0.はじめに
ここでは、基本的なレースルールについて解説する。
特別な状態においてのルール等については、ルール・ブック、あるいは、レース規則の教科書を参照されたい。本書によりレースルールの基礎を学んで、レースに参加しヨットの楽しみを大きくふくらませてほしい。
本書は、(財)日本セーリング連盟発行の「セーリング競技規則 2013-2016」がベースになっている。
1.定義
クリア・アスターンとクリア・アヘッド;オーバーラップ
艇体および正常な位置にある装備が、相手艇の艇体および正常な位置にある装備の最後部から真横にひいた線より後にある場合、その艇は相手艇のクリア・アスターンにあるといい、相手艇はクリア・アヘッドにあるという。
いずれの艇もクリア・アスターンでない場合、両艇はオーバーラップしているという。ただし、両艇の間にいる艇が両艇とオーバーラップしている場合もまた、両艇はオーバーラップしているという。
これらの用語は規則18(マークルーム)が適用される場合、両艇がアビームより風下に向かっている場合を除き、反対のタックの艇には適用されない。
フィニッシュ
艇体、または正常な位置にある乗員もしくは装備の一部が、コース・サイドからフィニッシュ・ラインを横切るとき、艇はフィニッシュするという。
避けている
以下の場合、艇は相手艇を避けているという。
2.スタートのシークエンス(規則26、29、30)
通常、用いられる指示等を以下に示す。
(1)スタート5分前(予告信号)
スタート5分前:本部船のマストにクラス旗展開、音響1声
クラス旗は帆走指示書に示された、国際信号旗または特定の旗である。
(2)スタート4分前(準備信号)
スタート4分前:本部船のマストに国際信号旗のP旗、I旗、Z旗、I旗とZ旗、または黒色旗を展開、音響1声
P旗
I旗
Z旗
I旗が展開され、スタート信号前の1分間に、艇体、乗員または装備の一部でもスタート・ラインまたはその延長線のコース・サイドにある場合には、その艇はその後スタートする前にコース・サイドからスタート・ラインの延長線を横切り、プレスタート・サイドまで帆走しなければならない。(規則30.1ラウンド・アン・エンドルール)
黒色旗が展開された場合、スタート信号前の1分間に、艇体、乗員または装備の一部でもスタート・ラインの両端と最初のマークで作られる三角形の中あってはならない。(規則30.3黒色旗規則)
スタート4分前以降、レーシングルールが適用され、レース中となる。
(3)スタート1分前
スタート1分前:準備信号降下、長音1声
(4)スタート
スタート:クラス旗降下、音響1声
(1)から(4)までの音響信号は不発の場合は無視されるものとする。
(5)個別のリコール
スタート直後に、国際信号旗のX旗が展開され、音響信号がさらに1発鳴らされた場合は、スタート信号前にスタート・ラインを越えた、早すぎるスタートをした、リコール艇があることを意味する。(規則29.1個別のリコール)
X旗(掲揚時:音響1声、スタートの音響と合わせて2声)
(6)ゼネラル・リコール
スタート直後に、国際信号旗の第一代表旗が展開され、音響信号がさらに2発鳴らされた場合は、スタート信号前にスタート・ラインを越えた、リコール艇等が多数あり、特定できないか、スタートの手順に誤りがあり、再スタートが行われることを意味する。
新しい予告信号は、音響1声とともに第一代表旗が降下された1分後に発せられる。(規則29.2ゼネラル・リコール)
第一代表旗(掲揚時:音響2声、スタートの音響と合わせて3声)
(7)そのほか、国際信号旗のAP旗(回答旗)でスタート延期(規則27.3)、S旗でコース短縮(規則32.2)、C旗でコースの次のレグの変更(規則33)、N旗でレース中止(規則32.1)を指示したりする。
AP旗(回答旗)スタートしていないレースを延期する。予告信号は降下の1分後に発する。(掲揚時:音響2声、降下時:音響1声)
S旗 コースは短縮された。回航マークの場合、回航マークとS旗を掲げたポールとの間、ラインの場合はそのラインがフィニッシュ・ラインになる。(掲揚時:音響2声)
C旗 次のマークの位置を変更した。(反復音響信号)
N旗 スタートしたすべてのレースを中止する。スタート・エリアに戻れ。予告信号は降下の1分後に発する。(掲揚時:音響3声、降下時:音響1声)
A旗 AP旗、N旗の下に掲揚されると、本日はこれ以上レースを行わない。
H旗 AP旗、N旗の下に掲揚されると、ハーバーにもどれ、これ以降の信号は陸上で発する。
