避難する人々がごったがえしするなか、何かが飛び上がってくる。
「・・・・・・!」
もみくちゃされていたスパイクとジェットとフェイは、思わず目を疑った。
桜貝色の人面魚が口から何かを吐き出しながら、飛び上がってきたのだ。
尻餅ついてしまったジェットの目の前に、人面魚が迫る。
ジェットが銃を構えると、人面魚は口から何かを吐き出した。
ドロドロとバターが溶けるように、銃が溶けだした。
周辺のものもそれと同じ被害にあっている。
「スパイク、フェイ、そいつは口から酸を吐き出している。気をつけろ!」
スパイクは人面魚に拳を構えて、立ち向かおうとすると、目の前で何かが横切った。
アインが人面魚の胴体に噛みついてきたのだ。
人面魚が振り払えば、振り払うほど、アインの噛む力が強くなる。
スパイクがもう一度、拳を構えようとすると、また何かが飛んできた。
それは、床ブラシだった。投げ付けたのは、エドだった。
人面魚がエドに向かって、攻撃をしようとした、その時、
プシュウウウウウ!
エドの両手に構えた白い筒で、発射した。
鼻にむせるガスが建物中に充満してきた。
すると、天井に取り付けられたスプリンクラーが噴射した。
スパイクとジェットとフェイとエドとアインがかろうじて屋外に避難した。
そして、30分後・・・。
現場には、警戒態勢が敷かれて、容易に立ち入ることができなくなった。
結局、皮膚にただれた者とガスを吸い込んで中毒になった者をあわせて、75人の負傷者を出した、いわば大惨事になったのだ。
肝心の人面魚はというと、シーツにくるまれて、担架で運ばれた。
「あ〜、賞金が・・・」
フェイが嘆いた。
「血の滴る分厚いステーキが・・・」
スパイクが肩をすくめた。
「エド、お前、何を使ったんだ?」
ジェットが質問すると、エドはあるものを差し出した。
「・・・・・・!」
ジェットは表示を見るなり、思わず、
「トイレ用クリーナー、『まぜるな!危険!』だと?!(-_-+)」
と大声であげた。
ここで説明しなければなるまい。
酸とアルカリが混ざると、化学反応を起こす。人面魚の口から吐き出した酸と、エドが発射したアルカリ性のトイレ用クリーナーと混ぜれば、有害な塩素ガスが発生する。それを吸い込むと命を落とす危険性がある。(警告!これは危険ですので、絶対に真似しないでください)
「どう?エドのかつやくは?」
「ちっともよくないっ!!!」
スパイクとジェットとフェイが口を揃えて怒鳴ると、エドは悪びた様子もなく、
「エヘヘヘヘ・・・」
と笑ってごまかした。
翌日、いつもの場所にビバップ号が停めている。
いつものように、フェイは大胆な水着姿で日光浴をしており、スパイクも釣りをしており、ジェットも洗濯物を干しながら、エドに『人魚姫』を聞かせている。
「自分の命を助けたのは、人魚姫ではなく、隣の国のお姫様と思い込んだ王子様は、そのお姫様と結婚したそうだ」
「それで、おうじさまとむすばれなかったにんぎょひめはどーなったの?」
「後に、王子様をたぶかした罪で裁判にかけられ、火あぶりの刑に処せられたそうだ」
「ざんこく〜(~_~)」
エドが震え上がると、
「俺にはケダモノとしか見えねえな・・・」
スパイクがボソッとつぶやいた。
「そんなことよりジェット、例のケダモノの正体がわかったのか?」
「エドに警察のデータをハッキングしてもらったら、意外なことがわかったんだ」
「意外なことって?」
ジェットの説明は、次の通り。
1週間前に誘拐殺人の容疑で逮捕された科学者がいた。
科学者は、すばぬけたルックスと巧みな話術で少女達を油断させて、自分の研究所に連行した。
彼は、遺伝操作で巨大化した魚と少女を転送マシンにかけて、人魚を作り上げようとする、正しく人道を無視した暴挙に及んだ。
警察が研究所を捜索したところ、水槽には『失敗作』として処分された少女達の、いや人面魚の死体が発見された。念の為に死体の遺伝子を採取して調べたところ、誘拐された少女達の遺伝子の一部が魚の遺伝子に取り込まれたことが判明した。
昨日、スパイクが釣り上げた人面魚は、そのうちの生き残りらしいというのだ。
「同じ人面魚なら、はねっかえりの人面魚だったらよかったのにな・・・」
スパイクがつぶやくと、フェイが怒ってサンオイルを投げつける。だが、当たったのはスパイクの横で寝そべっているアインの頭だった。
「キャインキャインキャイン」
アインが起き上がって、悲鳴を上げた。
「所詮、ケダモノはケダモノか・・・」
スパイクの釣竿が重く感じた。どうやら魚が釣り針に引っ掛かったらしい。
いざ、釣り上げてみると、奇妙な形の魚だった。
「ジェット、こいつ喰えるか?」
「さあな・・・」
作/平安調美人