第8話 〔 無 敵 な 貴 方 〕
Muteki na Anata


 

 

「よう、くん!」

そんな間抜けな声が聞こえたのは、彼らが陣をおいている京都の壬生の屯所に帰ってきてまもなくだった。

 

「・・・・・」

振り向いてはみたものの、なんと言えばよいか…とてもこんにちは、などとさわやかに言える気分ではなかった。

「なんだい、仏頂面して。綺麗な顔だけど笑った方がいいよ?」
「・・・・・失礼します」

有無を言わさず立ち去ってしまった。
しばらく歩いていると、また声をかけられる。

 

「…どうかしましたか? 熱があるようにも見えますが…」
「!!」

山南敬介。
こちらの知識に疎い私に、色々と教えてくれる親切な人。
この浪士組で正常な感覚を持っている一人と思うのだが
彼の言動、かの人を思い起こさせていた。

「…先生」
「ふふ、先生と呼ばれるのは珍しくないですが、あなたにそう呼ばれると不思議な気がします」
「え…?」
「私に言っているようで、言っていない。私はどなたかに似てますか?」
「…山南さん…。そんなところも、そっくりなんです」
「なるほど…」
「すいません、失礼ですよね」
「…いいえ。あなたにもどうすることもできないのでしょう?
 そんなことより、そうやって寂しそうにするあなたを、私はなんとかしたいと思いますよ」
「・・・・・」
さん、きっと私に似ている貴方の大切な方も、あなたに笑ってほしいと思っていると思いますよ」
「・・・なんで、そんなことわかるんですか?」
「・・・大切な、方なんでしょう? 怒りや悲しみでなく、寂しさだけ感じる。
 あなたをそんな気持ちにさせている方が、あなたの不幸を願っているとは思いません」
「・・・山南さん・・・」
「・・・あなたがどうしても寂しいなら、これから私はなるべくあなたと会わないようにしますが…」
「そんなことっそんなこと必要ありません!」
「では、笑ってくださいますか?」
「…はい」

ちょっと恥ずかしいけど、笑って見たら、山南さんもにっこり笑ってこういった。

「まるでほころんだ花のようですよ」
「や、山南さん…」
「おや、赤くなった」
「山南さん!!」

顔がさらに熱くなるのを感じ、山南さんの方を見れなくなってしまった。

 

 

一方

「な〜にしてんの、勇ちゃん」
「!! や、山崎…脅かすな」
「あら、あれは敬ちゃんとちゃん? 仲良さそうね〜」
「山崎…何が言いたい」
「…嫉妬?」
「…誰が、誰に?」
「…ふ〜ん」
「お、おいどこに行く!」

ちゃーん! これからあたしと出かけちゃったりしな〜い?」
「おい、山崎!」

茂みからでてきた二人。驚く二人。

「…近藤さんまで、どうしたんですか、そんなところで」
「えー勇ちゃんはねーさっきからー」
「何でもない! くんに用があってだな…」

ゴホン、と近藤は威厳ありげな堰をする。

「…なんですか?」

あきらかにいぶかしむは、少し眉をよせてたずねた。

「こ、ここではなんだから、ちょっと来たまえ」
「えっちょ、ちょっと…!」

半ば強引に手をつかみ、近藤は屯所の外へ向かった。

 

第9話へ

 

 

 

 

 



第1、2話で、彼がサンナンさんに似てるなぁ、と思い、こんなかんじで。本当は斉藤さんと絡まそうと思ってましたが、それはまた今度で…
2005.09 up| メニューサイトTOP