【 第三章 : 炎暑 】


 ジリジリと、焼きつける陽射しが肌を焼く…もうすっかり夏のある日、
それは道徳先生の一言から始まった。

………

「夏! それは輝く太陽! 飛び散る汗!! つまり何だい!?」

 ピッと、先生は望ちゃんを指す。だけど望ちゃんは顔を引きつらせるだけで何も答えない…うーん、あの顔は 《わかるかボケェ!》ってかんじね…

「じゃー赤雲さん!」

 すると、今度は後ろの席の赤雲ちゃんが指された。

「えーと、海ですか〜?」
と、赤雲ちゃんが答えると、先生は満足そうに頷いた。
「そうだとも! と、言うわけで今度の日曜、浜辺に全員集合! サボりは留年ぐらい覚悟しておいてくれよ!」


…と、いうわけで、私達二―A全員、こうして浜辺に集まっている。


「トウモロコシいかがですかー?」

 海は私達の他にも、遊びに来ている人達で賑わいをみせていて、お店もいっぱいでてる。

「うぉぉぉぉおっプリンちゃんっお待ちなさいっ♪♪」
「ポルシェっおいら達も負けねぇぜ!」
「ポルシェじゃないっスよ〜」

 あれ…あそこにいるのは霊獣園であった、あのカバ君…?

「よーし! まず準備体操をよーくしてから、軽く一泳ぎしよう! 屈伸始め! イ――ーーチニッ!」

 真っ青な空の下、道徳先生の声が四方響きわたった。一般の人たちが物珍しそうにこっちを見てる。

「(はっ恥ずかしい…)」

 私が砂浜と睨めっこしながら準備体操をしていると、頭の上から声がした。

、ちゃんと体操しないと、サメにでも食われるさ」

「…え…お兄ちゃん!?」

 ふいに顔を上げると、紛れもなく天化お兄ちゃんが手足の運動をしていた。

「お、やっと来たね、天化。それじゃーみんな! 軽く向こうの島まで競争だ! 俺より先にたどり着いたら体育5は確定だよ!」
「負けないさっコーチ!」

 そうして、私が気を取られているうちに、クラスの過半数があっと言う間に海にとびこんで行ってしまった。

「碧雲、せっかく海にきたんだもの、綺麗に焼いていきましょうよ」
「そうね、赤雲。あ、それと、公主さまにお土産買っていかなきゃ!」

あ、碧雲ちゃん達は行かなかったんだ…と、あれ…望ちゃんは…

「こっちじゃ、

「え?」

 声のした方を振り向くと、そこにはビーチパラソルの下で麦わら帽子(タオルを被った上から被ってる)とサングラスをした望ちゃんが手招いていた。

「…望ちゃん…?」
、紫外線を甘く見てはならぬぞ。皮膚ガンは元より老化促進作用もあるのだ。ほれ、お主も」
 そう言って望ちゃんは、サングラスと麦藁帽子とタオルを渡してくれた。
「ありがとう…。
 …でも、帽子だけでいいや…」

 私は麦藁帽子だけ受けとって被る…つばの先からのぞく太陽がまぶしい…

「ねぇ望ちゃん、海に入ったら焼けないんじゃない?」
 隣に座って、私がそう言うと、望ちゃんはサングラスを少し下げて言った。
「お主は相変わらずツメが甘いのう。ほれ、見てみい。水面に乱反射した紫外線が突き刺さっておるではないか」
「あ、そっか。確かに、あの沖合いの方なんて凄い光ってるね」
 私は光りに霞む沖合いを指差した。 すると、トウモロコシを売っていた人が急に叫んだ。
「あーー! おぼれてる! すいませんっオーナー! 僕、監視員のバイトもしてるんでっあとお願いします!」
「ちょっ、武吉くん!?」
そのバイトさんは、焼き物箸をオーナーさん(見覚えがある…誰だっけ…)に渡すと、救命胴衣を手早く身につけて海にとびこんだ。

「…望ちゃん…誰か溺れてるの…?」
ここからじゃ遠すぎて何も見えない…あのバイトさん、双眼鏡してなかったような気がする…
「そのようじゃな…誰じゃ全く、泳ぎも十分にできぬ癖に沖に出るとは…」
そう口で言ってるけど、望ちゃん凄く心配そうな顔してるよ…。私達は沖をじっと見つめ、無事戻ってくる姿を待ちわびた…けど、しばらくするとこちらに向って、あのカバ君が飛んできた。
カバ君、空も飛べるんだー…

「SOSッス! 土行孫さんがパニックで、それで助けにきた武吉くんまで沈みそうなんスっ…!」
「ええっ!? ど、どうしよう望ちゃんっ! ううんっ今すぐ助けに…っ」
「落ちつけ、それでは犠牲者が増えるだけじゃ。お主は念の為救急の者を呼んでおけ。わしはこのカバと上手く2人を助ける」
「カ、カバ…」
「お主がただのカバでない所を見せてみよ、四不象!」
 そう言って、望ちゃんはカバ君にまたがった。
「ラ、ラジャーっス!」

 すると、カバ君は望ちゃんを乗せてピュンっと飛んでいった。
私はそれを見送るとすぐに海の家に行って、近くのお医者さんを呼んでもらった…家の人が「呼ばないよりはマシだ」って言ってたのがひっかかるけど、私はすぐに戻った。
望ちゃんは凄く落ちついていたけど、考えてみたら望ちゃんって泳げないかったはず…。だ、大丈夫かなぁ…カバ君に振り落とされてたりしたらどうしよう…!

 考えれば考えるほど、嫌なことが頭をよぎって、私は飛び出しそうになっていた…
その手を、優しく包む感触。

「…!」
「大丈夫よ、流花…」
「お母さん!? どうしてこんな所にいるの!?」
「ふふ、天化もも海に行くって言うから、家族で遊びにきたのよ」
「えっ、じゃぁお父さんはっ」
「うん、助けにいってるわ…だから大丈夫、貴方が無理しちゃだめよ…。ほら、天祥だって我慢してるんだから」
 お母さんの目線の先に、弟の天祥が口と手をぎゅっとさせて、沖を見つめていた。
「う、うん…しっかりしなきゃね」
 私は海の方を向くと、目を閉じて深呼吸をした…そう、大丈夫だよ…なんたって望ちゃんは私の自慢の幼馴染なんだから…。そりゃ、確かに宿題はぜんぜんやらないし、閑があれば釣りするか寝てばっかりで、私もだけど寝坊もよくするし、気がつけば桃ばっかり食べてるし、いっつも如何に楽できるか考えてるみたいだけどっ…!



「…ひどい言われようだのう…」

「!?」

 パッと目を開くと、眩しい光りと一緒に、望ちゃんの姿が写し出された。

「ハニー―――ー! 大丈夫!? 大丈夫!?!?!」
 見るとぐったりしたモグラさんを、隣のクラスの蝉玉ちゃんが、ゆっさゆっさと揺らしている。
「た…助け…っ…」
「やーーーんっハニーーー!」
「…まったく、人騒がせなモグラじゃ」
 そう言う望ちゃんの顔には、安堵感が見えた…その瞬間…

「ご主人! やったスね!」
「お師匠さま! 僕っお師匠さまに一生ついていきます!!!」
 カバ君とバイトさんが、望ちゃんの腕をガシィィィッと握る。
「なっ暑苦しい! やめんかい!」

 望ちゃんは振り払って逃げて行っちゃったけど、二人とも延々と追いかけていた。
その気持ちは私もよくわかる…
だって、望ちゃんは本当に頼りになる私の幼馴染なんだから…。




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海編でした★ さん乙女モード爆発です(^_^;)


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