【 第四章 : 清涼 】


「秋! と言ったら勿論なんだいっ」

HRはいつもの調子で始まった。

「食欲かの〜…」
望ちゃんがうっとりした顔で呟くー―頭の中は桃でいっぱいってかんじね。
「う〜ん近いっ、けど違うんだな〜」
先生は拳をシュッと前に出す。先生が求めている言葉は誰でも容易に想像がつく。
みんなきっと、どうボケようか考えてるわ――なんたって夏の課外授業は、結局だれも先生に着いて行けなくて、天化お兄ちゃんとの一騎打ちだったって聞いたもん…
スポーツで先生を相手にしたら百害あって一利なしよ。

「ん? さん、今何て行った?」
ばちっと先生と目が合った。
「い、いえ〜と…げ、芸術かな〜」
私は目をそらして適当に答えた。
「そうだねっ秋と言ったら芸術だ!」
『えーーーーーー!?』
クラスから驚きの声があがる。
「先生、熱あるんじゃないですか?」
「少し遅れの夏風邪じゃない?」
…先生も言われ放題だなぁ…

「しー静かに。今日はな芸術の秋という事で、講師の先生がお見えになってるんだ。どうぞ」
そう道徳先生が言うと、ガラリと教室に見覚えのある人が入ってきた。

『あーーーーーーー!』

「こんにちは。ある時は霊獣園園長、ある時は海の家のオーナー、ある時はさすらいの芸術講師、楊ぜんです」
…すごい自己紹介…みんな忘れてるんじゃないかって心配だったのかな…
「ぜんっぜん統一感がないのぅ…」
「何をおっしゃいます、太公望くん。芸術とは美しくなければいけません」
…そう言う楊ぜん先生の後ろに、薔薇が見えるのは気のせいかしら…
「そうさっ芸術とは美しいもの! そして美しいと言ったら飛散る汗さ! 来週の球技大会に向けて練習だ!」
そう言って振り上げられた道徳先生の腕は、グラウンドで私達がクタクタになるまで下げられる事はなかった…




生徒会主催球技大会…去年は野球で、1年ながら蝉玉ちゃんのクラスが優勝した。今年はテニスらしいんだけど、やっぱりあの魔球には敵わないと――

さんっいったよ!」
「は、はいっ」
私は慌ててバウンドしたボールを打ち返した。――そうだ、もう球技大会当日で、先生命令で朝練してたんだわ…
「何してるさっ
コートの外にお兄ちゃんが来ていた。
「とか言っちゃって、私達の偵察にでもきたんじゃないのぉ〜?」
隣りのコートで練習していた蝉玉ちゃんがニヤリと言った。
「何さっ今年は絶対に負けないさ!」
「ほほっ私の魔球に敵うと思って?」
蝉玉ちゃんが小指をたてて笑った。…どうやら私達は眼中にないみたいね…
「そう言えばさん、太公望くんはどこかな?」
「あ…!」
しまったー…今朝は自分が起きるでの精一杯で望ちゃんのこと忘れてたっ。
「先生っ私探してきます」
先生にそう断って、私が家に着いたのは十分後。
「望ちゃーんっ起きてるー?」
私がドンドンッとドアを叩いていると、自宅の窓から天祥の顔が覗いた。
「お姉ちゃーん、たいこーぼなら釣りに行ったよ〜?」
「えーーーー!?」
それを聞いて、私は慌てて望ちゃんがよくいる釣りポイントへ向かった。




「お〜、お主も釣りか?」

そうして私が望ちゃんを見つけたのは何時間も後のことだった。

「なーに言ってるのよっ今日は球技大会でしょー!」
「流花こそ何を言っておるのだ。こんな秋日に勝ち目のない勝負など…」
「え〜い、じれったい! カバくん!」
「ラジャーッス」
茂みに隠れていたカバくんが、ガシッと望ちゃんを掴む。
「なっ四不象!? お主らグルか!」
「この近くでさんと会って、意見が一致しただけっス」
「それをグルと言うのだ〜っ」
そう暴れる望ちゃんと私を乗せて、カバくんは学校まで送ってくれた。





