ビッグ3をつぶさなければならないわけ

 お金を借りて、材料仕入れて(何か作って)売って、利益を出して、その中から利息を払う、というのが利子の源泉と習った。
 これは1つの事業者の話だが、これを社会全体に拡張するとどうなるか。
 世の中の生産活動、みんなお金を借りてから始めているのだとすれば、利息は利益の合計より少ないはずである。利益の合計とは何かというとそれは経済成長分であろう。
 すると、利子率は経済成長率より少なくなる。

 みんな事業を始めるのはお金を借りてから、というのは、なかなか厳しい前提、ではあるが「機会費用」などと専門用語で武装するとそれらしく聞こえる。ともかくも私の経済学への出発点はこの直感だったわけだ。(もっと遡れば、価格という不安定なものに何もかもが集約されることへの疑問だったわけだが、小学校の作文の話はさすがに照れくさい。)

 ということで、(インフレ調整後の)経済成長率より国債の利子率が高くなったことに対して「異常な事態が到来した!」「こりゃインフレでちゃらにする気だな」と直感的に騒いだ。
 建前上、国債は国が借金をして、社会に投資、それで経済成長率を吊り上げて、税収を増やし、返済するもの。たしかに発行時の経済成長率よりも利子率が高くなることはあるが、完全な市場経済の下では、すぐに一致するはず。
 しかしその後30年、日本経済は持っている。
 さすがに中学生の考えた理論、やはり間違いがあったようだ。

 しかし、あまりにシンプルな理論。逆に崩すのは大変だ。で利子の源泉は他のところにもあるのでは、と考えた。1つは海外の経済成長率の高いところに投資する。もうひとつは「どこかでインフレーションが起こっている」。以前にも書いたが、インフレが起これば名目上利益が出るのだ。
 これを「局地的インフレーション」と勝手に名づけた。つまりバブル経済のさきがけとなった、不動産価格の急上昇や続いて起こった株価の急上昇、である。消費者物価上昇への影響は限定的なので、国民生活への影響は少ない。なるほど、上手い手だ。

 これが国債の利子を払うくらいだったらなんとかなったのだろうが、残念ながらそうはならなかった。資本市場はつながっているから、赤字国債で利率が経済成長率以上に押し上げられた結果、社会全体でいうと「生産して稼ぐよりも、金利で稼いだほうが儲かる」というとんでもない状況になってしまったのだ。
 もちろん、そんなことは不可能(と思う)しかし、実際に経済成長率以上の金利が支払われている以上、論より証拠。可能なのだ。こういう合意が資本市場にできてしまった。
 すると、産業の空洞化が起こる。お金が工場や運輸に投資されるのではなく、資本市場へ直接持ち込まれることになる。
 馬鹿な日経新聞その他のマスコミはこれを「カネ余り」と呼んでしまった。実際は「運用難」である。経済成長率以上の利子率を当然視するカネが生産に投入されず、資本市場で空回りしはじめたのだ。

 かくして、常識以上の利子率を求めるカネは妙なところに向かうことになる。
 第一のパターンは比較的健全であった。海外の経済成長率の高いところに投資する、という手法である。しかしながら従来は資本主義外の部分を取り込むことによって爆発的な利潤を生むことができた海外投資も、昔ほどのうまみはなくなったらしい。途上国の累積債務問題を産むことになった。
 第二のパターンは、価格のついていないものに値付けをして、売却することにより超過利潤を生むことを目指した。簿価と実際の価格の差だけも随分な額になる。ゆとりをゼロにすれば、たいていのところで利潤も増える。
 第三のパターンは、累積債務問題と似ている。今まではとても貸出ができなかった相手に高い金利と引き換えにお金を貸すのだ。ただし今度は国内である。こいつはサブプライムローンである。第三のパターンとはいえないかな、第一のパターンの変形か。

 第一、第三のパターンは、リスクが顕在化したところで破綻する。第二のパターンは、切り売り対象がなくなったところで破綻する。そして破綻の危機に瀕した第二のパターンはついに、ビッグ3を切り売りすることを考え始めたらしい。追い詰められたファンドは合衆国の基幹産業を壊滅させるしか生き残る手が無いようだ。ただし幸いにして「そんな高い利子は払えないんだよ」という常識が広まったとは思われるので、軟着陸はできるだろう。世界の危機は救われた。失業者問題は考えないことにする。政権が変わると「イラクやアフガン勤務を紹介する」ことができないだろうし。

 日本の場合、ゼロ金利政策とやらで、強制的に運用する場合の利子率が経済成長率以下に抑えられたので、無茶をする輩は少なかった。海外の先進の金融工学を使えば稼げる以上の利息が儲かるという幻想はあったが、本格的に乗っかる前に海外で破綻があったようで、傷が浅くて済んだようだ。

 ここから先は、自分でも良く分かっていないのだが、日経新聞あたりがよく使う「○○市場に資金が流れ込み」という表現、間違っている。例えば株式市場というバケツがあってそこにお金が貯まってゆくわけではない。株価を形成してすぐに流れ出る。株式や商品のような相場への投機は、ものの生産をともなわないので、その分、貨幣の流通速度が高まって、おかげでインフレが起こるのかなと(古典的な貨幣数量説が出てくるところが、やっぱり僕の頭って単純)、そんな気がしている。

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