進化論全体の展望


 「クラス進化論の 概要」というページを、すでに公開した。そのページを読んで、「あ、そう、わかったよ」と思うような、そそっかしい人もいるかもしれない。
 しかし、そのページで記したことは、進化論の全貌ではない。進化論の全貌は、もっと広範である。そのことを説明しよう。

(1) 概要について

 「概要」のページで記したことは、「基本原理の概要」であるにすぎない。物理学で言えば、理論の基本原理となる公式のようなものだ。(例:ニュートン力学の法則。量子力学のシュレーディンガー方程式。) なるほど、それは、物事の基礎原理である。しかし、基礎原理だけで、理論の全貌をわかった気分になるべきではあるまい。物理学で言えば、1冊の書籍になる分量を、短い要約文だけを読んで理解したつもりになっても、仕方ない。なるほど、素人ならば、それでもいいだろう。しかし、まともな研究者ならば、要約ではない本文を読む必要がある。
 とにかく、「概要」に比べて、「本文」は、はるかに詳細かつ精密である。もちろん、言及していない話題も、いろいろとある。こちらを読まなくては、進化についてわかったことにはならない。

(2) 別の話について

 さらに、まったく別の範囲のことがある。「概要」には、クラス進化論の基礎的な原理が記してあるが、実は、もう一つ、非常に大きな原理がある。実は、ここにこそ、進化が謎である本当の理由がある。
 そもそも、単なる突然変異だけで、猿が人間に進化するはずがない。たいていの進化論学者は、「環境が進化に影響する」という点では議論しているが、「突然変異が進化に影響する」という点ではほとんど議論していない。しかし、「突然変異」と呼ばれているものは、実は、非常に複雑な意味がある。
 突然変異は、単なる「塩基の置換」と思われていることも多いが、単なる「塩基の置換」ぐらいで、猿の遺伝子が人間の遺伝子になるはずがない。それはいわば、「猿がタイプライタをデタラメに叩いたら、シェークスピアの作品になった」というようなもので、確率的にはとてつもなく低い現象である。そんなことは絶対にありえないのだ。そんなことが起こる確率よりは、地球全体がブラックホールに呑み込まれて消滅する確率の方が高いだろう。どちらも確率的にはゼロ同然である。ただし、物理学者は「確率的にはゼロ同然のことは起こらない」と結論するのに、進化論学者は「確率的にはゼロ同然のことが起こったから進化する」と結論するのである。
 では、どのような原理によって、確率的にはゼロ同然のことが起こるのか? 正しくは、「確率的にはゼロ同然のことが起こる」のではなくて、「確率的にはゼロ同然のことが起こるように見える」だけであって、本当は、「確率的にはゼロ同然でないことが起こる」のだ。そこには、ある特別な原理が働いている。
 その特別な原理は、何か? 実は、あまりにも複雑なので、要約を書くだけでも、相当の紙数を要する。しかも、その要約を理解するためには、あらかじめ、「クラス進化論の本編」をすっかり理解しておく必要がある。だから、ここには、書かない。書いても、意味がない。
 ただし、参考のためにヒントを言っておけば、それは、いわゆる「幼形成熟」(ネオテニー)に、かなり似た概念の原理である。
( ※ ついでに言えば、世間には、「幼形成熟で進化が起こった」という説があるが、そのままでは間違っている。たとえば、「猿の赤ん坊が人間に似ている」という理由で、「猿が幼形成熟によって人間に進化した」という説が唱えられている。しかし、「猿の赤ん坊が、赤ん坊状態のまま大人になったので、人間になった」というようなことは、まったく成立しない。……では、どうすれば正しく理解できるか? それには、やはり、「クラス進化論」の考え方を導入する必要がある。)

(3) 遺伝子の意味について

 すぐ前で述べたように、クラス進化論以外にも、進化論の範囲がある。その範囲のことを理解するためには、遺伝子についての認識も改める必要がある。つまり、「遺伝子とは何か?」ということを、根元的に考え直す必要がある。
 「遺伝子とは何か?」ということをめぐって話題にするとき、分子生物学的に判明した事実と、進化論において理解されている遺伝子の意味とは、矛盾する点がある。この矛盾があるから、ドーキンズのように、「親は自分の遺伝子を増やそうとする」というような、まったく事実に反する解釈が出てしまうのである。ドーキンスの説は、こうだ。
 「親は自分の遺伝子を増やそうとする。遺伝子はそれぞれ自己複製を目的とする。そうして、遺伝子が利己的に生存競争をして、そのなかで生き残った勝者が増えていく。かくて、最も優秀な遺伝子が増えて、種全体で進化が起こる」と。
 しかし、この説は、まったく正しくない。その理由は、「概要」のページにすでに述べたとおりだ。(「無性生殖」や「近親婚」など。)
 では、正しくは、どうなのか? ここではとりあえず、「遺伝子とは何か」ということを、わかりやすい言葉で、簡単に言っておこう。次の通りだ。

(4) まとめ

 先に述べたとおり、「進化とは何か」を知るには、「遺伝子間の優劣」や「クラス交差」を前提とした、「クラス進化論」の理論を構築する必要がある。
 一方、すぐ前に述べたように、「進化とは何か」を知るには、遺伝子について新たな認識を前提として、新たな理論を構築する必要がある。
 この二つの理論が、進化論の両輪となる。「クラス進化論」は、それだけでは、進化論の半分にすぎないのだ。


 題 名   進化論全体の展望
 著者名   南堂久史
 Eメール  nando@js2.so-net.ne.jp
 URL   http://hp.vector.co.jp/authors/VA011700/biology/

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