小説「二重螺旋」

主要登場人物:
樟葉(くずは)  正信:主人公、二十歳、神代(かみしろ)大学2回生
河本            清美:恋人
間中(まなか)  陽治:中学以来の親友。
木下            涼子:正信のサークルの先輩。正信を可愛がってくれる。

  ここは、天界、地上界、魔界の3つからなり、天使、悪魔、人間の共存する

幻想世界。我々には、存在するのかしないのかを確認することもできない異次

元の世界。

  天使と悪魔は常に争い長期戦争状態にあった。しかし、人間がいる地上界は、

天界や魔界から自由には出入りできないため、運良く入り込めた人食い魔族や

寄生魔による、神隠し事件が時折起きる程度の案外平穏な日々が過ぎていた。



第零章〜プロローグ〜
光陰暦1977年「天魔戦争、第八次全面決戦」

  光陰暦1977年、548年ぶりに天使と悪魔の全面決戦が起きた。場所は

魔界と天界の境界にある雲上の砦。天使軍約150万、悪魔軍約135万、双

方の勢力のほとんどがここに結集した。老若男女入り乱れた大軍である。双方、

この長く続いた戦争状態に終止符を打つべく結集したのである。数的にはほぼ

拮抗し、軍勢はともに老若男女入り乱れた混成軍。統制など取れるはずもなく、

大混戦となり、双方の約半数が死亡、4割は行方不明、無事に生還したのは、

天使方18万、悪魔方12万であった。この時、地上に落ちたものも多数いた。

もっとも、無傷で地上に着いたものがいるはずもなく、多くの者は地上に叩き

付けられて即死したか、瀕死のところを人間に殺られたのであった。

第一章 〜日常〜
  リリリリリ、リリリ…ガチャ。

  8時15分、もうこんな時間か…。自宅から大学に通う者にとって決して早

くはない朝。とりあえず、ご飯に味噌汁、焼き魚という、いたって和風のお決

まりの朝食を摂り、家を飛び出す。

「いってきまーす。 あ、今日サークルで遅くなるからね」

  一応まじめに朝から大学へ向かう。駅まで5分、電車の中35分、さらに駅

から大学まで20分かかる。当然1限には間に合わないんだけど…。いや、目

覚ましは8時前にかけてるんだけどね、いつも無意識のうちに止めてしまって、

予備にかけてある3個目の目覚ましでいつも目が覚める。

  っと、そんな事より急がないと。駅に走り込み、ポケットから定期を出して

改札へいれる。ピコ−ン。警告音と同時に改札のゲートが閉じた。あれっ? 定

期の期限切れか? と思って、切符出口を見ると、それは…定期と一緒にポケッ

トに入れていたテレカだった。??テレカ? 一瞬自分でもあっけに取られな

がらも、半ば無意識にそれを抜き取り、人に見られなかったことを祈りつつ、

何事もなかったように定期を入れ、改札を通過し…

「おっはよ、正信。ちょっと遅くない?」

「うおわっ、清美!? お、おはよう。」

「どうしたの、そんなに動揺して?」

「いや別に、走ってたからちょっと息切れしてるだけだよ。」

「ふーん、改札にテレカ入れたから焦ってるってわけじゃないんだあ。」

「えっ、いや、(やっぱり見てたの?)…」

  改札の出口をふさぐようにして、声をかけてきたのは清美だった。ま、僕の

彼女なんですよ。なかなか元気で明るくしっかり者、というと聞こえはいいけ

ど、ちょっと気が強いうえに気分屋でいつも僕が振り回されている次第。でも、

やっぱり好きなんだけど…。

「ねえ、もうすぐつきあって1年ね。7/3はちょうど土曜日だし、どっか出

かけようよ。車でなくてもいいからさあ。」

「もうすぐ1年経つんだよなあ…。」……

ぽかっ。「あたっ」

「何しみじみしてんのよっ、まったく。おっさんじゃあるまいし。」

「なにもたたかんでもええやん。ま、それは置いといて。7/3は思い切って、

あの港までドライブなんてどう?」

「ドライブ!? やったっ☆ でもやっぱり止めた方がいいかも…」

「何で?」

「だって、事故って心中なんてことなったらどうすんのよ。」

「大丈夫、清美だけ死なせたりはしないから。」

