”私の手に触れて”

ゆっくりとでいい、彼の抵抗を揺るがせて、みせる。





THANK U BABY -6-




 

彼は私に手をのばし…手に触れた。

「…キスぐらいなら、すぐスルるヨ◆」

「…」

たぶん、彼が言ったのは本当。
キスならしてもらったこともあったし、言えばしてもらえるだろう。
だけど

”腕をなぞって”

その気にさせることが、重要なのだ。
心を少しずつ、揺らがせていくことが。

 

”頬を寄せて”

少し屈んで、私の顔に頬を近づけた彼に
私は頬を重ねる…ゆっくり、両の頬を。
唇が近づくけど、そこは視線だけ落として、触れはしない。

「ナルホド◆ ジラすのか」

「ウン…好きでしょう、こういうの」

クスリと、耳元で笑みがこぼれた。

首筋に手をやり、鎖骨の下から、キスを落としていった。
腕をなぞっていた手も絡みとり、手のひらを刺激する。

顔までたどり着いた唇を、耳に寄せる。
耳から頬へ、唇と唇が近づくが、唇には落とさない。

すっと、彼が唇が触れるように動くようにしたので、
私は顔をずらし、耳元でささやく。

「まだ、ダーメ」

「フフ…
 

私は、まどろむような感触を楽しんでいた。

私を捨てた彼。

あのとき大泣きしたけど、今ならわかる。

彼は、孤独であることを望んでいる。

こうして肌を重ねることを楽しむことがあっても

彼の最大の欲望は殺戮であって

彼に最も近い立場で共に歩くなど―

皆無に等しい。

再開し、私を覚えていた時点で、確信した。

彼は私が愛しいから捨てたのだ。

命を断ち切る、その瞬間を楽しみにしながら。

でも―

私は貴方を求めることを、やめられそうにない。

だから―

 

「考えゴトかな

はっと、彼の身体に落としていた口付けをやめ、顔をあげる。

「もし、それも作戦なら…ナカナカの策士だ◆」

一瞬のうちに、キスを落とされた。

「もう、ガマンできないヨ

唇を離され、そう言われたと思うと、今度は深く、口付けられた。
舌を絡みとられ、声が奪われると思うほど…

「ヒ…ソカ」

「…今さら、ヤメテ、なんてムリだヨ

「そんな…こと、言…わない」

 

 

”ゆっくり、して”

 

”いっしょに、いこうね”

 

 

ただ、今は、こうしてまどろみを楽しんでいたい。

 

 

 




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