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1チップMSX その1

2006年 11月 26日 日曜日

 一度ならずも紆余曲折のあった1980年代の8bitホームパソコンの有力リバイバル計画、「1チップMSX」がついに発売され、いま手元にその一台がある。とりあえずMSX2と呼ばれるパソコンとして動作する、当時の再現が第一の目的の装置である。

 正直、私も到着がまちどおしくてそわそわしてしまった。そして、いざ到着すればがっかりしてしまうのかと思ったら、ごくふつうのパソコンに思えたし、動作させるとさらに感激してしまった。
 いや、周りから見たら滑稽かもしれない。目の前にあるのはクロック3.58MHzの8bit機なのだ。

 しかし、おそらく冷静に考えても、今の水準で見てもよくできた装置だ。なぜ関係者があれだけの努力を払ったのか理解できる、すばらしい装置だ。
 こんな感じは久しぶりだし、もう二度と再現しないと思うので、ここに記録しておくこととする。

● MSXとは

 MSXは8bit機の互換性の向上を目指した規格で、初期の製品(MSX1)は1983年に発売されたそうだ。MSX1はいかにも寄せ集めのハードで、当時においても機能的には地味であった。しかし、後発組なので、システムもBASICもよくできていた。そして、カートリッジによって本格的なゲームが供給され始めた。だから、ゲーム機のような感じで、その感じは最後まで続いたと思う。
 ちなみに、MSX1の寄せ集めの感じは、それはそれで面白いと感じる人々がいて、私はそれは理解できる。部品を買ってきて、半田ごてで組み立てれば動く計算機になる、その鮮烈な印象は大切と思う。
 同じころ、純粋なゲーム機の任天堂のファミリーコンピュータが出現し、本当の世の中の需要はこちらであったことが判明する。

 1985年には1チップMSXの元規格であるMSX2が誕生する。そして、信じ難いほど大量に売れたのである。実用パソコンはとっくに16bit機になっていたというのに、そして、ファミコンがあったにもかかわらずである。
 職場でビデオ編集の必要が生じ、その時に以前から注目していたMSXを選んだのが私とMSXの唯一の接点である。もうよく覚えていないが、ナショナルのFS-5500だったはずだ。ボールマウスを覚えているから、たぶんそれ。そして、本体とほぼ同じ大きさのビデオ編集用のハードも購入した。
 優れたハードだったが、ビデオ編集用として使ったのみであった。しかし、MSXの勉強にはなった。個人で購入した書籍は、いまでもいくつか残っている。MSX2規格の装置で、MSX-DOSが使えるのでMS-DOS機との連携はなんとかでき、これはうれしい点であった。

 その後、MSXは迷走した。MSX2+は規格としてはよかったが、ハードが相対的について行かなかったと思う。そして、turboR(1990年)ともなると、何をやっているのか部外者からは分からなくなった。使った人はよい印象を持っているようだが、16bit機ははるか先を走っていたと思う。MSXの運はここで尽きてしまった。

● 1チップMSXへの道のり

 MSXの運が良かったのは、団塊ジュニアの愛用マシンである点である。その普及度は群を抜いている。MSX2は性能はともかく、こころ引かれる名機と思う。そのきっかけを作り、支えたのは、間違いなく彼らだ。
 リバイバル計画は早くからあり、まずソフト・エミュレータから始まったのではないかと思う。エミュレータはハードの代替の要素が強く、元来はハードの所有者がソフトを継続して使うためのものである。こちらの流れは、公式エミュレータMSX PLAYerとして結実した。ASCIIのMSXマガジン永久保存版3冊に付属しているもので、エミュレータとしては最高峰ではないかと思う。本当によく再現されている。ウリはもちろん、ゲームである。しかし、開発ツール類も充実していて、計算機マニアにも十分楽しめる内容である。

 並行して、実機の開発がボランティアの活動で行われた。1チップMSXの元になった試作機(?)はとっくの昔に完成しており、関係者の間では評判だったらしい。
 私としては、そうした装置の存在自体で十分と思ったのだが、関係者は自分たちの所有物ですますのはもったいないと感じたのであろう、商品化の計画が持ち上がった。
 昨年(2005年)の経緯は以前の本ホームページに記述した。みごとに失敗した。失敗の原因はよく分からない。なぜなら、当人たちのやる気はあったし、多くの人の支持のあることも判明したからである。