L旗 陸上:通告を掲示した。水上:声の届く範囲に来い、またはこの艇に続け。(掲揚時:音響1声)
3.コースの帆走(規則28)
艇はスタートし、帆走指示書で定められたコースを帆走し、フィニッシュしなければならない。
フィニッシュ後は、艇はフィニッシュ・ラインを完全に横切る必要は無い。
スタート後フィニッシュするまでのその艇の航跡を示す糸をぴんと張った場合、それぞれのマークを定められた側で通過し、それぞれの回航マークに触れるようになっていなければならない。
フィニッシュ後はこの誤りを正すことは出来ない。
4.反対タックの艇が出会った場合
ポートタックの艇は、スターボードタックの艇を避けなければならない。(規則10)
ポートタックの艇は、衝突を避けるために、スターボードタック艇の船尾を通過するか、タックするか、速度を落とさなければならない。
(風下マークを回る時は例外規定がある)
もしポートタックの艇がタックするなら、バウが風位に立ってから、新しいクロースホールド・コースになるまでは、他の艇を、避けなければならない。
2艇が同時にこの規則に従わなければならない場合には、ポート側にいる艇、または後方にいる艇が、避けなければならない。(規則13)
その後、風下であれば、風下艇の権利を得るが、権利艇は、非権利艇が、避けるためのルームを与えなくてはならない。(規則15)
航路権艇がコースを変える時は、相手艇が、避けるためのルームを与えなくてはならない。(規則16.1)
スタート信号後、スターボードタックの艇は、ポートタックの艇が、スターボードタックの艇の後方を通過するように避けている場合、
ポートタックの艇が引き続き避ける為に、ただちにコースを変えなければならないような、コース変更をしてはならない。(規則16.2)
5.同一タックの艇が出会った場合
同一のタックでオーバーラップしている場合、風上艇は、避けなければならない。(規則11)
同一のタックでオーバーラップしている場合、風下艇は、ラフィングできる。しかし、風上艇に避けるためのルームを与えなくてはならない。(規則16)
同一のタックでオーバーラップしている場合、風上艇の2艇身以内にあって、風下艇が後方からオーバーラップしてきたのなら、
風下艇はプロパー・コースより風上に向かって帆走してはならない。(規則17)
6.追い越し
クリア・アスターンの艇(追い越し艇)は、避けなくてはならない。(規則12)
クリア・アスターンの艇が、同一タックの相手艇の風下に自艇の2艇身以内でオーバーラップした場合には、
両艇が同一のタックで2艇身以内の間隔でオーバーラップが続いている間、風下艇はプロパー・コースより風上へ帆走してはならない。(規則17)
7.スタート前の同一タック
風上の艇は、避ける必要がある。(規則11)
風下艇は、ラフできる、しかし、航路権を持った艇が、コースを変える場合と同様に、風上艇に、ルームを与えなくてはならない。(規則16)
風上艇は、速やかに避けなければならない。
スタート信号前には、プロパー・コースはない。風下艇は、風位に立つまでラフできる。
スタート信号後は、風下艇は、後方から、オーバーラップした場合、プロパー・コースより風上に帆走してはならない。(規則17)
8.スタート・マークのルーム
周囲を航行できるスタート・マークにスタートするために近づいている時から通り過ぎるまでは、マークのルームはない。(C節まえがき)
風上艇は、スタート・マークにスタートするために近づいている場合スタート・マークやアンカー・ラインに対して、ルームを要求できない。
風上艇は、風下艇及び本部艇を、避けなくてはならない。
風下艇は、風上艇に、避けるためのルームを与えれば、コースを自由に変えることが出来る。
スタート信号後は、クリア・アスターンからオーバーラップした風下艇は、プロパー・コースより風上に帆走してはならない。(規則17)
スタート・ラインのもう一方の端では、内側艇は、風下艇であって、風下艇の航路権を持っている。
風下の艇のプロパー・コースはマークをかわす事も含む。
9.風上マーク回航
風上に向かうビートの場合、艇が同一タックの場合にだけ、外側の艇は、ゾーン内でオーバーラップしている艇に、マークルームを与えなくてはならない。(規則18.1)
風上マークで、同一タックでなければ、スターボードタックの艇は航路権を持っている。(規則18.1)
同一タックの外側の艇は、内側艇に、マークルームを与えなくてはならない。(規則18.1、18.2)
