カメムシの夜
AOWAOW Essay.

 

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【セブ島の子供達を学校へ】


 

·  File bP0【カメムシ】

うぅぅむ、 思い出しただけでもプツプツとチキン肌が全開の夜であった。 こないだも大発生していたカメムシが、最近、再び大発生しているのである。 夕方も缶コーヒーを買いに外へ出たのだが、自動販売機の蛍光灯に誘われた カメムシがビッシリとへばりついていて、とてもとても近づく事の出来る様な 状態では無い。先月から、また新たに「カメムシ注意報」が県下一斉に 発令されているのである、なんか嘘みたいな注意報なのだが事実なのである。

確か大雨洪水「注意報」などは 六時間以内に洪水や大雨で被害が発生する可 能性が有るというもので「警報」になると四時間以内だったか二時間以内だ ったか、発表の基準は各都道府県ごとに異なるそうなので断言はできないが、 今回の「カメムシ注意報」も、もしかしたらカメムシが襲ってくる可能性が 有るのだろうか・・・カメムシは「気象」じゃないから意味が違う事を祈るのである。

とにかく今夜は 、子供を二人も風呂へ入れて喉がカラカラなのである。だから どうしても冷たいコーヒーが飲みたいのだった。買っておけば良かったのだが、 ビールもウーロン茶も、今夜に限って子供のヤクルトさえも冷蔵庫には入っていな かったのである。唯一入っていたのは飲みかけの発砲・・・もとい発泡ワインだけ。 しかしこれは先先々週にコルクを開けて三分の二程度飲んだまま冷蔵庫に入れて あったので、もう発泡ワインと言えるかどうか疑問である。だから今夜あえて これを飲むつもりは無い、この先も飲まないだろう。では飲むつもりのないワイン が何故そのまま冷蔵庫に入っているかというと、「勿体ない気がするから」 なのである。 ワインのボトルを見る度に、もう捨てよう捨てようとは思うのだが、なかなか 捨ててしまう決心がつかぬまま、今日まで処分を保留しているのだった。 「やっぱり捨てた方がいいかな・・・」そう思いながらも、結局今夜も冷蔵庫の ドアを閉めてしまう私であった。しかし喉は乾いている。

だからどうしても今夜は缶コーヒーを 買わねばならんのだ。私は家から一番近い ヤクルトの自動販売機に向かったのである、蒸し暑い夜であった。カメムシは 私の意図を察しているのか、買おうとしている「珈琲たいむ・ビターテイスト」 のボタンの上に居座っている。非常に悔しいが、この際ブリックパックのミルク コーヒーでも構わない事にする。投入口の部分は比較的暗く、メッキが施されて いるのでカメムシは居ない、多分メッキでツルツルなので足が引っ掛から無いので あろう。私は投入口に手が届くギリギリまで間合いをつめて、意を決して百円玉 一枚を投入口に入れた。ヤクルト自販のブリックパックはお得な100円である。 だから缶コーヒーと違い、もう一枚10円玉を投入する危険を犯さなくても済む のである。百円玉の投入と同時に、ブリックパックの選択ボタンに灯がともった。

カメムシがボタンの上に居ないか確認してから 私は、そぉーっとボタンを押した。 ゴロゴロ・ガシャ!

コーヒーが取り出し口に落ちた振動で20匹程のカメムシが 一斉に飛び立った!ブーーーン!ブンブン!ブーン!「うわぁぁぁ!!」 思いがけないカメムシの襲撃に私は声を上げて家まで逃げ帰ってしまったのである。 勿論、取り出し口にはブリックパックを残したままであった。

逃げ帰って自分の右腕を見ると 、しっかりチキン肌(トリハダ)になっている。 走ったので余計に喉が渇いてしまい、我慢出来ずに水道水をゴクゴク飲んで しまった。「ふぅーーうまい」。風呂上がりなので何を飲んでも旨いのだが、 よりによって水道水を味わってしまった。ここら辺の水道水は残留塩素が少ない ので水道水も不味くは無いのだが、せっかくの「風呂上がり水分旨い旨い状態」 なのである、どうせ飲むなら清涼飲料水を飲みたかったのである。 私は敗北感に打ちひしがれ、非常に悔しかった。

しかしブリックパックは未だ取り出し口に 残されたままである。このままでは イカン!「ブリックパック奪回作戦」を決行しなければ、百円まるまる損して しまうのである。台所へ行き戸棚を見上げる、最新兵器が戸棚の上に有った。 その名はアースジェット、それも無香料だ。リアルなハエの絵が目を引く頼もしい スーパーウエポンである・・・言い過ぎだな。しかし、これであのにっくき カメムシ軍団を全滅にしてミルクコーヒーを奪回するのだ!。

