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■デジクリトーク 大和撫子ブルファイター。 白石昇
●大和撫子ブルファイター。 白石昇です。 ◆前回までのあらすじ。 十二月十二日にかかってきた著作者側からの三度目の電話でようやく、向こう側の電話番号をゲットした白石昇。平成十三年も残すところあと二週間と少し、この先年内に新たな進展はあるのか?
著作者サイドはやはり忙しいらしく、再度放置プレイが始まりました。 あたしは放置されたまま、一週間ほどずっと下訳をいじってました。むこうから連絡がありそうな気配はいっこうにないのですが、前みたいに外出することが怖く感じたりはしません。 なぜならあたしはもう、向こうの電話番号をゲットしてしまっているので、リアルタイムで連絡を取ろうと思えばいつでも出来るのです。なにしろあたしは電話会話の口頭で確認された著作者事務所公認の翻訳者なのですから。 がしかし、進展無いまま下訳添削作業だけ続けるのにも飽きました。 というかそもそも八ヶ月間も一冊の本を日本語に変換するという作業自体、飽きつつあります。なにか新しい刺激が欲しいです。 そんな年頃なのですあたしは。 年内に出来れば出版契約の見通しだけでも立たないと精神的にちょっとイヤです。このまま正月を迎えるのは辛すぎです。 それにあたしは年末に滞在査証が切れるので、一度国外に出なければならないのです。万一いきなり電話がかかってきて、ド年末に初邂逅など設定されてしまったら、こちらとしてはキャンセルせざるをえません。 著作者様側との初邂逅をないがしろにしても、あたしは出国せねばならないのです。不法滞在はもうイヤです。 かといってこちらから電話して忙しい向こうを煩わせたりするのはあたしの大和撫子としての美意識に反するし、聞き取りにくいあたしの妙な言いまわしの泰語を電話でこれ以上聴かせるのも忍びないです。 あくまであたしは、向こうにふんどしを借りて相撲を取る翻訳者という立場なのですから。 それであたしは、著作者様事務所側とこれからどう言ったことを取り決めていかなければならないかを紙に書き出してみました。 そしてネットで日本国に於いての書籍出版に関する利益配分の慣習的な頁をいくつか検索してみた上で、とある方に電話してみたのです。 電話した先はこちらで翻訳出版したことがある工学博士でした。博士は日本で十五年も学問に精進されていたので日本語ペラスラです。日本語で随筆をものにされるくらいのスラスラぶりなのです。 博士はあたしが翻訳のために作っている泰日のデジタル単語帳に興味を持って下さっていて、あたしとは時折一緒に食事したりカラオケしたりメールで博士コントしたりする間柄なのです。
あ、当然あたしは助手役ね。 博士によると、この国での印税の利益配分は慣例として著作者七割の翻訳者三割くらいだ、ということでした。あたしは博士に御礼を言って受話器を置くと、利益配分や出版に関する諸手続をまとめた文書を作りました。表計算ソフトを使って円グラフまで記載した念入りな文書です。 その作業は同時に、あたしが翻訳以外でなさなければならない手順を整理することでもありました。 まず、1.印税配分率、を記しました。 そして、2.出版社のセレクト、をせねばならないことを主張いたしました。 更に、3.著作中に出てくる日本製品を製造販売している日系企業二社から広告をとった方がいいのではないか、と提案しました。 次に、4.書籍発行サイトへの登録、をアマゾン、ビーオーエル、その他で執り行わねばならないことに言及しました。 それから5.校正、編集、レイアウト、をセレクトした出版社のデータ形式に従って二ヶ月ほど進めまねばならないことを告白いたしました。 でもって、6.発売いえーい、とまあこんな感じの文書です。 あ、当然今回も翻訳する原書に絡んだ小ネタを文中にあしらったりしました。どうやら前回の原文パクリ文書が著作者側のツボに入ったらしいことがわかっている以上、ここは攻めなきゃなりません翻訳言語藝人として守っちゃいけません押してけぐいぐいあたし、って感じです。 下訳に朱ボールペンで書き込みを入れてゆく作業に疲れて切っていたので、思い切りサクリと文書は完成しました。作ってみると、日本国内の取次や本屋に払うコストがないので、思い切り安い価格設定になりました。 それでもこっちの原本よりは倍以上もします。しかしこっちで売っている日本語の書籍としては画期的な値段です。 あたしはそれをすかさず印刷しました。シートフィーダーの歯車がイカれた原因がヤモリの卵がはさまっていたからだ、というくらい最近まで長期に放置していたこの腐れプリンター大活躍です。 これをあたしにくれたのはアジア暗躍する国際的大型商品バッタ屋の某社長なのですが、あらためて御礼を言いたいくらいに大活躍です。 あたしはそれを速攻で郵便局に持ち込み、書留で郵送しました。 すると翌日、すかさずアシスタント氏から電話がかかってきました、明後日事務所まで来て下さい、と彼は言い、事務所までのバス番号などを丁寧に教えてくれます。
どうやらこっちが貧乏でバス利用を常としているということはバレバレのようです。 というわけで、十二月二十日、著作者サイドとの初邂逅決定です。 つづく。 初出・【日刊デジタルクリエイターズ】 No.1018 2002/01/31.Thu.発行 |
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