冬休みが始まったころ、私達は極秘の会議(?)を開いていた。
「どうしたんスか、ご主人」
そこへカバ君がやってきた。
「ふむ、実はな毎年…」
「なになにー?」
カバ君の後ろからヒョコっと顔を出した天祥に、私たちはぎょっとした。
「あ〜天祥、カバ君と遊んでおいでよ」
「んー? わかったぁ」
私がそういうと、天祥はカバ君とテトテト外へ出て行った。それを見送って望ちゃんは口を開いた。
「、もう隠すこともあるまい」
「でもさー…もし気がついていたとしても、必要だと思うんだよね、クリスマスには」
そう、私たちは、今年のクリスマスパーティについて話をしていた。毎年、望ちゃんにサンタ役をやってもらって、天祥にプレゼントをあげているの。
「だからって何故わしがやるのだ?」
「うーん、おじいちゃんぽいし」
「…」
「ほら、言葉遣いのことよ」
「…本心かのう」
「あ、ねぇねぇ、今年はカバ君にトナカイやってもらって、本格的に…」
「スープーがトナカイ…?」
私達はカバ君のトナカイ姿を想像した。
「…まずいじゃろう」
「…うん、なんか違うね」
顔をあわせて苦笑いをしてしまった。
「そうだ、楊ぜん先生って変装得意だよね。トナカイなんてできるかな」
「それは変装でなく変化じゃろう…。大体なぜあの変態が出てくるのじゃ」
望ちゃんがジトッと私を見る。
「え? だって仲いいよね、望ちゃん。授業中とかさ…」
「あれは愚痴の言い合いしゃ…」
「喧嘩するってことは、お互い認めてるってことだよ。ね、お願い望ちゃん」
「して何故わしに頼む」
「だって、望ちゃんならウマく先生にお願いしてくれそうだし…」
「まぁ騙しやすい輩じゃがのう…」
望ちゃんはなかなか首を縦に振ってくれない。
「望ちゃん!春に約束したじゃない」
「春…?」
「ほら、宿題見せたら、何でも言うこときくって」
「…そんなことも言ったのう…」
「ねっ、お願い!」
パチンと顔の前で、私は手を合わせた。
「…ふむ、では。これも今年で最後にせよ」
「う…」
「返事は?」
「……来年も一緒にケーキ食べてくれる?」
「…なんじゃ、お主そんなこと心配しておったのか?」
「なんか率直そう言うと、うっとおしいかなぁって思って…」
「いらぬ心配じゃ、行くぞ」
「う、うん…」
こうして私達は学校へ向かった。
校庭には生徒たちが、白い息を吐きながら部活動に勤しんでいた。
「楊ぜん先生いるかな?」
「ひまそうな輩じゃからのぅ」
「誰がひまだって?」
その声は、私達の真上から聞こえた。
「あ、先生!」
楊ぜん先生はワンちゃんに乗って、空から私たちの方へ降りてきた。
「こんにちはさん。僕に用かな?」
「わしは無視かい」
「あれ、いたのかい? 太公望君」
う…早くも火花が散ってる…
「あのね、先生、実はかくかくしかじかで…」
私は手早く先生に事情を説明した。
「へぇ、さんは弟思いなんだね。それに比べて太公望君は…」
まったく、と先生が首をふっている。
「ほぅ、では受けてくれるのだろうな、お優しい楊ぜん先生は」
望ちゃんがうまく話を進めてくれる。
「さんのお願いだからきくけど、太公望くんがサンタじゃなぁ…」
「どうせクリスマスも暇じゃろう」
バチバチって音が聞こえるのは、気のせいかしら…(汗)
「先生の変化は天下一品だもの! きっと天祥も喜びます!」
「当然だよ、さん。やるからには完璧にこなさないと」
ふふふ、と笑う楊ぜん先生を尻目に、望ちゃんがこそっと私に耳打ちした。
「(お主もなかなかのせるがうまくなったのう)」
「(あはは…)」
準備万端で臨んだクリスマスイブ。
私は息を飲んで約束の時間を待っていた。こわばる私を、天化お兄ちゃんがこづいてきた。
「(、今年もスースがやるさ?)」
「(うん、今年はスペシャル♪)」
「(スペシャル?)」
「(今年で最後にするの、だから楊ぜん先生に頼んでトナカイ付きで豪勢にスペシャルサンタさん)」
「(へぇ、あの二人がねぇ…)」
「天化兄さま、姉さま、何話してるの?」
「え、ええ?」
天祥がケーキの生クリームを頬につけて聞いてきた。
「ふふ…天祥はいい子だから、今年もサンタさんが来るねって話してたの」
顔についたクリームをぬぐってやると、天祥はにっこり笑った。
「お、雪がふってきたさ」
窓の外を見ると、寒空に似合う真っ白な雪が舞い降りてきていた。
「あ、ホントだーーー!! 父さまっ母さまっ雪だよ!」
天祥は今にも飛び出しそうな勢いね。
「はい、いってらっしゃい」
そう言ってお母さんが天祥の首にマフラーを巻いた。
「うん!」
天祥が飛び出したあと、時計に目をやるとちょうど約束の時間だった。すごい偶然…。私は天祥のあとを追って外に出た、すると…
リンリンリンリン…
かすかに、だけど確かに、着実に近づいてくる鈴の音が聞こえてきた。
「姉さま! なんか降りてくるよ!」
天祥が指差す先には、ふわふわ舞い降りる雪の間を、真っ赤な鼻をした…鼻をした…―――
なんで!?
私は自分の目を疑った。私たちの目の前にそりをすべらせてきたのは、真っ赤なプチトマトを鼻につけたカバ君に乗った、サンタの望ちゃんだった。
『あ、あははははははは!』
天祥も、私のあとから出てきたお兄ちゃんも笑ってる…あ、お父さんまで…。
「あー、静粛に」
望ちゃんがゴホンと咳をならす。
「メリークリスマス、天祥」
望ちゃんがプレゼントを天祥に渡す。
「ありがとうっ太公望!」
天祥がにっこり笑う…、
…、
…え?
「ありがとう、姉さま」
ぎゅっと天祥が抱きついてきた。
「…へ?」
「ごめんッス、さん。この前の全部外で聞いてたんスよ」
「え、えーーー!?」
「この雪は、天祥からお主へのプレゼントじゃよ、」
ぽふ、と望ちゃんは帽子をとって、空を仰いだ。
「僕ね、サンタさんに、姉さまに雪をプレゼントしてってお願いしたんだ」
うれしそうに天祥が私を見上げる。
「あ、ありがとう、天祥…」
戸惑いながら、望ちゃんの方を見ると
「わしも本物のサンタには敵わぬのう」
と笑っていた。
本当に…本当のサンタさん…?
――私の今年のクリスマスは、不思議で幻想的で、凄く幸せな日となった…。
クリスマス編でした 寒いけど温かい話に…、…なったかな(~_~;)
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