JIS X 0213改正原案 公開レビューに対するコメント
はじめに
「JIS X 0213改正原案 公開レビューに対するコメント」を送付いたします。よろしくご査収ください。
なお、
> 公開レビューでは,改正の方針そのものは既に平成13年度に決定して
> おりますので以下のようなことを検討していただくことを期待しています。
というご期待には添えない内容であることをお断りしておきます。
添付した以下の2ファイルは、すでに以下のURLで公表しておりますので、そちらでも参照いただけます。
○2003年JIS X 0213改正原案 公開レビューに対するコメント(本文書)
http://hp.vector.co.jp/authors/VA000964/pubrev03.htm
○「ヒキヅナ」という漢字
http://hp.vector.co.jp/authors/VA000964/hikiduna.htm
−−−以下は公表できる情報です−−−
1.氏名
福田 雅史(ふくだ まさし)
2.職業(会社名又は所属団体等)
非専門家
今回の公開レビューへの基本的なコメント
国語審議会答申に沿った形で、改訂を行うのは反対です。
理由1
JIS X 0208:1997の解説(375p)の理由で、ほとんどすべてを語り尽くせると考えます。以下に引用します。
- 国際規格の符号化文字集合の規格では,1文字の追加,削除又は変更であっても,異なる符号化文字集合となる。このため,改正においては,本来これらを行ってはならない。
- 第2次規格・第3次規格において,規格票の字体・字形を変更したために,大きな混乱を招いている。今回の改正で更に字体・字形を変更するようなことをすれば,混乱を一層甚だしくすることが予想される。
今回の国語審議会答申を採用しないことにより生じる混乱は、明らかに今回の改定案を採用することによる混乱より小さいでしょう。
理由2
国語審議会答申をJISに持ちこむ根拠がありません。『国語審議会報告書21』に収められている「文部省組織令(昭和59年6月28日政令第227号)抄録」を読むと、国語審議会が建議する相手は「文部大臣,関係各大臣又は文化庁長官」となっています。
これまでの「常用漢字表」といった主要な国語政策は国語審議会の答申が内閣告示されて、はじめて運用されたものです。内閣告示もされていない答申を、先取りして規格へと利用するのは、後日内閣告示された際に異なる内容となる可能性もあり、問題だと考えます。
また、最近、「人名用漢字」を増加するという報道がありました。1/17の法務大臣コメントが以下のURLにあります。
http://www.moj.go.jp/SPEECH/POINT/speech0104-175.html
これにより、大幅に国語審議会答申の内容も変更が必要になることが予想されます。
現時点で、国語審議会答申を採用する意味はないと考えます。
今回の公開レビューへの技術的なコメント
今回のコメントは、「誤りがあってもむやみに修正せず、きちんと記述して今後の混乱を防ぐ」というスタンスです。X0208が1997年改正で「妛」の字形を変更しなかったように。
UCS変更について
- 2-93-27のUCSを9B1Dから9B1Cに変更するとのことですが、変更に反対します。変更せずに9B1Dのままとするべきです。当事項は「規定」にかかわる事項であり、変更すると非互換な改訂となり、混乱をまねきます。たしかに2-93-27の例示字形はU+9B1Cと同一なのですが、U+9B1Dは包摂規準152で同字となります。X0208にあるような『面区点位置詳説』をX0213に新設し、この事実をきちんと述べておくことを要望します。限りなく誤りに近い規定ですが、それでも変更は避けるべきだと考えます。
- 2-94-5のUCSを29FCEと変更するとされています。変更については問題ないと考えます。しかし、実装上の混乱を防ぐために、『面区点位置詳説』をX0213に新設し、以下の背景を記述しておく必要があると考えます。
1)UCS(というかISO/IEC 10646-2)にはU+29FCEとU+29FD7のまったく同字形の2文字があり、前者に2-94-5がマップされています。
2)これは、X0213の最終案およびUCSへの文字追加提案(1999-7-15)ではという字形になっていたものが、X0213の規格票ではという包摂できない字形に変更されたことを発端とした混乱によるものです。
ISO/IEC JTC 1/SC 2/WG 2へもN2334(http://anubis.dkuug.dk/JTC1/SC2/WG2/docs/n2334.pdf)で29FCEへのマップは「単なる編集上のミスではあるが、重要なミスである」として29FD7への修正を提案していますが、N2353
(http://anubis.dkuug.dk/JTC1/SC2/WG2/docs/n2353.pdf)で却下されています。
3)『JIS漢字字典(増補改訂版)』がUCSを誤って29FD7としています。当書籍は日本規格協会の出版物で、規格票の代用とされることもあり、規定と異なる記載をしていることを明示すべきでしょう。
- 1-94-31(闘の常用漢字表康煕別掲字)のUCSを9B2Dに変更するとされています。変更について問題はないと考えます。ただし、これは2001年5月付けの正誤票で(9B2D)と変更されたものを再度変更したものであり、この部分は「規定」であるため、『面区点位置詳説』をX0213に新設し、この事実をきちんと述べておくことを要望します。規格制定から正誤票発行までの期間の実装と、現在の実装との間での混乱を避けるためです。
