ブラックジャックにおける情報処理戦略

- レインマンは本当に勝てたのか? -

概要

 本稿ではカードゲームであるブラックジャックのコンピュータ・シミュレーションを行い、そこにおいて情報収集能力と推論能力の優劣がどの程度ゲームの戦績に反映されるかを、統計的検定法を用い分析した。
 ここでの情報収集能力とは、カードカウンティング(場に出たカードを記憶し、残りカードを把握すること)の能力である。これは一般に有効なテクニックとして知られている。一方推論能力とは、残りカードと手持ちのカードという情報を、いかに有効に処理・加工するかの能力である。

 10,000 ゲームからなるシミュレーション結果は、以下のようになった。

  1. カードカウンティングには、あまり有意な効果が見られなかった。
  2. ディーラーのアップカードを参照した推論が、それを行なわない場合に比べ有意に効果的であった。

はじめに

 賭け事には、大別して二種の戦略が考えられる。

 ひとつはその場における既知の情報から、未知の事象の起こりうる確率を客観的に計算する方法。もう一つは、目にみえない「運・不運の流れ」を主観的に判断する方法であり、これは俗に「ツキにのる」といわれる。前者を確率論的推論とするなら、後者は時系列的推論といえる。長期的な視点に立つ限り、前者の方が信頼性があると一般には思われている。

 ただしこの確率論的推論の客観性にも限界がある。なぜなら第一に、プレイヤーはその注意力・記憶力などに応じて、あくまで限られた範囲でしか情報を収集できない。したがって、各人が利用できる情報の量・種類にはおのずから個人差がある。第二に、たとえ同一の情報を利用できるとしても、その処理方法はプレイヤーの計算・推論能力などにより様々に限定される。

 つまり、たとえ複数のプレイヤーが同一のプレイ条件から客観的推論を意図したとしても、そこにおいて「どの情報を」、「どのように処理するか」はプレイヤーの能力に応じて制約され、その範囲内であくまで主観的に決定されるしかない。

 むろん、より多くの情報を集め、より精緻な推論を行なうプレイヤーが勝つという予想はできる。それはプレイが長期にわたるほど、明らかに結果として現れるだろう。しかし同時に、大量の情報収集や精緻な推論はプレイヤーの精神的消耗を早め、かえって長期的なプレイに向かないというジレンマもある。したがって、より高度な情報収集や推論を行なうことのコストが、それによる利益(配当の増加)に見合わねばならない。情報収集と推論の程度をどのレベルに(主観的に)設定するかは、主にこの点から決定されるだろう。

 本稿ではトランプゲームのブラックジャックを取り上げ、そこにおける情報収集能力を三段階、推論能力を三段階設定した。さらにそれらをかけあわせた 3×3=9種類の戦略を定義し、これらをコンピュータプログラム上に記述、対戦させた。各プログラムは同一のコストで一貫したパフォーマンスを見せる以上、もし高度な戦略を取るプログラムが簡単なそれと大差ない成績しか収められなかったとしたら、現実のゲームで敢えて前者を用いる点には疑問がもたれる(あるいは、仮に勝っても実はまぐれである)と結論できるだろう。

 ブラックジャックでは、ハウスルール(ローカルルール)を含めると、様々な場面でプレイヤーは選択を迫られる。しかし主なものは以下の二点であろう。

I. そのゲームに参加するか否か。
II. 次のカードをヒットする(引く)か、あるいはステイする(引かない)か。

 本稿ではこの II に関する戦略に限って考察を行なった。

 I に関して言えば、ゲーム開始時にはカード内容が未だ全く分からない以上、ゲームごとの勝敗の見込み(具体的には配当の期待値)は、その時点では同一である。したがって、確率論的推論を意図するプレイヤーがゲームに参加しない理由はない。よって本稿のプレイヤーは、毎ゲームごとに機械的にチップを張り続ける。(なお統計処理の都合上、1ゲームで張るチップ額は一律2にしている。)

 また II についても本当に選択を迫られる機会は限られている。まず最初の2枚が配られた時点で、もしプレイヤーかディーラーのどちらかがブラックジャックだった場合、両者の勝負は自動的に確定、終了してしまう。さらに両者が共にブラックジャックでなかったとしても、カード合計が11以下ならば、プレイヤーはやはり機械的にヒットするはずである。なぜならこの場合ヒットしてもバストする(カード合計が 22 以上になり失格する)可能性はなく、ヒットしないことによるメリットも無いからだ。そしてカード合計が22を超えればプレイヤーは失格となり、もうヒットできない。以上の諸々のケースでは、どのプレイヤーも選択の余地なしに、同一のふるまいをするしかない。

 よって本稿で扱うのは、「ブラックジャックが起こらず、手持ちのカードの合計が12以上20以下になったとき、場の状況からどのようにヒット/ステイの選択を行なうか」という戦略になる。

 なお、ブラックジャックでは絵札は一律10、A(エース)は1あるいは11として計算される。以下ではゲームで使用されるカードの値を、そのカードのバリューと呼ぶことにする。(例えば、Aは1あるいは11のどちらかのバリューをとる。)

目的

 ブラックジャックにおける各種情報処理戦略の有用性を、オリジナルのシミュレーション・プログラムにより検証する。

方法

使用ソフトウエア :
Microsoft Visual Basic Version 4.0
使用ルール :
ディーラー1人、プレイヤー6人の計7人で、トランプゲームのブラックジャックを行なう。カードの配分、カード合計の方法などは 一般のブラックジャックのルール に従う。他に、以下の条件を用いる。これらは基本的に、海外のカジノルールを参考にしたものである。

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