HRはいつもの調子で始まった。
「食欲かの〜…」
望ちゃんがうっとりした顔で呟くー―頭の中は桃でいっぱいってかんじね。
「う〜ん近いっ、けど違うんだな〜」
先生は拳をシュッと前に出す。先生が求めている言葉は誰でも容易に想像がつく。
みんなきっと、どうボケようか考えてるわ――なんたって夏の課外授業は、結局だれも先生に着いて行けなくて、天化お兄ちゃんとの一騎打ちだったって聞いたもん…
スポーツで先生を相手にしたら百害あって一利なしよ。
「ん? さん、今何て行った?」
ばちっと先生と目が合った。
「い、いえ〜と…げ、芸術かな〜」
私は目をそらして適当に答えた。
「そうだねっ秋と言ったら芸術だ!」
『えーーーーーー!?』
クラスから驚きの声があがる。
「先生、熱あるんじゃないですか?」
「少し遅れの夏風邪じゃない?」
…先生も言われ放題だなぁ…
「しー静かに。今日はな芸術の秋という事で、講師の先生がお見えになってるんだ。どうぞ」
そう道徳先生が言うと、ガラリと教室に見覚えのある人が入ってきた。
『あーーーーーーー!』
「こんにちは。ある時は霊獣園園長、ある時は海の家のオーナー、ある時はさすらいの芸術講師、楊ぜんです」
…すごい自己紹介…みんな忘れてるんじゃないかって心配だったのかな…
「ぜんっぜん統一感がないのぅ…」
「何をおっしゃいます、太公望くん。芸術とは美しくなければいけません」
…そう言う楊ぜん先生の後ろに、薔薇が見えるのは気のせいかしら…
「そうさっ芸術とは美しいもの! そして美しいと言ったら飛散る汗さ! 来週の球技大会に向けて練習だ!」
そう言って振り上げられた道徳先生の腕は、グラウンドで私達がクタクタになるまで下げられる事はなかった…
生徒会主催球技大会…去年は野球で、1年ながら蝉玉ちゃんのクラスが優勝した。今年はテニスらしいんだけど、やっぱりあの魔球には敵わないと――
「さんっいったよ!」
「は、はいっ」
私は慌ててバウンドしたボールを打ち返した。――そうだ、もう球技大会当日で、先生命令で朝練してたんだわ…
「何してるさっ」
コートの外にお兄ちゃんが来ていた。
「とか言っちゃって、私達の偵察にでもきたんじゃないのぉ〜?」
隣りのコートで練習していた蝉玉ちゃんがニヤリと言った。
「何さっ今年は絶対に負けないさ!」
「ほほっ私の魔球に敵うと思って?」
蝉玉ちゃんが小指をたてて笑った。…どうやら私達は眼中にないみたいね…
「そう言えばさん、太公望くんはどこかな?」
「あ…!」
しまったー…今朝は自分が起きるでの精一杯で望ちゃんのこと忘れてたっ。
「先生っ私探してきます」
先生にそう断って、私が家に着いたのは十分後。
「望ちゃーんっ起きてるー?」
私がドンドンッとドアを叩いていると、自宅の窓から天祥の顔が覗いた。
「お姉ちゃーん、たいこーぼなら釣りに行ったよ〜?」
「えーーーー!?」
それを聞いて、私は慌てて望ちゃんがよくいる釣りポイントへ向かった。
「お〜、お主も釣りか?」
そうして私が望ちゃんを見つけたのは何時間も後のことだった。
「なーに言ってるのよっ今日は球技大会でしょー!」
「流花こそ何を言っておるのだ。こんな秋日に勝ち目のない勝負など…」
「え〜い、じれったい! カバくん!」
「ラジャーッス」
茂みに隠れていたカバくんが、ガシッと望ちゃんを掴む。
「なっ四不象!? お主らグルか!」
「この近くでさんと会って、意見が一致しただけっス」
「それをグルと言うのだ〜っ」
そう暴れる望ちゃんと私を乗せて、カバくんは学校まで送ってくれた。
