オレンジ奏法

 ギターをコード弾きから始めた場合の弊害として、フレットハンドでリズムが取れなくなる、はすでに書いたが実はもう一つある。アップピッキングの切れが悪くなる。ただし10人が10人というわけではない。手首を使ってピッキングしようとしている(まじめな)人だけである。
 要はこういうことだ。6弦を一気に弾けるようにストロークの幅をとろうとして手首を小指側に過度に曲げてしまう。親指側に曲げるより可動域が広いからね。しかし可動域が広いといっても楽に曲がるわけではない。親指側は限界まで曲げてもほとんど抵抗を感じずに済むが、小指側に曲げると途中から痛くなる。(でも曲がる)

 さて痛いながらもダウンは終わった。次いでアップに移ります、のとき人はどうするか?痛みを解消しようとしてまず手首から戻そうとする。本能だから仕方ない。ところがこれが「アップピッキングが苦手」の大きな原因になっているのである。
 つまりダウンの時は、おそらく
腕を落として→手首を落とす
の順序になる。このとき僅かながらタメができる。なのでタメを解消しようとして、手首、指先が単独ではできないほどの高速でピシッと弦をはじくことができる。
 先に手首が動いてしまっては手首だけの速度で弦をはじくことになり切れが悪い。

 理由と現象は分かっていたので、ほぼ克服したつもりで、かつ「気をつけましょう」以外の対処法を思いつかなかったので紹介することはなかったのだが、
「器具を使って矯正」
といういかにもなやり方を思いついて、家になかったので100均に走って適当なものを選んで、やってみたらいけるじゃありませんか。
 もともとはダニエル=バレンボイムが若き日のランラン(今でも十分若気の至りにあふれているが)のところにきて「ピアノは弾けるかい?」と尋ねた時のエピソードをふと思い出して、のもの。もちろん「弾けます」なのだが、バレンボイムは「その弾き方じゃダメだ」とオレンジを白鍵の上に乗せてそれを転がしながら弾いてみせたとか。それ以上は知らないが曲はショパンのゲスな練習曲「黒鍵」だったに違いない。
 この話を聞いた時はバレンボイムのジョークだと思っていたが、でもね、指先だけを伸ばして弾こうとしてもオレンジがそれを許してくれないのよ。正しいポジションに手首から、つまり腕をきちんと動かしてやらないとちゃんと弾けない。バレンボイムはジョークに見せかけてランランにとても大事なことを教えたのだと今になってわかった。

 ということで紹介。まずは適当なボールを掌というか手首の下に敷いてピックだけでアルペジオ。ミュートには目をつむって。最初はPaul McCartney & WingsのCountry Dreamerのイントロがいいかな。分かりやすくCで。4弦3フレットおよび2フレット、3弦開放、2弦1フレットの組み合わせ。簡単な割に難しそうに聞こえるのと、楽器の響きがよーく分かるので試奏にも使える。覚えていて損はないフレーズです。
 ボールが飛んでいかないよう手首の位置を先に決めないといけないので、嫌でも手首が動きます。私の場合もアップの時に弦の震えが目に見えなくなりました。(ピッキングが疾く、軽いので弦がいきなり回転を始め震えているのが肉眼では見えない。)
 仰向けに寝た状態で、かつフラットトップのギターでないと最初はうまくいきませんが、こういうボールを使うと起きてもできます。あまり力を入れて押さえないように気を付けないといけないのが、ちょっと、アレですが。

 でもせっかくだからショパンの練習曲Ges-Dur「Schwarze Tasten」にさわりだけでも挑戦したいよね。というわけで読譜開始・・・え、これ究極のペンタトニックアルペジオじゃないの。

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