このセクションは、同じく三つ星の付いていた成立条件とその証明 前編及び後編を読んでいる、という前提で話を進めます。 それは、そこで出てきた命題や定義を、フルに使うことになるからです。
まずは、言葉の再定義から始めます。
前編で偶循環及び奇循環という二つの言葉を導入し、それが正式な数学用語ではないということを言及しました。では、正式な数学用語ではどういうのかというと。
偶循環=偶巡回置換、奇循環=奇巡回置換と言います。
ここにおいて、この正式な数学用語で、先ほどの“法則”を改めて言い直しておきます:
定理2 15パズルは、現状態において偶巡回置換が偶数個なら基本状態にすることが出来る。奇数個なら基本状態にすることが出来ない。
そしてこれからこれが、定理1と同値であることを示すわけです。
ところで。この巡回置換と言う言葉に見覚えはありませんか?
そうです!m文字置換という言葉を導入した時に、「m文字巡回置換と言った方が正しい」と言いましたね。まさに、このことなのです!
そして、ここで一つ思い出してください。そこでは、
「二文字置換(互換)は奇置換、三文字置換は偶置換である。」
と言いました。(宿題にしましたが、自分なりにきちんと理解できましたでしょうか?)なお、二文字置換(互換)は偶巡回置換の一種、三文字置換は奇巡回置換の一種です。
そこで、この性質の拡張として、自然に次の命題を考えることができます:
命題2 偶巡回置換は奇置換、奇巡回置換は偶置換である。
一見、偶数が奇置換で奇数が偶置換、ちょっとちぐはぐなように思われるかも知れません。でも、まずはこれを示しましょう! ただしここでは、次の性質:
奇置換×奇置換=偶置換×偶置換=偶置換
奇置換×偶置換=偶置換×奇置換=奇置換
は証明なしに使います。
証明:まずは、(宿題の前半の答えである)二文字置換(互換)は奇置換である、という事実を示す。
今、二文字置換(互換)(i,j)を考える(i<j)。これは、一般に
[1,...,i−1,j,i+1,...,j−1,i,j+1,...,n]
という状態として表される(注:15パズルの上で考える時は n=15 であるのは言うまでもない)。
この状態の転倒数を具体的に計算しよう。
まず 1〜(i−1) までは、その数より小さい数が、その数列のその位置より右には来ていない。
次に、数列のi番目に j が来ているが、i<jより、その位置よりも右にjよりも小さい数が、 (i+1),(i+2), ...,(j−1),i の合計 (j−i)個 あることが分かる。
続いて、(i+1)〜(j−1)。これらはいずれも、その右にあるそれより小さい数は、j番目に位置している i ただ一つである。 最後に、j番目以降は、その数より小さな数はその位置より右には存在しない。
以上より、転倒数は
0+…+0+(j−i)+1+…+1+0+…+0
(但し“1”は((j−1)−(i+1)+1)個)
=2(j−i−1)+1
と計算されるが、これはi,jによらず奇数である。よって二文字置換(互換)は奇置換である。
次に、二文字置換(互換)(以下、互換の方を用いる)の合成というものを考える。
これは、二つの互換(a,b),(c,d)に対して、(a,b)*(c,d)を、
『基本状態に対して互換(c,d)を施してから、その後で互換(a,b)を施す』
と言う風に約束するものとする。
すると、三文字巡回置換(三文字置換)(a,b,c)について、次の事実が成り立つ:
(a,b,c)=(a,b)*(b,c)
つまり、bとcの場所を入れ替えた後、aとbの場所を入れ替えるという操作と、a,b,cをその順番に場所を入れ替える操作とが、結果が全く同じになる、という意味である!
(簡単なので、各自確かめられたい。)
よってこれより、任意の三文字巡回置換は2つの奇置換の積で表され、よって偶置換である。
(これは宿題の後半の答えである。)
全く同様に、一般に『m文字巡回置換』(a,b,...,m)は
(a,b,...,m)=(a,b)*(b,c)*…*(l,m)
と表すことが出来る、つまり『m文字巡回置換』(a,b,...,m)は(m−1)個の互換の合成として表される。
よってmが偶数なら奇置換、奇数なら偶置換である。
これが示したいことそのものであった。 □
ご理解いただけましたでしょうか?
さて、実はこの命題2こそが、定理1と定理2の条件が『同値である』ということを示しているものなのです!
その理由を説明します。
まず、今15パズルの現状態が、k個の偶巡回置換とl個の奇巡回置換で表されているとします。命題2により、奇巡回置換は偶置換ですから、この状態が偶置換か奇置換かは、偶巡回置換の個数のみによります。そして偶巡回置換が偶数個であれば、現状態は偶置換であり、奇数個ならば奇置換になります(定理2→定理1)。
逆に現状態が偶置換(resp. 奇置換)ならば、それがいくつかの巡回置換の積で表されるならば、その中には奇置換が偶数個(resp. 奇数個)なければなりません、即ち偶巡回置換は偶数個(resp. 奇数個)なければならないわけです(定理1→定理2)。
(注:前半で、『同値』とは『一方から他方が導かれ、かつ他方から一方が導かれる』ことといいましたが、それはまさにこのことです。)
定理2の証明は、上記のように定理2が定理1と同値だという事実を示したことによって、それに変えさせていただきます。
To be continued...