2004-01-12
今回の正月休みは前のページに書いた8bitパソコンエミュレータ、MSX PLAYerで遊んでしまった。ゲームもそこそこに、BASIC等で小さなプログラムをあれこれ組んで反応を見るわけである。さて、そんなことをして、なぜ楽しいのだろうと自問してみた。
● MSX-BASIC
BASICは私が大好きな計算機言語の一つである。どこが良いかというと、まず、基本データが数値と文字列の2種類しかない点である(細かいことを言わなければ)。複合データは0から始まる整数添字の配列しかない。読みにくい数式は、そもそも書けないし、命令もごくシンプルである。それにもかかわらず、生産性が高く、何十行かのプログラムが驚くほどの働きを見せる。
後発組ということか、MSXのBASICはよく考えられており、ほとんど文句の付けようがない。True BASICなど、BASIC自身が洗練されたのは後のことだったと思う。今のVisual BASICの書き方はかなり改良されているので、比べてみると面白いだろう。
ちなみに、当時私はシャープのMS-DOS機で脚色の少ないMicrosoft GW-BASIC(1982年)を使用していた。ほぼMSX-BASICと変わらないが、プログラムの引き継ぎを行うCHAIN/COMMON命令などはVisual BASICにつながる機能で、MSX-BASICにもあったらなと思う数少ない命令である。
● CPU
一世を風靡したZ80Aという8bitCPUと自称16bitのR800というZ80上位互換高速CPUが使われている。Z80は対応ソフトも多く、私も使い慣れている。今でも組み込み用途には形を変えて使われているようだ。
今から見ると、計算機らしいCPUというよりはマイクロコントローラという言い方が良く似合う。コンパイラやOSを前提としなくても、CPU自身が分かりやすいのである。
当時Z80が採用された理由は、画期的だったIntel 8080Aのソフトがそのまま動き、ICとして扱いやすく、かつ高速だったからだ。MSXのような優れたパソコンに採用され、ソフトが増え、さらにパソコンに還元される良循環が生じた。優れたCPUは他にもあると思うが、印象の強さはZ80が一番である。そんなことか、永久保存版(1)のMSX2+エミュレータには惹かれる点があるのだ。MSX2+はZ80が成し遂げたパソコンの頂点の一つと思う。
● VDP (Video Display Processor)
MSXの特色のある画面表示のためのICチップ。もとはTI(Texas Instruments社)のTMS9918Aという型番のICをそのまま利用していた。MSX2+とMSX turboRには2世代後のチップが使われている。もともと少ないメモリで効果的な表示を狙ったチップなので、特にMSX1の時代のは非常に癖があった。MSX2には次世代チップが搭載され、ゲームに適した画面モードが追加された。欲を言えばSCREEN 8はIBM PC(16bit機)のVGAの13Hモードのようにパレット機能があればその後の展開も異なっていたと思えるのだが、もういまさらこれでいいです。
MSX2+とturboRの第三世代VDPの自然画モードは超個性的である。SCREEN 12のデモ画面は非常に美しい、が、8bitパレットとよい勝負かも。これも色相が4x1ドット構成ではなく2x2構成だったら別の展開があったかもしれない。SCREEN 10はさらに輪をかけて個性的で、しかもこれを生かした画面は非常に印象的なのだが、やりすぎたような気がする。きっと表示装置としてポピュラーだったテレビの特性を生かそうとしたのだと思う。
日本語ワープロ用、ということか、MSX2の時代から512x424の画面があり、漢字表示もできた。この超ハイレゾ画面を生かすには、しかし、turboR級のハードを必要とした。今から振り返ると、たとえば電子辞書の画面は240x160とか320x240程度だから、むしろ16x16だけでなく12x12/24x24漢字フォント内蔵の方が優先されるべきだった、ということになる。
VDPの歴史はMSXの優れた点であり、また同時に弱点にもなったと思う。ともあれ、当時は指をくわえて見るだけだったMSX2+/turboRの機能が手軽に使えるようになった点はうれしい。
● サウンド機能
永久保存版2付属のturboRエミュレータの音源は、PSG(方形波、ノイズ)、MSX-MUSIC(FM音源)、SCC(ウェーブテーブル)、PCMと、まるでシンセサイザーの展覧会のような超豪華さである。これがMSX2当時に全部内蔵されていたら、世の中、変わっていたと思う。だが、私が使用したMSX2には、いわゆるピコピコ音のPSGしか入っていなかった(涙)。
いやなにも、ピコピコ音だから悪い、と言っているのではない。方形波とノイズによると思われるゲーム音楽が音楽カセット中の一曲として売り出されたこともあったと思うから、当時の作曲者の腕は並みではない。とはいえ、FM音源の豊かでノイジーでどこまでも澄んだ音は画期的だった。今では原理的には録音再生しているだけの「音源」が多いから、turboRエミュレータの究極の人工音はかえって鮮烈に聞こえると思う。
● Windowsとの連携
MSXの純粋ファンには申し訳ないが、Windowsとの連携ができる点が本エミュレータの魅力のひとつになっている。
MSXを開発システムと見なすと、BASICだけではやや弱い。ファイルシステムの自由度は低いし、通信やプログラム間の連携も弱い。
だから、たとえばMSX-DOS2の充実が必要だが、そんなことをするとWindowsと代わり映えがしなくなる。だとすると、WindowsをMSXの補助として使ってしまえば良いのである。
実機が売られていたとして、買いたくなるだろうか。先日、日本橋電気街をうろついてみたのだが、情報無しにうろついても、まったくMSXの影も形もない。もし、1万円程度でMSX2+が売られていたら、興味本位で買っていたかもしれない。
しかし、買ったとして、私にはほとんど活用できないと思う。Windows機があまりにも安くなったので、Windowsに近づく方向の拡張はやりがいがない。MSX PLAYerが現にやっているように、PDAなどのエミュレータとして動作し、Windowsでも同じソフトが同じ体感で動く方がありがたい。
組み込み用途はどうか。1チップMSX計画があるようなので、技術的には非現実的ではない。320x240のカラー液晶は容易に手に入るようだが、今のところ高価なので、ディスプレイの価格が当面の問題になる。
DVDプレーヤのような、もともと画像を扱っている機器なら問題は少ないであろう(もともと私も画像処理のためのMSXマシンがお付き合いのきっかけである)。あるいは、LANで画像をパソコンに転送してしまってもよいだろう(NetMeetingみたいに)。