君はどこかで見ているのだろうか、
それとも、何も知らずに家にいるのだろうか――
――それとも、その瞳であいつのことを追いかけているのだろうか…
【8】を背負う男 -5-
今日は、雑司が谷中のグランドで選抜対高校のサッカー部と練習試合だった。
別に相手に対しての不安はないし、負けたらその分学べばいい。
俺が気にするのは君のことだ。
君に今日のことは伝えてないけど、選抜の合宿先まで知っていた君だ。
杉原も来ているし、見に来ているかもしれない。
見ているかもしれない。
ただの可能性だけなのに、胸が熱くなって、足がいつもより速く動く。
そんな躍動感はとても心地よくて、
結局君の姿は見えなかったけど、試合はとても楽しかった。
反省会をして、グランドの整備をして、メンバーが帰路についたころには、
校舎を真っ赤な太陽が照らしていた。
ぼんやりと、その赤を見つめていたら、ふと気が付いた。
もし君が来たとしたら、きっとグランドじゃなくて、あそこなんじゃないかって。
気が付いたら、足が階段を駆け上がっていた。
あの曇り硝子からは、にじんだ赤が光っていて、
そのドアを開けようとしたら、すぐその先から、声がしたんだ。
たぶん、この世で一番好きな人と、この世で一番憎い奴の。
僕は階段を駆け上がった、あの逃げ出したときのように。
初めて訪れるそのドアを開けると、君は少し驚いた顔で迎えてくれた…
「…杉原、くん?」
「うん…久しぶりだね、ちゃん。
屋上で人影が見えてさ、もしかしてと思って」
「あはは、久しぶりー。元気そうだね?」
「君もね、それになんだか大人っぽくなったね」
「なにー、それわ。そんなに昔の私はガキだったの?」
少し崩した顔が、昔と重なって笑いがもれる。
「うん、君も、僕も、さ」
「あはは、そうだね」
君は笑う、きっと僕の後ろで駆け上がってきた人影にも気が付かず。
「ねぇ…ちゃん、あの約束…今も有効かな…?」
背後で息をのむ気配がした…ふふ…逃がさないよ。
「え…? 約束って…もしかして、あれ?」
君は少し顔を赤らめて、無邪気に答える。
「うん…あれ。僕はまだ…なんだけど…君は?」
「そうなんだ…私は…、…。」
「…」
「ふふ…その沈黙で十分だよ。実はね、僕ももう――だけど、ちょっと試してみただけなんだ」
「そ、そうなの? やだなぁ…いじわるになったんじゃない?杉原くん」
「そうかもね…(君が思うよりずっと)」
「どうやらお客さんがきたみたいだし、僕は帰るよ…みんな探してるだろうしね」
「? また会える?」
「もちろん…会いに来て、フィールドに」
「…うん!」
君が笑う、あの時は変わらぬ笑顔で。
僕は、それさえあれば大丈夫…
だからこれは僕からの課題…これくらい乗り越えてもらわないと、ね…
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ダーク! 杉原っちでした
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