第1話 〔 空 蝉 の 関 係 〕
Utsusemi no Kankei



さん…ここにいましたか」

 

 


月の綺麗な夜、私は海岸に来ていた。

その声に振り向くと、月明かりに浮かびあがったその姿は幻のように美しくて、あの日を思い起こさせた。

 

「神出鬼没ですね、先生」

 

彼は私の師であり、そして

「恋人に対してそれはないじゃないですか」

そう、恋人だ…たぶん空蝉の。

 

「だって、あの日もそうだった」

「あの日?」

「おじいちゃんが死んだ日」

「ああ…、君に結婚を申し込んだ日ですね」

「そうでしたっけ?」

「ひどいなぁ…」


勿論忘れてなどいない。あの日、唯一の家族を失った日、
ただの道場の先生だった人が、「俺が家族になるよ」と言ってくれた日。

あのときから、私達は恋人になった。でも…

 

「考え事ですか」

「…まぁ」

 

先生は優しい。その上、まだ若いのにうちの道場で1番の使い手で、
次の道場主になる人だった―――あの遺言さえなければ。

 

『道場は、孫娘のに継がせること』

 

私も道場に通っていたから、そこらの女の子よりは強いけれど、とても道場主というレベルじゃないし
第一由緒正しい古武術道場のうちが、女の子を頭にするなんて、考えられない話だ。
なぜおじいちゃんがそんな遺言を残したのか…いまだよくわからない。

ただ・・・それがおじいちゃんの意思なら、できる限り答えたい、
そう思って、今は我武者羅に練習したいんだけど…

 

「例の噂が、まだ気になりますか」

「・・・・・・・・・・・・・」


先生が、私と付き合いだしたことで、周りが騒ぎ立てている。
道場を、我が物にするためじゃないか、とか、色々。

でも、一番疑ってのは、たぶん私。
先生が、本当に私のことを好きなのか、疑っている。

「同情なんていらないからね」と言っても、
「俺も、同情で道場はいりませんよ、なんてね」と笑ってごまかしたり
黙って優しく抱きしめてくれたり…
でも、抱きしめるだけで、キスはまだしたことがないし、デートらしいこともしたことがない…

 

「じきに、わかるようになりますよ」

 

先生は、よくそう言う。それは、私が子供ってこと…だよね。

優しい先生は、何を言われても傷つかないくらい私が大人になったら
「俺に道場をくれないか」
って言うのかもしれない…

 

「……はぁ」

「…なんてため息してるんだい」

「………」

「…明日、朝からどこか出かけようか」

「…え」

「いやですか」

 

思いっきり、クビを振った。

 

「じゃあ決まりですね。明朝、迎えにいきます…」

「は、はい」

「それでは、そろそろ帰りましょうか…送りますよ」

「…ありがとうございます」

 

その後、ぼーっとしながら、家に帰った。

帰ったら、着ていく服をどうしようか、ものすごいことになった。

 

 

 

 

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いきなり設定激しくてすんません(´▽`;)次はついに近藤さんと出会える予定です。

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