相手艇がマークをフェッチングしている場合、ゾーン内でタックして同一タックになる艇は、相手艇を避けなければならない。
相手艇が、タックを変更した艇との接触を避けたら、タックを変更した艇は規則違反である。(規則18.3)
10.フリーのレグでのルール
相手艇に風上から追いつかれて、オーバーラップされた場合は、風下権利艇は自由にラフできる。(規則11)
風下艇がラフを続けて、オーバーラップが切れた場合は、クリア・アスターンとなるので、この艇が避けなければならない。(規則12)
その後、再び、オーバーラップしても、風下からオーバーラップしたことになるので、プロパー・コースより風上を帆走してはならない。(規則17)
風下から追いついて、オーバーラップした艇は、プロパー・コースより風上を帆走してはならない。(規則17)
11.風上以外のマークと障害物
マーク回航と、障害物の通過:
外側の艇は、オーバーラップしている内側の艇に、マークルームを与えなくてはならない。(規則18.2)
ゾーン内でオーバーラップした場合、先行艇は、内側でオーバーラップした艇にマークルームを与えなければならない。(規則18.2)
風上マーク以外では、先行艇がスターボードタック、内側でオーバーラップした艇がポートタックだったとしても、先行艇は、マークルームを与えなければならない。(規則18.1)
マークから、先行艇がゾーンに到達した時にオーバーラップしていなかった場合、先行艇は、オーバーラップなしの艇にマークルームを与える必要はない。
オーバーラップなしの艇が後でオーバーラップしても、マークルームを要求することは出来ない。(規則18.2)
オーバーラップなしの艇は、先行艇と内側でオーバーラップした艇を避けなくてはならない。
障害物とは、1艇身手前でコースの大幅な変更を必要とする大きさ物の事である。
係留艇または、航路権のある艇は障害物である。
外側艇は内側にオーバーラップした艇に、障害物を避けるルームを与えなければならない。(規則19)
航路権のある艇は障害物のどちら側を通過するかを選ぶことができる。
障害物がマークの場合、規則18が適用される。ただし、マークが島のような連続した障害物の場合は、規則19が適用される。
12.障害物タック
障害物タックのルーム。(規則20)
クロースホールド艇が障害物を避けるためにコース変更が必要で、同一タックの他艇に接触する恐れがあるためにタックできない場合、
障害物タックと声をかけることができる。
クロースホールドで、かつ、コース変更が、安全上必要で無い限り、声をかけてはならない。
「障害物タック」と声をかけてきたら、声をかけられた艇は、できるだけ速やかにタックするか、「タックせよ」と声をかけ、
声をかけた艇にルームを与えなければならない。
声をかけた艇は声をかけられた艇がタックするか「タックせよ」と言われたら、できるだけ速やかにタックしなければならない。
声をかけた艇は、声をかけられた艇に対応する時間を与えなくてはならない。
例外:障害物が、スタート時のスタート・マーク(例えば本部艇やそのアンカー・ライン)の場合や、
マークをフェッチングしている艇に対しては声をかけてはならない。
13.その他
種々の規則:
常識的に可能なら、航路権を持った艇でも、衝突(による他艇の損傷)を避けなくてはならない。(規則14)
オーバーラップの確立した、または、解けたかが疑わしい場合は、オーバーラップは確立しなかった、または、解けなかったと考える。(規則18.2)
レース中、艇は、スタート前のスタート・マーク、帆走中のレグの起点、終点または境界となるマーク、
フィニッシュした後のフィニッシュ・マークと接触してはならない。(規則31)
艇がマークタッチした場合、他の艇を避けて、速やかに、タック1回とジャイブ1回を含む1回転ペナルティーを実行すれば、マークタッチは解消できる。(規則44.1)
レース中に艇が出会った場合の規則に違反したかもしれない艇は、ケースの際にペナルティーを履行することができる。(規則44.1)
上記のペナルティーは、帆走指示書に特段の規定がない場合には、他の艇を避けて、速やかに、タック2回とジャイブ2回を含む同一方向への2回転を行う「2回転ペナルティー」とする。(規則44.2)
ある艇が規則に違反した結果、他の艇が規則に違反せざるを得なくなった場合、その相手艇は免罪されなければならない。(規則64.1)
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