「……だから不安なんだって。 でも、まいっか。同じ死ぬんでも、正信と一

緒なら」

「(えっ)………」

「何赤くなってんのよ、冗談なのに。まったく、純情なんだからあ。でもそん

なとこ好きよ。」

「……(顔真っ赤)」

「それじゃ、7/3はちゃんと迎えに来てね。それじゃまた後で。」

    そう言うと清美は電車から降り、改札を駆け抜けてちょうど駅前に止まっ

ているバスに向かい軽やかに走っていった。

  毎朝僕は、清美と一緒に電車に乗って神代大学に通っている。僕は農学部で、

清美が教育学部。神代大学は山の中にあり(パンフレットには、山の麓と書い

てあるが)、キャンパスも、学部によって高度が全然違うというすばらしい大

学である。清美の通う教育学部はその中でも一番上にあり、駅から山に向かっ

て2キロほどのところにある。2キロといえば歩けるかもしれない距離だが、

駅より200mも高いところにあるので、みんなバスを使っている。一方、僕

が通う農学部は最も下にあり、駅から1.2キロ、徒歩20分のところだ(と

いっても結構な坂だが)。だから神代駅に着いたら、僕は清美がバスに乗るの

を見送ってのんびり歩いて上るのである。といってもすでに9:15で授業は

始まってるんだけどね。で、家を出るとき急いでいるのは、遅刻しそうだから

じゃなくて、清美が待ってくれてるからなんだ、実は。

  そうしてまったく焦らず、山の空気を吸いながらのんびり農学部に向かって

歩いている。そんな横を、ときおり原付が走りぬけていく。おいおい、ここは

歩行者と自転車しか通れないはずやぞ!! とちょっとむかついたりするのだ

が、いつものことなので、最近は気にしなくなっている。

バリバリバリバリバリ…  ん、大型バイク!?

「おっす、樟葉。今日も遅いなあ、やっぱり」

「おお、陽治! おまえ人のこと言えるん、今ごろ来て…。 それより、乗せて

ってーや」

「おう、ええぞ。しっかりつかまれよ」

バリバリバリバリバリ…

  うーん、通行違反の原付にむかつきながらも、友達の大型バイクに2人乗り

させてもらってる自分って何だろう? 結構いいかげんなもんだな、我ながら。

ハハハ。

「なあ、新聞見たか? 樟葉。昨日けったいな殺人事件あったらしいなあ。頭

も腹も足もぐちゃぐちゃになってて、まるで獣が獲物の肉を食い散らしたみ

たいになって公園に人が転がってたんだって。しかも場所は神代だってよ」

「うん、見た見た。物騒なもんだよなあ、まじで。人間だとは思えないよなあ、

こんなひどいことする奴って」

「おお、まったくだ。ところで、一部のオカルト連中は、悪魔の仕業だ、化け

物でたんだとか騒いでて、新聞にもそれが載ってたけどどう思う?」

「まさか、そんなわけないっしょ、悪魔だなんて…。でも、そう言えば、うちの

親も20年前、悪魔見たとかいってたなあ。今朝も、20年を思い出すねえと

か2人でいってたし。」

「えっ、樟葉の親って悪魔見たことあるの??」

「いや、多分見間違えだと思うんだけどなあ。20年前って物騒な事件いろい

ろ起きてて、確か悪魔騒ぎの出た年だろ。怖くて何かと見間違えたんだよ、き

っと。だって、本当に悪魔見たんだったら無事な方がおかしない?」

「うーん、それもそうな気がする。でも、20年前に世界中で悪魔が出たって

のはまじらしいなあ。人間業とは思えない惨殺事件が起きたり、神隠しが多発

したし、写真とかも残ってるし、実際、悪魔の死体らしきものもあるらしいし

な。」

「それは本当らしいね。軍隊まで出てきてようやく収まったらしいね」

「でも、そう考えると今回の事件ってただの殺人事件なのかもね、ちょっと人

間のしたこととは思いたくはない酷さみたいだけど」

「さ、着いたぞ」

  僕と陽治は、車輪止めを強引に突っ切り学舎横にバイクを止めた。そのまま

学舎に入り、堂々と後ろから教室に入る。こうして、いつものように、一日が

始まった。いつもと変わり映えのない1日のはず…。

次の章へ

メニューに戻る