「もーお昼過ぎだよ〜試合どうなったかなぁ…?」
「良くても2回戦で負けておろう」
そう答える望ちゃんを否定しながら、私達がコートに向うと、既に決勝戦が行われていた。
「おっやっと来たね、二人とも!」
「道徳先生!? もしかして…」
そう、私達二―Aは決勝に残っていた。何でも蝉玉ちゃんのクラスとお兄ちゃんのクラスが1回戦であたり、デッドヒートの末、共倒れとなったらしい…
「ほぉ、漁夫の利、という奴じゃな」
「HAHAHA! それはまだ早いんじゃないかいっ太公望君!」
望ちゃんの前に立ちはだかったのは、3年の趙公明先輩。確か男子テニス部のキャプテンだったよね。
「お兄さま、太公望様は私の未来の夫、お手柔らかにお願いしますわ」
隣りにいる妹の雲霄さんはそう言うと、ずいっと私を指差した。
「ときにさん! 今日の試合でどちらが太公望様に相応しいか、はっきりしようじゃありませんか!」
「え、ええ!? で、でも私…」
「良い提案じゃな、ビーナス」
「ええっ望ちゃん!?」
すると望ちゃんは私に耳打ちをした。
「(これに勝てば、わしは奴から解放されるのだ。手助けだと思って、な?)」
「う、うーん…わかったよ」
「ホホホッ聞きましてよっこれで太公望様は一生私のモ?ノ?」
――そうして、決勝戦が始まった…
「ふふ…戦いに目的を持つなどナンセンスだけど、ここは妹の幸せのために本気で行かせてもらうよっ」
公明先輩から鋭いサーブが打たれる。
「きぇ〜いっ’なんとしても負けるわけにはいかない’レシーブッ」
それを望ちゃんが鋭くきり返す。
「太公望様っ私の愛を受けとって!」
雲霄さんがスマッシュを望ちゃん顔面めがけて打って来た!
ゴギャ…ッ 生々しい音がなる
「きゃーっ望ちゃん!」
ストレートにヒットして転がったボールを道徳先生が拾った。
「そうか、君達はルールを聞いてなかったね。今年の球技大会はサバイバルテニス! 相手が倒れるまで戦いつづけるんだ!」
先生はパシッと私にボールを投げる。
「そ、そんな…」
ジンッとしたのはボールを受け取った手の感触だけじゃない…無理して望ちゃんを連れてこなければ…そうすればこんな事にも…
その時、バシッと背中を叩かれる。
「まーた、お主はいらぬ事を考えておるのだろう」
ボールの跡がのこる痛々しい顔で、望ちゃんはそう言った…
「お主は黄一族の一員で、しかも真面目に練習をしてきたであろう。少しは自信を持て、」
望ちゃんはよいこらせっと立ち上がり、私にすっと手を差し伸べてくれた。
「…うん。頑張るしか、ないよね」
「そうじゃ。わしが上手くアシストするから、まずビーナスを狙え」
「う、うん…わかった…」
こうして、試合は日が暮れるまで行われた。望ちゃんの心理作戦(ちょっと雲霄さんが可愛そうだった…)で、公明先輩一人相手に頑張ったんだけど、結局決着がつかず、引分けとなった。
「白黒がつかないのは気にいらないけど、実に華麗な戦いだったよ。是非またお手合わせ願いたいところだね!」
ぐっと交わした握手を離した途端、望ちゃんはフラリとよろけた。
「だっ大丈夫!?」
私がそう言った時、カバくんが体を支えると、望ちゃんはぐっすりと眠りこんでしまった。
「よっぽど頑張ったんスね、ご主人」
その穏やかな寝顔に、私は安らいだ。
球技大会編でした★ 秋はやっぱりスポーツスポーツ!公明様をやっと出せて満足ですv(ぉぃ)
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