「…もう待ちきれん。拙者は失礼する!」
長い剣を持った男が、小さな惑星を後にした…。
「くそ、もう燃料がねぇ!」
キズのある男は、小さな惑星に不時着した。と、いっても、もちろん星にぶつかったわけではなく、緊急用ドッグに入ったのだが。しかし、そこで小さな事故で火災が起き、スプリンクラーが作動していた。
「服がびしょびしょだ…乾かさなきゃ…。」
「一人の敵に自由に勝つ時は、世界の人に皆勝つところなり。」(五輪書)
元カウボーイの変わった男が、この言葉をむねに刻み、小惑星「ガンリュウ」に向かっていた。昔の剣豪「コジロウ・ササキ」が名のっていた名前を付けた、地球の海峡に浮かぶ舟島から取った、というのが、その星の名前の由来だった。
そして、その元カウボーイは、宇宙船に乗っているのにオールを持っていたという。
「もう乾いたかなぁ…」
キズのある男が、物干し竿からぬれた服を取ってドッグの片隅に置くと、
「拙者はムサシなりでゴザル!」と、後ろから声がした。
「はァ!?」
突然のなんともわからない方言を使う男にキズのある男はいささかびびっていた。
「あのぉ…なにか…?」
心音をいつもより激しくさせながら、なんとか出た言葉だった。
「フフフ…コジロウ!さやを捨てるとは…!それでは刀が収められないでわないか!!」
キズのある男は、混乱し始めた。相手の言っていることはまるでさっぱりなのだから。しかし、なおも続けるムサシという男。
「コジロウよ…噂通りの長い剣「ものほしざお」が泣いておられらっしゃるでござるなり…。」
「はぁ…。」
そして、ムサシはオールと剣を両手に叫ぶ。
「コジロウ!勝負!」
…勝負は一瞬で決まった…。
ムサシの剣は空を切った。キズのある男は避けたのだ。だが、それでは本来勝負がついたとは言わない。タダ避けただけなのだから。しかし、ムサシは避けられた次の瞬間、負けを宣言していたのだった。
「一人の敵に自由に勝てないとは…。おぬしの勝ちなり!」
長い剣を持った男が、カウボーイハットをかぶった金髪の、時代遅れのカウボーイを見たのは次の日である。
作/りゅういち