私の名はアメジスト。 もう長い事旅をしている気がする……。 「一体、何処にいるのです?サファイア……」 通りの向こうから戦闘らしき音がした。 「たぁっ!!」 「ちっ!」 私はのぞいて少し驚いた。1対1の決闘という感じなのだが……筋肉質の大男と戦って大男の大刀を真ん中より真っ二つに折った相手は、14,5歳位の細身の長い髪を結い上げた少年だったから。 「さぁ覚悟しなよ。」 「何て馬鹿力だ!?」 「へぇ……まだいたんだ。剣と剣のみで勝負をする原始的な輩が……。」 気づいたら私の口から無意識に呟きがもれていた。 「んだとぅっ!?」 意外にも反応したのは少年の方だった。 「あ、失礼」 こんなのに口出しとは……私らしくない。 「今のは失言でした。私は去るので心おきなく続きを……」 私が失礼を詫びている間に、いつの間にか少年が目の前に近づいていた。 「あーっ!」 さっきから調子が狂いっぱなしだ。こんなに近づいていたのに気づかなかったなんて。 「よく見たらお姉さんって美人さんだ。可愛いー!」 「かっ……!?」 「☆$@Б#ёЙ¢Ю!!!」 「うぎゃあぁぁぁっ!!?」 動揺した私の指先から光属性の衝撃波が発せられていた。 「ルビー!!」 少年の連れらしい男が叫んだ。おそらく少年の名前なのだろう。そして衝撃波は少年の長く結い上げていた髪を奪って反れて行った。 「反れて助かったぁ」 「何すんだっ、あんたっ!!弟を殺す気かっ!?」 「……〜っ、すみません」 「ルビー、本当にコレは女なのかっ?お前は異性に鼻が利くが……」 少年の兄と名乗った男は私を上から下まで見た。こういうのは慣れているが可愛いと言われるのだけは慣れない。つい発作的に衝撃波を出してしまうのだ。 そして私は、先ほどの決闘現場よりほどない町の食堂でお互いに自己紹介をしあの兄弟無礼を詫びた。 それから数時間たった今、やっとの事で、あの兄弟とは別れた所だった。 「このクセだけは直しておかないと…」 「そうだよ!せっかく誉めてもらってるんだからね♪」 「またお前か……」 「お前じゃないよ、ルビーって言うんだ。」 声の方に視線を流すと先ほどの少年が笑顔でこちらに向かって歩いていた。 「さっき話しただろう?私は師匠を探しているんだ。先を急ぐ」 何故かこの少年とは、これ以上関わりたくない気がした。 「だぁってぇ、オレ、アメジストに一目ぼれしちゃったんだもんっ♪」 「……それは気のせいだ」 「えぇっ!?この熱く焦がれる思いを気のせいで片付けろっていうの?」 ルビーが何処かふざけている様な気がしたので私は無視する事に決めた。 「今日は色々悪かったな。私はもう行く」 「待って!だからオレも行くってば」 その時ルビーの後ろからホープが出てきて私を睨みながら言った。 「ルビー、こんなオトコ女ほっとけよ。わかっただろ?奴はサファイアって奴を……」 「兄さん……」 「聞けばサファイアは賢者の石・コランダムを持って失踪したとか」 「何故その事をっ!?」 私はホープがその事を知っているのに驚いた。それは錬金術師協会内で秘密裏になっていたはずなのだから。 「有名な話さ。おおかた巨大な力に魅了されたんだろう」 「そんな筈はない!彼は錬金術の能力もすばらしく欲も無く、それはそれは人間的にも完璧な人なんだ」 私は本当にそう思っている。だから彼の元へ弟子入りしたんだ。 「本当に完璧な人なんて……欲のない人間なんて居る訳ないよ!」 何故かルビーがそこで反論してきた。 「ルビーはサファイア様に会ったことがないからそんな事が言えるんだ」 「どうして居なくなった奴なんか探すんだよ!?自分から居なくなったんだからその場所が嫌になったんだろ?……アメジストも」 ルビーのその言葉で頭に血が上りそうになった。昔の、剣士だった頃の私なら切りつけていただろう。けれど私はサファイア様の元で修行をして冷静さを得る事ができた。 どうしても相容れない人間と言う者は居るのだ。これ以上何を討議しても仕方がない。 「オ、オレもサファイアさん探しを手伝う。勝手について行くっ!」 「勝手にしろ。途中で立ち止まってても待ってはいないから」 何故か勝手に口がそんな言葉を発していた。この少年とは関わってはいけないと思ったはずなのに……。 |