序.“夜”


 ―― 時が来た。
 目覚めの時が。
 悪鬼どもが栄える、禍年が
――

「……あれー? 予備の竹箒ってどこだろ……?」

 ―― 来たれ、我が主。
 新たなる主よ。
 我を六十年の眠りから呼び覚ませ。
 そして……
――

「全く、なんでいきなり折れるかなぁこの箒は。……ん?」

 ―― 我を手に取り、闘いへと赴くのだ。
 決して歴史の表には明かされぬ、夜の闘いへと
――

「……これって……刀?」





 ……この平成の世では、霊や化物の類の存在は明確に証明されてはいない。
 科学を基にして成り立つ社会において、それらを成り立たせるのは……ひとえに、信じる心のみ。
 何故ならば。人にとって、知覚できないものは無いのと同じなのだから。
 ……だが、もしかしたら。
 それらは知られていないだけで、本当は在(あ)るのかもしれない。

 ゆえに。
 これは、“ごがつ”をつかさどる日常の物語の裏に、あったかもしれないし、なかったかもしれない……
 そんな、存在すらも妖(あや)しく、幻のような奇譚(きたん)。
 一振りの意志ある妖刀と、剣客とは名ばかりの少女の、闘いの物語。

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