大きいパイプオルガンだとC0まで出せるようで、約16.35Hzになる。人間の耳は20Hz未満は音として感じないと言われている。
ひとしきり音楽を聴いたあと、手元のシーケンサで低音の様子を見てみた。このシーケンサ、E-1≒10HzからE8≒10kHzの音が出せる。音色にサイン波があるのでそれに合わせ、スピーカのサランネットを外して、コーンの動きを見てみた。「音」は、C0のすぐ手前から弱くなりだし、低音に向かうとすぐに聞こえなくなる。このあたりでは、バッフル孔から激しく空気が出入りしている。E0に向かって周波数を下げていっても、ウーハのコーンは動き続けている。ちなみに、接続しているアンプは10Hzまでの帯域がある。カタログの33Hzというのは、聞こえる(あるいは空中に音波を放出する)限界であって、コーンの動きの限界でないことが分かる。
したがって、楽音についてはよほどのことが無ければ低音は心配ない。コンサートに行くと、大太鼓などは耳で聞こえると言うよりも、お腹か胸に響いてくるのだが、さすがにそこまでは、このスピーカでは無理である。しかし、音の部分はしっかりしていて、耳には大太鼓らしく聞こえる。
● 高音部
高音は10kHzまでしか調べられないが、良く出ているようである。DVDプレーヤは44kHz(CDだと20kHz)、アンプは100kHz、スピーカは120kHzまで対応とのことである。しかし、10KHzを越える部分は現状ではソースがほとんど無いであろう。手元のクラシックのCDはアナログ時代のオリジナルが多くて超音波部の特性は当てにならないし、ひどいのになるとディジタル加工のせいか10kHz以上がばっさり落とされているようなCDもある。
左右方向の定位は抜群で、オーケストラが鳴り響いていても、楽器が分離して聞こえる。ただし、頭を左右に数センチずらせても音像が変化するのには驚いた。10kHzの音だと波長が3cm余りであるから、何となく分からぬでもない。
これはCDでの現象であって、ノートパソコンをつなぐと音像変化はゆったりしている。良い音には聞こえるのだが、多分8kHz辺りから上の音はほとんど出ていないのか、それとも、何かの処理で音の位相がめちゃくちゃになっているのだろうか。
いくら高音が聞こえる人でも、20kHz以上は音として認識できないそうである。しかし、超高音も音質を左右していると言う意見もあるので、ぜひ自分の耳(?)で確かめてみたいものである。
● 音楽を聴いてみた
さて、恥ずかしながら真っ先に聞きたくなったのはゲーム音楽である。電子音源を縦横に駆使して、サービス精神満点の作りであるからだ。MIDI音色の現実の楽器を想起すると、常識では考えられないような音の使い方がされることもあり、それでも楽しい音楽に聞こえるから不思議である。
結果は、当然とはいえ、いつもヘッドフォンで聞いていたのと同じである。従来のスピーカでは低音が出ないのでトーン回路で増強していたのだが、その通常のトーン回路は外している。音楽もそうだが、効果音には極低音も含まれていて、ずいぶん聞こえるようになった。もともとの音楽がキッチュな作りになっているので、「高級オーディオ」の恩恵は音域が広がったことくらいである。しかも、高音はあてにならないのが多いので、こちらはあまりありがたくない。
次に、上述のシーケンサ(MIDI音楽のエディタ+演奏装置)の音楽を聴いてみた。ごく普及タイプのシーケンサで、買ったときにキャンペーン中だったので、ビートルズなどの音楽ソフト(MIDI集)が付いていたのである。ヘッドフォンで聞くと、すばらしい演奏に聞こえていたものである。
こちらは、音が定位しすぎで、妙に聞こえる。つまり、現実の楽器なら幅があるので、固有の音色の広がりがあるわけだ。ところが、シーケンサの音は実楽器の単音を再生しているので、個々の音は「点音源」になってしまう。これが何と、聞き分けられてしまうのだ。FM音源等の人工音なら妙には聞こえないと思う。このシーケンサの音源にも人工音がいくつも入っているので、もしそれで演奏されていたら奇異には聞こえなかったと思う。
CDはクラシックが主体である。最初にも述べたが、このスピーカ、高低・強弱、どんな音でも出してくれそうな安定感が良い。安いスピーカでも聞こえているとは思うのだが、しっかりしたスピーカだと向こうから耳に飛び込んでくるようである。
DVDも同様だ。細部まで音がしっかり聞けるようになった。このスピーカで聞けない音は、もともと録音されていないのであろう、という確信がもてるのがよい。情けない話だが、自分の耳の欠点まで分かるのがつらい。
いまのところ、驚きは少ない。もともとのスピーカも、それなりにしっかり音を出していたということだ。
もっとも、驚きがあれば、スピーカに何十万円も払っている人からやっかみが聞かれそうである。他の機種を聞き込んでいないので、これ以上なんとも言いがたいのが残念である。
しかし、聞き込めば新たな発見があるかもしれない。