今度は軍手をはめ 、長袖とNIKEの帽子という重装備でヤクルトの自販機へ 向かった。カメムシ軍団は先程とは少しフォーメーションを変えて待ちかまえて いた、その数も少し増えて50匹は居る様な感じである。我が兵器の「使用方法」 には、「噴射レバーを引き、室内のハエ、蚊には6畳(約10平方メートル)に つき約5秒間噴霧する。ゴキブリ、ノミ、ナンキンムシ及びイエダニには直接噴霧」 と書いてある。うーん困った。どう考えてもカメムシはゴキブリ系統に属する様な 気がするのである、50匹以上のカメムシに一度に直接噴霧が可能であろうか。 やってみるしか無さそうである。

幸運にも今夜は風がない 、近くの電柱でどの程度の距離から噴射すれば短時間で 均一にカメムシに噴霧出来るかを演習してみた。そして3回の演習で得たことは、 下からだと飛び上がって来るカメムシが怖い、上から横方向にペンキを塗る様に 均一に、しかも素早く噴霧するしか無いという事である。さあ!いよいよ本番である、 敵に悟られぬ様に何食わぬ顔で自販機に近づいた私は意を決して上からアースジェット 無香料を噴射した。ブゥーーン、ブンブン、ブゥーン!半分まで噴霧した時点で カメムシは再び一斉に飛び立ち、その中の一匹が私の左の首筋に当たった!

「うわぁぁぁぁ!」 噴霧を放棄した私は手をバタバタさせて一目散に先程演習した 電柱の所まで撤退した。「はあはあ・・・」電柱の陰から覗くとカメムシが自販機の 周りで飛び回っている、電柱に設置されている薄暗い街灯の光で確認する必要も無い 程、身体中の体毛が逆立っているのを自覚した。 しかしここまで来たらもう引き返せないのである、未だ十数匹飛び回っているが 再び意を決して攻撃に出た(しかし今夜は意を決してばかりである)。今度は、 飛び回っているカメムシの少し手前から噴霧し始めて、その距離を縮めていく作戦を とった、地べたにはもがいているカメムシでいっぱいである。そいつらを踏まぬ様に しなければならぬ、何故踏んではダメかというとカメムシは非常にクサイのである。

カメムシはコガネムシより小型 で平べったく、背中が亀甲形の形をしているので 「カメムシ」と呼ばれているのである。行動の習性や飛び方はカナブンと一緒。 触ると防御の為にそれはそれは臭い液を出すのである。その臭さと言ったら強烈で、 虫世界のスカンクと呼ばれているくらいである。勿論そう呼んでいるのは私と 家族とご近所なのだが。

本来ならば 山間部の杉や檜が多い場所に生息する虫なのだが、ここ数年の夏の 暑さで、杉の花粉が大量発生したのが大発生の原因らしい。本来卵を産み食料 となる杉の実が多かった為であろう。そして大発生したカメムシの大群が山間部 から平野へと食料を求めて移動して来たのである。被害に遭っているのは梅の実や 桃、イチジクなど、美味しい果物の実なら何でもその汁を吸ってしまいダメにする のである。夜行性なので、セブンイレブンなどのコンビニエンスストアーなども 窓やドア、自動販売機の蛍光灯などにベッタリとカメムシが付着して被害に遭って いる。7月いっぱいは、卵が孵る時期なので大カメムシ小カメムシと、さらに 大発生しそうだということで、県下に異例の「カメムシ注意報」が出されている のである。そう、心底から害虫と呼べる虫なのである。

すまん、説明が長くなった。 気が付くと殆どのカメムシが地ベタに落ちてもがいている。 今しかない!すかさず取り出し口からブリックパックを取り出して、撤退した。 自宅に戻り玄関に入ると、丁度子供を寝かしつけた妻が二階から降りてきた。

「・・・どうしたの?」。 軍手をした右手にアースジェット無香料、左手にブリックのミルクコーヒーを 握りしめて、噴霧の間出来るだけ殺虫剤を吸ってはならぬと息を止めていたので、 ハアハアと肩で息する私を怪訝そうに妻は見た。

「はあはあはあ、・・・やっつけたぜ」
「なにを?」
「はあはあ・・・・・カメムシ」

私は勝利に酔って高々とブリックパックを差し出した。 と、同時に妻が言った。

「くさいわね」
「えっ?」

走ってきたので、それまで口で息をしていた私にも、次の瞬間何の匂いが何処から 匂って来るのか判った。ブリックパックである。多分取り出し口にもカメムシが潜入 していて、ブリックパックが落ちてきた時に下敷きになったに違いない。

「くっそぉぉぉ!」 、カメムシの匂いの着いたコーヒーなんて飲める訳が無い。 私はビニール袋にブリックパックを入れて自宅裏の焼却炉へ処分した。

見上げると夜空に星が輝いていた。

そして、何故かその輝きがにじむのであった。

 

【完】

 

◆このお話をお読み下さった方から【カメムシの話によせて】という電子メールが届きました。この「カメムシの夜」よりも恐ろしいカメムシのエピソードです。鳥肌を楽しみたい方は、是非ともお読み下さいませ。

 


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