 そして今回の「1チップMSX」再出発計画である。迷走ぶりは見ていていたいたしかったので、内部では大変であったろうことは容易に想像できる。しかし、とにかく成功したのだから、あっぱれだ。祝福したい。

● 1チップMSX

 1チップMSXが我が家に送られて来たのは2006年11月21日(火)。早い人は数日前に届いていたという。内容は簡単で、本体と一枚の簡易取説のみ。本来のマニュアルと付属CDは後日届くそうである。なんでも、早く送るようにとの要請が多数あったからというが、まあ、内実は分からない。ともかく、この文章は、そのCDが来る前に書いている。

 1チップMSXがどんなものかは、販売元のD4エンタープライズのホームページを見るのが一番だろう。昔のコンピュータゲームを復刻し、販売している会社として知られている。
 大きめのすずりのような形の、直方体のプラスチックケースに入っていて、重さは約300g。手持ちのキーボードとモニタをつなげば、とりあえずBASICパソコンとして使える。MSX用のゲームカートリッジを持っている人は、そのまま使用できる。外部記憶はSDメモリカードで、2GBのものまで使える。

 私は上述の経緯からMSXのゲームカートリッジなど持っていない。だから、本体だけが届いても「ソフトがなければただの箱」状態である。とりあえず動作確認しないといけないから、BASICでおもちゃにもならないプログラムを書いて試してみた。
 しかし、SDメモリカードの利用でWindows機との連携が円滑なのを発見し、手持ちのソフトを試すことになった。ほどなく、今回の1チップMSXの完成度の高さに気付くこととなった。

 まず、最大の特徴は…、エミュレータのたぐいではない、本物のMSX2という点である。実際に動作しているのはFPGAと呼ばれる汎用論理チップだから、エミュレータに近いとの表現も可能だが、しかし、文句の言いようのない公式マシンである。だから、私には初のMSXの個人所有となる。
 本物のMSX2だから、当然ながら細部に至るまでMSX2である。公式エミュレータMSX PLAYerはMSX2+またはMSX turboRだから、最初、うかつにも若干違和感を覚えた。MSX2はさんざん使っていたにもかかわらずである。

 次の特徴が…、利用者の質の高さである。こればかりは代替が効かないので、ものすごくうらやましい。発売後たった一週間で1チップMSXの詳細がインターネットで明らかになった。公式の説明書はまだないので、だれもが手探りのはずなのに。

● 未来に来たMSX2

 つまりは、MSX2が時を超えてやってきたのである、…とりあえずこの時点では。
 しかし、ただのMSX2ではない。まずMSX-DOS2が動く。SDカードはとりあえず8MBのを使用したが、2GBのカードも使えるそうで、夢の大容量だ。そして、ファイルシステムはWindows互換。音源はPSGに加えて、FM音源、SCC互換音源が付いている。未確認だが、1MBのRAM、第一水準漢字が使えるらしい。

 それと、なんといってもうれしいのが、元のMSX規格からちょっとはずれた、PS2キーボードとVGAモニタ出力である。
 たかがキーボードというなかれ、操作性の鍵を握る部品だ。贅沢にも、かつてCompaqの一体型に付いていた純正キーボードを使用している。快適この上ない。
 そして、VGA出力。もともとMSXはテレビの特性から左右が全表示できない。VGA出力では完全に左右が見え、ドットもくっきりして美しい。ただし、見た感じではビデオの縦横比を再現するためにちょっと不思議なVGA信号になっているようだ。
 なお、本来のテレビ表示もできて、何ともたとえようのないMSXのほのかな色のにじみが楽しめる。

 これより先の話は、正式マニュアルと付属CDが届いてからにしたい。

 そうそう、ケースの話が必要だった。昨年の1チップMSX計画では、ホームページの写真は裸の基板、後に簡易ケースのイラストであった。
 外観というのは意外に大切で、いわば商品の顔である。今回の1チップMSXは素敵なブルーの透明プラスチックケースに入っている。立派な製品に見える。成功の一つの要因だろう。これはよかった。
 また、お飾りであるが、電源ONの間は緑のLED列が左右に走るように点滅している。こちらには賛否があるが、簡単に制御可能だろう。私見では、これがなかったら寂しいと思うし、失礼ながら、真剣な装置に見えてしまう。

 手軽さと、利用者の技量にどこまでも応えてゆく強靭さと、そして、本当の姿が判明するのは、CDが届いてからである。

(つづく)