悲劇の事件―数学嫌いと数学好きの戦い―





 私の数学好きというのは天性のものではないかとよく思う。それくらいはまりようがすごいのだ。しかし平均的に女性は数学方面には弱い人が多く、それもあって「変人」とみなされかれない。ましてやこの年頃の女の子となると集団意識が強いため、よけいそんな傾向がある。
 それは別にかまわない。仕方がないことだ。問題は教師達まで変人扱いを平気ですることである。というのは、学校の教師達は学生時代からその学校で過ごしている人が多いのである。だから思考回路が偏り、多くの生徒達のようなことを平気でやってしまうのだ。

 その影響は生来の数学好きの私にもろにふりかかってきた。しかし、高校1年まではさほど問題にならなかった。なぜかというと、他の学校出身の女性の数学教師が担当だったからである。当然、数学嫌いが大威張りしている状況は悲しい。私もその教師にずいぶん励まされた。
 ところが高校2年になるとやる気無しのめちゃくちゃな、学歴だけは高い(東大卒)数学教師が担当になったからまいってしまった。私がやる気に満ちた質問を出してもあしらわれるだけであった。しかも担任教師が数学大嫌い・悪口のレパートリーだけは豊富・何に関しても丸暗記主義しか認めない(数学や物理の公式も!)という最悪の教師だったため、私はノイローゼを起こしたほどいじめられてしまった。そして勉強もできなくなった。なのにその担任教師は「ひどい成績ですねー、大学に入れませんね」だとか「親がこんなにすばらしいのに、なんで子供はあんな変人なんでしょうね」などと私に関する悪口を親にえんえん言いまくったのである。

 やがて授業が微分に入り、物理の授業も始まり(そういや物理の先生もよく私の味方をしてくださった)、数学の教師も代わって何とかなった。
 ところが理学部数学科に進学を希望していて、開放的な大学を望んでいた私は一流の大学を受けるしかなかった。ノイローゼのせいで受験勉強は進まず、しかも3年になっても担任が代わらなかったため精神は安定せず、この時点で現役合格は無理な話だった。クラスメート達は「絶対合格するわけがない、私達ならともかく」と口を揃えていた。
 それでも私はどうしても数学を学びたくて、この堅苦しい女子校を抜けて開放的な大学に行きたくて、一生懸命に勉強した。それで当然成績は急上昇し、結局現役合格は出来なかったが親は予備校通いを許してくれた。また、予備校のほうも志望大学のコースに無試験で入学させてくれた。

 そして通った予備校は堅苦しい女子校とは違い明るいところで(また私も明るい予備校を選んだのだが)、思う存分受験勉強が出来た。どの位勉強したかというと、「入試があと3ヶ月遅ければ(合格していたのに)…」と進路指導のチューターが言ったほどである。
 浪人してから特に伸びた物理にいたってはチューターの方々も驚くほどの成績を出し、高校に寄った時には(成績を出身高校に送っている)化学の先生が大喜びし、物理の先生は大喜びしてはいなかったが顔が明らかに喜んでいらした。

 結局私は2次試験の物理の成績の良さ(だと思う)で前からの志望大学に何とかひっかかった。
 合格が決まった時は家族は大騒ぎ、学校も大騒ぎ、担任教師は言うに及ばず校長先生から電話がかかってきたほどである。
 ちなみに同級生で、同じ大学に合格した人はいなかった。



BGM:グリーンスリーブス/イギリス民謡



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