三章 「満州国」アヘン専売開始
1 人々を虜にするアヘン政策
●湯政権下の人々とアヘン
「満州国」での専売は日本にとって実に6例目の専売となるが、そこではアヘン吸飲の習慣もアヘンが伝来して以来広がっているようで、役人をはじめ宿の主人、果ては村長から小学校の先生までアヘンの中毒であったりする様子が、日本人旅行者などにより目撃されている。満州はアヘンの一大消費地であることに湯玉麟は目をつけ、栽培税だけでなくさらに税収を得るため、アヘン吸飲を許可制にしていた。消費者から「灯税」という名目で吸飲者からキセル1本ごとに大洋2元を徴収して、アヘンの消費者たる民衆を管理していた。
●進化する消費者戦略
「満州国」はこれを参考に専売の効果をより上げるために、これよりもう一歩踏み込んだ消費者の管理を行った。
専売に当たっては消費者に対する政策も、アヘン入手などアヘンそのものに対する政策と同じくらいに重要になってくる。なぜなら全てのアヘン吸飲者が密売アヘンに手を出さずに国家の専売アヘンを使用すれば、それだけで専売の効率が上昇し収入が増加するからだ。更にアヘンをすいやすい環境を抵抗することで、今までアヘンを吸飲しなかった者が、アヘンに手を出して消費者が増大すれば更に販売拡大が見込める。「満州国」の阿片法はこの二点に目をつけ、政府の許可のないアヘンの吸飲を禁止したのみならず、2条では「アヘンの吸飲は許さないが、成年にしてすでに中毒者で救済措置が必要なものはこの限りでない」と、アヘン禁止を明文化していることはしているが、「不在此限」という言葉が制限をゆるくしている。アヘンの吸引政府公認の許可証は一応存在したが、発行のためには中毒者であることを証明する必要が無かったため、人々は容易に許可証を手に入れることができた。その上「満州国」は「漸減方針にもとづく断禁主義」と称して、少量のアヘンを中毒者に配布する便宜を図ったため、民衆はアヘンを容易に手にすることができた。「満州国」は中毒からの更正の手立てをこれといって用意しなかったためアヘン吸飲者は増える一方だった。要するに、中毒者を増やして税収を増やすことだけを主眼に置いただけであった。
アヘンの流通も、「満州国」が指定した商人のみが、卸売商人と小売商人となることを許されたため、「満州国」政府の力を国内の隅々まで及ぼすことが図られていた。
「満州国」のアヘン政策が湯政権の「灯税」よりも進んでいるというのは、商人、消費者双方の管理を強めたためということができる。