15パズルで数学しよう! 〜4〜


 

成立条件とその証明 後編(★★★)

 さて、後半です。後半は、『三文字置換』が大活躍します。

 まずは、次の補題から入ります:

補題2 15パズルでは、任意の三文字置換が可能である。

 証明に入る前に、一つ注意しておきたいと思いますが、ここでは、ある場所にある数字を、他のどの場所に移動させることも可能である、という事実を証明なしに使います。でもそれは、15パズルをもう何回もトライしてきたみなさんなら、経験則で理解できるでしょう(^^)

       
   
   
   
4手
−→
       
   
   
   
図1.6 三文字置換の図(1)
証明:例えば、今行いたい三文字置換を(abc)とする(即ち、今aのあるところにbを、bのところにcを、cのところにaを持ってきたいとする)。
 まずこのa,b,cが、図1.6 のように2×2の部分ブロックの左上・右上・左下に位置していたとした時は、先程決めた、空マスの右下への移動の取り決めの、全く逆の手順によって、そのブロックの右下に空マスを持ってくることが出来る。するとそのブロックの中では、4手で三文字置換が簡単に実行できる。あとは先ほどの取り決めの通りに空白を右下に戻せば、入れ替わっているのはその三文字だけになっている。
 
     
     
       
   
−→
   
   
     
 
4手
−→
   
   
     
 
−→
     
     
       
   
図1.7 三文字置換の図(2)
 次に図1.7 のようにa,b,cがすべてばらばらの位置にあった時。この時、例えばaを然るべき手順によって一番左上のマスに移動させることが出来る。同様にして、b,cをaの一つ右、aの一つ下に移動させることも可能である。注意としては、それぞれその移動の方法を覚えておくことである。
 そしてその移動が済んだら、先程と同じようにその2×2ブロックの右下に空白を持ってくることで、その三文字に対して置換を行い、それが済んだら、先程覚えておいた、a,b,cを移動した手順のまったく逆の手順を踏むことによって、cのあった場所にaを、bのあった場所にcを、aのあった場所にbを戻す。すると、a,b,cのみが入れ替わり、他は元の位置に戻る、即ち三文字置換(abc)が完成する。  □

 これは、論より証拠、実際にお手元の15パズルで実践してみることをお勧めします。

 続いて、ここでまた新しい言葉を定義します。と言っても、これはそんなに難しくありません。
 前に、『転倒数』と言うものを考えました。これは、現状態の数字が基本状態とどれだけ入れ替わっているかと言うことで、特に0ならばそれは基本状態と同じです。ですから言ってみれば、これは基本状態からどれだけ離れた状態か』を示す尺度の一つになっています。
 ところが、そういう尺度なら、もっと直感的なものがありますね。そうです、それが今から定義する「不一致数」です。即ち:

定義 現状態において、基本状態と位置が合致していないような数字の個数『不一致数』と呼ぶ。

 例を挙げると、図1.115パズル不一致数は14([11]のみ一致している)、14−15パズル不一致数2、逆15パズル不一致数14(最下段の[15][14][13]は一つずつ左にずれて、結果[14]だけは一致していることに注意!)です。勿論、転倒数と同じく、基本状態不一致数は0です。
 また注意として、不一致数パリティとは何の関係もありません。

 そして、これが一番のキーとなる命題です:

命題1 現状態基本状態でない状態偶置換)とする。この時、その状態三文字置換を施した状態で、不一致数1以上少なくなるものがある。

証明:実際に、そのような三文字置換を見つければいい。なお先ほどの補題により、どんな三文字置換15パズルで出来ることが保証されていることに注意。
 その状態において基本状態位置が合致していないある数字をまず見つける。次にその場所に本来あるべき数字がどこにあるか探す。2つを見つけたら、更にもう一つ勝手な数字(これも数字と基本状態の位置が合致していないもの)を見つけ出し(注1)、この3つの数字の、この順番の三文字置換を考える。この時、合致していなかったその2番目の数字が基本状態と同じ位置に移動して合致することになり、他は合致するかまたは依然合致しないかのどちらかとなる。つまりこれは、不一致数が1以上少なくなる三文字置換である。  □

※注1:この時3つめの数字が選び出せることは、現状態偶置換であるということから保証される。逆にそのような3つめの数字が選び出せない状態であるとすると、基本状態と合致していない数字は、最初に選んだものと2つめに選んだものの2つだけだということになる、即ちこれは基本状態に対する『二文字置換』状態になっており、よって奇置換である。

 ちょっと難しいかもしれません。これも、実際にお手元の15パズルで実践されることをオススメします。

さーて、いよいよオーラス(死語)。定理1の証明です!

定理1の証明:まず後者の主張は、前半(補題1)で示した通りなので割愛する。
 前者の主張。今、現状態がある勝手な偶置換状態だとする。すると命題1より、その状態から不一致数が1以上少ない状態三文字置換で移行できる。三文字置換偶置換なので、得られた新しい状態ももちろん偶置換である。
 この操作を繰り返していくことにより、不一致数はどんどん少なくなる。そして高々15回の操作で、いつかはそれが0になるはずである。即ち、基本状態になるのである。  □  

 一つだけ注記しておくと、ここで「高々」という数学特有の言い回しを使っています。これは「多くても、最高でも」という意味です。
 とにもかくにも、こうして見事、定理1の証明が出来ました!
 この定理と、今までの話を使って、いくつかの系が導き出せます。それを紹介しましょう。

系1 14−15パズルは完成できない15パズルである。

証明:14−15パズル状態は、基本状態に対して[14],[15]の『二文字置換』になっている、よって奇置換である。  □

系2 逆15パズルは完成できない15パズルである。

証明:逆15パズルの初期の盤面は空マスが左下にある。これを「取り決め」に従って空マスの位置を右下に持っていくと、逆15パズル初期状態は、[4,3,2,1,8,7,6,5,12,11,10,9,15,14,13]となる。これは基本状態に対して、[1],[4]、 [2],[3]、……、[13],[15]の、7個の『二文字置換』として表される。よって奇数個の奇置換なので、奇置換である。  □

系3 ある状態が完成できる15パズル状態だったら、その盤面を左右逆にした盤面に対する状態は完成できない15パズル状態である。

注:これは、『パズル成立判定の考え方』のセクションで触れた予想 『完成できない15パズルの初期配置が見つかったら、その左右対称にしたものは完成できる!』 と全く同じ物です。

証明:現状態が完成できる15パズル状態ならば、偶置換である。
 ところで、系2と同じ理由により、盤面を左右逆にするということは、その状態に対して奇数回の奇置換を施すことになる(実際、ある7個の『二文字置換』を施すことになる)。よってその状態奇置換になり、完成できない15パズル状態になる。  □

 最後に、この「15パズル」というのは、いくらでも一般化できます。
 例えば3×3のマスに8個の数字の入っている『8パズル』、同様、『24パズル』『35パズル』『99パズル』、etc. もちろんその性質から、正方形だけでなく長方形にもすることができます。つまり一般に、『nパズル』というものが定義できます。
 この時、定理1をそのまま一般化した、次の定理が成立します:

定理1′ nパズルは、現状態偶置換なら基本状態にすることが出来る。現状態奇置換なら基本状態にすることが出来ない。

 これに関連したも、いくつかはそのまま使えます。ただしこの場合、系2及び系3は、nの値(正確には、nを与える正方形乃至長方形の横幅)によっては成り立たないことがあります。例えば『24パズル(サイズ5×5)』では成立しません(なぜでしょう? 考えてみてください)。

To be continued...



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