最近、フェイの金切り声がたまらないんだ。
その第一声ときたら、
「ちょっと、ふざけんじゃないわよっ!」
という一言で始まる。
例えば、シャワーの温度がぬるかったり、例えば、芯の残ったスパゲティだったり、例えば、見てしまったつまらないトレンディ・ドラマだったりとあの人間はよく怒るわ、怒る。
つい、今日なんか、リビングで、
「ジェット、あのバカ犬を何とかしてよっ!」
と怒りだした。
「ん?今度は何だい?」
台所で料理をしているジェットが覗き込むと、
「見てよ、このリビング!」
フェイに言われてリビングに入ると、ソファーにフサフサとしたものがついていた。
それは、僕の抜け毛であった。
「何だ・・・」
「その何だとは何よ?」
「つまりだな、アインの毛が抜けるということは、生え変わりの季節がきたということだ」
「だったら、掃除すれば?」
「俺はメシを作ってるところだ」
「じゃ、モサモサの方は?」
「スパイクなら、エドと一緒にあのビデオの弁償を払いに、いっちまった」
「あっそう?だったら、アタシがあのバカ犬の毛を掃除しなきゃいけないわけ?」
フェイの金切り声が次第に大きくなって、
「冗談じゃないわよっ!」
と言いながら、僕の胴体を蹴った。僕も負けじに、フェイの足を噛むと、
「このお美しい足に膿みでもできたら、どうするの、このバカ犬!」
と反撃されて、ますます険悪なムードになってきた。
「いい加減にしろっ!」
ジェットが怒りだして、
「フェイ、とにかくお前がアインの毛を何とかしろ!」
と制圧した。
「何でアタシが・・・」
掃除機をかけながら、フェイはブツブツと不満を漏らしている。
僕がブリッジで一休みしようとしたその時、フェイが掃除機のノズルで僕の胴体を押しつけた。
「キャンキャンキャン・・・・・・」
ただでなくても、掃除機特有の騒音が大嫌いなのに、ノズルで胴体を押しつけちゃったら、吸い込まれそう。
僕はジェットにいる方向に精一杯叫んだ。
「アイン、うるさいぞ」
ジェットが顔を見せると、
「フェイ、いくら何でもアインの胴体に掃除機はないだろう?」
すぐさま、フェイからノズルを取り上げて、その先にブラシをつけて、やさしく撫でるように当てる。
「アインの胴体に直接ノズルを当てたら、皮膚を傷めるんだ。だから、ブラシつきのノズルでやさしく手入れするんだ」
「ふぅ〜ん、ジェットって、見掛けの割には、やさしい性格してるね」
「ほっといてくれ」
やっぱりジェットの手入れはいい感じ。それから僕はブリッジで一休み。
それからフェイはブツブツと文句を言いながら、リビングに掃除機をかけた。
現在、僕の地位は、ジェット、エドに次いで、3番目。ちなみにスパイクとフェイは僕以下、つまりご主人以下でした。
作/平安調美人