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家庭用ゲーム機

 最初に、Nintendo64、スーパーファミコン、ファミコン、ゲームボーイ(任天堂)、メガドライブ、セガサターン、ドリームキャスト(セガ)、プレイステーション/2(ソニー)などに代表される家庭用ゲーム機について論じるものとする。
 個人単位の能動的感情の対象の一つとしてコンピューターゲームが出現するに及んだ、という論旨はすでに前章で述べた。すなわち、家庭用ゲーム機の存在理由は、「家庭内での個人単位での能動的感情発露の端末」であることである。

 一般的な家庭用ゲーム機の特徴として、1)個人が所有し、個人での使用を前提としている。2)ゲーム機単体での利用は出来ない。3)周辺機器の必要がほとんどない。4)スタンドアロンとして使用することを前提としている、などが挙げられる。
 家庭用ゲーム機は、1977年に発表されたアタリVCS(アタリ)にその起源を見ることができる。当時、コンピューターゲームは、コンピューターとプログラミング技術を持つ一部の人間しかプレイできなかった。なぜなら、コンピューターゲームをプレイするためには、磁気テープに代表された記録媒体からソフトウエアを読み込み、ソフトを実行する、という動作を「必ず」行わなければならなかったからである。コンピューターのことを知らない人間が、これらの動作を誤りなく行うことができるようになるには、少なからぬ経験を必要としたことは想像に難くない。アタリ社は、アタリVCSを「ゲームをプレイする」ために特化したコンピューターとして発表した。ゲームソフトをROMに焼き込むことによりゲームソフトを拡張ボードとし、拡張スロットに差し込むだけで起動できるようにした。すなわち、ロード、実行の動作をまったく不必要なものにしたのである。入力デバイスもジョイスティックのみに特化し、キーボードを排除した。出力も専用のディスプレイではなく、家庭用テレビを利用できるようにした。作成したソフトを記録する必要がないため、記録媒体へのI/Oを排除した。
 すなわち、1)〜4)の特徴は、コンピューターが家庭用ゲーム機として特化された結果である。それ故、1)は当然の帰結であり、2)、3)は個人がゲーム機を購入、プレイしやすくするための普及戦略の一貫であった。4)にいたっては、個人用ゲーム機の概念が創り出された当時、技術的に端末として利用ができなかったからにすぎない。記録媒体、入力デバイスなど多少の変化があるにせよ、現在の家庭用ゲーム機もこの基本構成を忠実に継承している。ゲームソフトの難易度の上昇や長時間化により、プレイ結果を記録する必要に迫られているにも関わらず、今なお標準的な家庭用ゲーム機の記録手段が存在しないのは、特化の歴史の結果である。
 アタリVCSは、シンプルに特化されたゲーム機である。以来、ゲーム機を販売するメーカーは、差別化戦略に基づき、「シンプルなゲーム機」に何らかの付加価値を附けるべく様々な変更を行ってきた。画面解像度やスプライト機能の向上、音源の高度化、使用可能メモリの巨大化、高速化、コンピュータ化、ジョイスティックの拡張、フォトCDの読み込み機能の付加、CD-ROMドライブなどの拡張性の強化、通信端末化、などである。すなわち、ゲーム機の表現力の強化か、あるいは1)〜4)の「ゲーム機への特化」部分に対する変更に差別化の努力が費やされた。

 家庭用ゲーム機のゲーム機としての改善努力は必要である。しかしながら、家庭用ゲーム機の存在理由「家庭内での個人単位での能動的感情発露の端末」という観点からこれらの努力を顧みるに、あまり有益な結果をもたらすことはないと断定することができる。ハードウェアの根本的な設計概念は、すでに完璧なのである。
 以上の点から考えるに、新たなるゲーム機の開発は、ゲームデザインと無関係におこなうことができなくなっている。
 すなわち、ゲーム機開発者(チーム)のゲームデザインに対する思想が、そのままゲーム機のOSに反映され、それがさらに、ゲームデザインの新たな可能性、方向性、発展性を喚起させるものがなければならなくなっている。ゲーム機はゲームソフトの、ひいてはゲームデザインの可能性を広げるためのものとならなけらばならない。ゲームデザインの可能性の喚起を放棄し、ゲームデザインとは無関係の付加価値をつけたゲーム機は、あらたなゲーム機の販売競争において、勝ち残ることはできないであろう。
 例えば、プレイステーション及びセガサターンは、ポリゴンの表現能力が著しく向上している。その結果、この二つのゲーム機は、ゲームデザインにおいて新たな可能性、方向性、発展性を喚起させ、ゲーム機の新たな潮流となった。また、ドリームキャストにおいて、初めてネットワーク機能が購入時点で付加されるようになった。このドリームキャストへのネットワーク機能の追加も、新たな可能性、方向性、発展性を喚起させるものに成り得る可能性を示す。

 他にも、新たなるゲームデザインの可能性を指し示すものとして注目されるものがバーチャルボーイ(任天堂)であった。バーチャルリアリティに特化したそのスタイルは、ソフトウェアによってゲームフィールドに奥行きをつけることをより容易にし、より視覚的にユーザーにうったえるゲーム作りを可能にした。しかしながら、バーチャルボーイのスタイルは、ゲームの可能性と引き換えに、ゲームにおけるユーザーの能動性の発露という点で重大な欠陥をもたらしている。この欠点は、1995年8月現在、バーチャルボーイの売上台数を予測の1/4である50万台にとどめている原因である。
 

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