「もーお昼過ぎだよ〜試合どうなったかなぁ…?」
「良くても2回戦で負けておろう」
そう答える望ちゃんを否定しながら、私達がコートに向うと、既に決勝戦が行われていた。

「おっやっと来たね、二人とも!」
「道徳先生!? もしかして…」
そう、私達二―Aは決勝に残っていた。何でも蝉玉ちゃんのクラスとお兄ちゃんのクラスが1回戦であたり、デッドヒートの末、共倒れとなったらしい…
「ほぉ、漁夫の利、という奴じゃな」

「HAHAHA! それはまだ早いんじゃないかいっ太公望君!」

望ちゃんの前に立ちはだかったのは、3年の趙公明先輩。確か男子テニス部のキャプテンだったよね。
「お兄さま、太公望様は私の未来の夫、お手柔らかにお願いしますわ」
隣りにいる妹の雲霄さんはそう言うと、ずいっと私を指差した。
「ときにさん! 今日の試合でどちらが太公望様に相応しいか、はっきりしようじゃありませんか!」
「え、ええ!? で、でも私…」

「良い提案じゃな、ビーナス」
「ええっ望ちゃん!?」
すると望ちゃんは私に耳打ちをした。
「(これに勝てば、わしは奴から解放されるのだ。手助けだと思って、な?)」
「う、うーん…わかったよ」
「ホホホッ聞きましてよっこれで太公望様は一生私のモ?ノ?」

――そうして、決勝戦が始まった…

「ふふ…戦いに目的を持つなどナンセンスだけど、ここは妹の幸せのために本気で行かせてもらうよっ」
公明先輩から鋭いサーブが打たれる。
「きぇ〜いっ’なんとしても負けるわけにはいかない’レシーブッ」
それを望ちゃんが鋭くきり返す。
「太公望様っ私の愛を受けとって!」
雲霄さんがスマッシュを望ちゃん顔面めがけて打って来た!
ゴギャ…ッ 生々しい音がなる
「きゃーっ望ちゃん!」
ストレートにヒットして転がったボールを道徳先生が拾った。
「そうか、君達はルールを聞いてなかったね。今年の球技大会はサバイバルテニス! 相手が倒れるまで戦いつづけるんだ!」
先生はパシッと私にボールを投げる。
「そ、そんな…」
ジンッとしたのはボールを受け取った手の感触だけじゃない…無理して望ちゃんを連れてこなければ…そうすればこんな事にも…

その時、バシッと背中を叩かれる。


「まーた、お主はいらぬ事を考えておるのだろう」
ボールの跡がのこる痛々しい顔で、望ちゃんはそう言った…
「お主は黄一族の一員で、しかも真面目に練習をしてきたであろう。少しは自信を持て、
望ちゃんはよいこらせっと立ち上がり、私にすっと手を差し伸べてくれた。

「…うん。頑張るしか、ないよね」
「そうじゃ。わしが上手くアシストするから、まずビーナスを狙え」
「う、うん…わかった…」



 こうして、試合は日が暮れるまで行われた。望ちゃんの心理作戦(ちょっと雲霄さんが可愛そうだった…)で、公明先輩一人相手に頑張ったんだけど、結局決着がつかず、引分けとなった。




「白黒がつかないのは気にいらないけど、実に華麗な戦いだったよ。是非またお手合わせ願いたいところだね!」
ぐっと交わした握手を離した途端、望ちゃんはフラリとよろけた。
「だっ大丈夫!?」
私がそう言った時、カバくんが体を支えると、望ちゃんはぐっすりと眠りこんでしまった。
「よっぽど頑張ったんスね、ご主人」

その穏やかな寝顔に、私は安らいだ。




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球技大会編でした★ 秋はやっぱりスポーツスポーツ!公明様をやっと出せて満足ですv(ぉぃ)


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