【 第二章 : 薫風 】


「のぉ、…変な気分ではないか?」

 学校に慣れ始めた皐月中旬。明日は遠足で、その買出しに一緒にきていた望ちゃんが、唐突にそう言った。

「変な…? 風邪…じゃないよね?」
「違うのだ…もっとこぅ、ハラワタが煮えくりかえりそうで、かえらないような…」
 望ちゃんは複雑な顔をしている…
「ねーたいこーぼー、桃は点心〜?」
 ひょこっと、一緒についてきた弟の天祥が望ちゃんの横から顔を出した。
「難しい質問じゃの〜天祥。桃はわしの主食で副食物でもあるからの〜」
「先生が、点心は五百円までって言ってたよ」
「なにぃぃっ! 本当か!? 
「小学校の話じゃないの…?」
「ぉお、そうだな! 天祥、高校生は百個だって千個だって桃を持っていって良いのだぞ〜」
「えーー!ずるいよったいこーぼ!」
「〜♪」

 望ちゃんは何だかんだ言って、明日の遠足で盛りあがってるみたい。でも、「変な気分」なんて初めてだよね…望ちゃんの予感はよく当たるからなぁ…


――翌日――



 遠足当日、天祥が夕べ作ったてるてる坊主が効いたみたいで、空は曇ひとつなく晴れ渡っていた。望ちゃんの予感は、雨のことじゃないみたいね。

、俺っちも一緒に行くさ」

 準備万端で玄関を出た時、天化お兄ちゃんに呼びとめられた。

「うん、学校まで一緒だね。今日は朝練なかったの?」
「違うさ、。遠足に一緒に来いって、コーチが」
「道徳先生が!?」
「ああ、なんか特訓するらしいさ」
「特…訓? 行き先動物園だよ…?」

 そこに、お隣からおっきなリュックを背負った望ちゃんがやってきた。

「なにさ、スース…その荷物は」
「おはよう、望ちゃん…まさか、それって昨日買った桃…?」
「そのとおりじゃ、。しかし、これはなかなか…」
と、望ちゃんはたどたどしく歩を進めている…相当重そうだわ…
「…スース。俺っちバスに乗る気はねぇから、トレーニングついでに持ってってやるさ」
 ひょい、とお兄ちゃんが望ちゃんの荷物を取ってかつぐ。
「良かったね、望ちゃん」
 私がそう言うと、望ちゃんは神妙な顔をして言った。
「…天化…ツマミ食いはゆるさぬぞ」



 学校で貸切バスに乗り、私たちは動物園に一路向った。バスの中で碧雲ちゃんたちが、動物園の園長さんのウワサ話を聞かせてくれた。すごく美形だって言ってたけど、そんな園長さんっているのかな…




「やぁ、ようこそ、皆さん」

 出迎えてくれた男の人は長髪で、かっこ良かった。この人が園長さん…?

「僕はここ、霊獣園の園長の楊ぜん。みんな、ここにいるのは実は動物じゃなくて霊獣なんだ…」
 そう、園長さんは長そうなお話を始めた――みんな無視してその「霊獣園」に入っていっている…

「流花、なにをしておる。このような場面は無視するのが鉄則じゃ」
「え…でも…」
「でももだってもないぞ、流花。天化がおらぬのだ、きっと中に入っているに違いない…!」
 私は望ちゃんに手を引かれるまま、園長さんの横を通りすぎた…



「ぬ〜わしの桃はどこじゃ〜」
 望ちゃんは霊獣さんに目もくれず、キョロキョロ探している。鳥さんとかおおきな猫さんに可愛い犬さん、綺麗な鶴さんにモグラさんまでいるのに…
「あ、望ちゃん!」
「桃か!?」
「ち、違うよ。ほら、カバがいるよ」
 私は四不象と書かれた柵を指した。
「なんだ、ただのカバではないか」
 望ちゃんが、ハァ、とそっぽを向くと、突然そのカバ君が喋った。
「カバじゃないっスよ!」
「望ちゃん、喋るカバ君だよ!」
「だからカバじゃないっス!!」

そこへバケツを持った従業員ぽい人がやってきた。バイトの札をつけてる。
「四不象っ、おやつだよ!」
「ありがとうっス、武吉君。でもおやつだなんて、差し入れがあったスか?」
「ううん、忘れ物で桃がいっぱい入ったリュックが届いたんだ」
 バケツを覗くと、中は桃だった。
「ぬっ、それはわしのではないか!」
 それを見て、望ちゃんがバイトさんに食ってかかる。
「お主っそのリュックをどうした!」
「リュックは受付に…」
 それを聞くと、望ちゃんは猛ダッシュで行ってしまった――



――帰りのバスで聞いたら、リュックは空で、中身は全部霊獣さんのおやつになっちゃったみたい…望ちゃんの予感ってこのことだったのかな…?




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遠足編でした♪ 楊ぜんの扱いが…あわわ(>_<)


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