■デジクリトーク
●生パパイヤ。
白石昇
●生パパイヤ。
白石昇です。唐突かもしれませんが平成十三年十二月二十一日から大晦日まで、毎日一個、青パパイヤの千切りおよび調理をすることになったのです。
どうしてそう言うことになったかはどうご説明さしあげてもよくわかっていただけいと思います。
だけどこの青パパイヤがらみの作業はあたしの翻訳者としての心の問題であり、避けては通れないのです。避けてしまうと間違いなく避けた自分が許せなくなるのです。
だから正面突破なのです。
正面突破の詳しい理由なのですが教えたくありません。
翻訳している本の内容については発売まで意図的に言及しない方針なのです。
だから非常にメタフォニカルなたとえ話になりますが、例えばあなたが川端康成だったとします。
そうですあの川端康成です。ストックホルムで世界的権威のある賞を貰ったあの人です。その川端康成の元にひとりの外国人が来て、
「コニチハ川端サン、わたしあなたの本読んだよ、したいよ翻訳、許可ちょうだいよ翻訳の」
とかその外国人が言ったとします。しかし詳しい話を聞いていくうちにその外国人が、
「少女なんてなんの魅力もないよ、あんな子供のどこがいいか信じられないよ、わたしはやっぱり熟女が好きですね少女キライ」
などとほざき、とんでもない価値観をさりげなく表明したとしたらどうでしょうか? 川端は何も言わずその外国人に翻訳を許可するでしょうか?
百歩譲ってたとえ川端が許可したとしても、まわりがそれを容認するでしょうか?
あたしが川端ならなら叩き出しますその外人。そのときのご機嫌次第では入国管理局に即刻通報です。
少女の魅力を解せようともせず、ロリ指向を完全否定するような男に川端康成を翻訳させてはならないのです。ええそうなのです川端康成は世界に共通する少女の魅力を言語的に形にしたことによって世界的に認められた表現者なのです。
まさに日本が誇る、美しい日本のロリ指向な私、なわけです。
そう言った土台をふまえた上で話はあたしの仕事に戻って、著作者の美意識を身体で理解するためにあたしは翻訳許可を貰った二十一日からほぼ十日間、毎日一個の青パパイヤを千切りにし、食すことにしたワケなのです。
一般的にこの国では、青いパパイヤはソムタムというサラダにして調理します。臼に大蒜、唐辛子、トマト、ライムなどを入れて、砂糖、ナムプラー、を加えて千切り青パパイヤと共に杵で突いて作るのです。
オプションで桜えび、沢蟹の塩辛、魚の塩辛の汁、ピーナッツ、エンドウ豆などを加えたりもします。
包丁で青パパイヤを千切りにするときにはまな板なんか使いません。皮を向いたパパイヤに包丁を縦に叩きつけて無数の傷を作り、それを削ることによって千切りにしてゆくのです。
包丁で縦に傷を付けていく作業は、杵で突く作業と共に単純な上下運動を伴う作業です。単純な作業を遂行していると人間というものは、深遠な思索に耽ったりします。
そうですあたしは作業を遂行しながら、この翻訳出版でもっとも大事な仕事について思いを馳せていたのです。
つづく。
初出・【日刊デジタルクリエイターズ】 No.1100 2002/06/10.Mon.発行
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