- 全角ダッシュ(「―」,1-1-29)のUCSが2015から2014へ2001年5月付けの正誤票で変更されています。この部分は「規定」であるため、『面区点位置詳説』をX0213に新設し、この事実をきちんと述べておくことを要望します。前項と同様に、規格制定から正誤票発行までの期間の実装と、現在の実装との間での混乱を避けるためです。
文字情報について
以下の2文字について、実装する上での情報が不足しており、以下の情報を追加することを提案します。
- 1-94-31(闘の常用漢字表康煕別掲字)
典拠となる常用漢字表の文字が印刷がつぶれていて、字形が判別できません。この文字の解釈については、豊島正之氏の論文
豊島正之,『文字の符号化−新JIS漢字第3・第4水準の開発から見た−』,『京都大学大型計算機センター 第64回研究セミナー報告 東洋学へのコンピューター利用』,2000年3月,3-18ページ所収
が必読だと考えます。当該論文の該当部分のJIS X 0213解説への収録を要望します。
- 2-84-15(ヒキヅナ:糸部5画、
U+24FD4U+25FD4(2003年3月2日修正))
不適切な翻刻から生じた誤字と考えられ、本来、(糸部4画、諸橋大漢和27301、U+25FA3)と翻刻すべき文字と考えられます。詳細は以下の別稿を参照ください。
「ヒキヅナ」という漢字
http://hp.vector.co.jp/authors/VA000964/hikiduna.htm
例示字形を変更する必要はありませんが(変更してはいけない)、『面区点位置詳説』にこの事実を記載し、実装者と利用者が混乱しないようにすべきと考えます。
画数情報について
「規定」ではなく「参考」の部分ですが、附属書6の「h)画数」について不適切なものが存在します。また、記載はありませんが、部首内画数順となっているはずのものが乱れているものがあり、『面区点位置詳説』に記述しておくべきだと考えます。
- 1-14-46人部16画ではなく、人部17画。
- 1-14-58刀部2画ではなく、刀部0画。
- 1-14-70力部8画ではなく、力部9画。
- 1-84-66戈部8画ではなく、戈部9画。
- 1-85-62木部6画ではなく、木部5画。
- 1-86-01木部10画ではなく、木部11画。
- 1-88-63病部18画ではなく、病部19画。
- 1-92-30貝部13画ではなく、貝部14画。
- 1-94-11香部6画ではなく、香部7画。
- 1-94-25骨部15画ではなく、骨部14画(文字画像は規格票(3画くさかんむり)と異なります)。
- 2-01-20亠19画ではなく、亠部20 画。
- 2-03-14冫部2画ではなく、冫部3画。
- 2-05-27夊部9画ではなく、夊部6画。
- 2-05-89子部9画ではなく、子部8画。
- 2-08-05宀部8画ではなく、宀部9画。
- 2-08-19尸部11画ではなく、尸部12画。
- 2-08-87巾部8画ではなく、巾部9画。
- 2-12-92手部3画ではなく、手部4画。
- 2-13-26手部9画ではなく、手部8画。
- 2-13-60手部17画ではなく、手部16画。修正すると、前後の文字が手部17画のため部首画数順が乱れます。
- 2-78-05殳部8画ではなく、殳部9画。
- 2-78-12毛部8画ではなく、毛部7画。
- 2-78-87食部2画ではなく、食部3画。
- 2-80-11爪部10画ではなく、爪部11画。
- 2-80-58玉部1画ではなく、玉部0画。
- 2-80-65玉部4画ではなく、玉部5画。
- 2-81-08玉部15画ではなく、玉部14画(文字画像は規格票と異なります)。
- 2-83-41前後が竹部6画だが、この文字が竹部7画と部首画数順が乱れている。
- 2-84-53糸部11画ではなく、糸部10画。
- 2-85-04老部7画ではなく、老部5画。「ヒ」の入る「おいがしら」は「ヒ」を画数に数えない。たとえば、1-47-23(老)老部0画、1-70-45(耆)老部4画、1-70-46(耄)老部4画、1-70-47(耋)老部6画としているように。修正すると、前の文字が老部6画のため部首画数順が乱れます。
- 2-85-71舟部6画ではなく、舟部7画。
- 2-86-21艸部7画ではなく、艸部6画。
- 2-86-75艸部11画ではなく、艸部12画。掲出字形は「者」に点がある字形のため。修正すると、前後の文字が艸部11画のため部首画数順が乱れます。
- 2-89-57身部11画ではなく、身部12画(文字画像は規格票と異なります(2003年3月2日追記))。
- 2-91-92青部4画ではなく、青部5画。
- 2-92-75食部20画ではなく、食部19画。
- 2-93-45魚部7画ではなく、魚部6画。修正すると、前後の文字が魚部7画のため部首画数順が乱れます。
- 2-93-58魚部8画ではなく、魚部9画。掲出字形は「者」に点がある字形のため。
辞書情報について
「参考」の事項ですが、「諸橋番号」の抜けがありました。
- 2-05-33諸橋 5907が抜けている。
- 2-90-93諸橋 40537が抜けている。
- 2-93-76諸橋 46561が抜けている。
履歴
2003年2月15日 公開
2003年3月2日 2-89-57について、規格票との字形差を追記。2-84-15のUCSの誤りを修正。
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