2003年9月29日
2006年3月13日追記
PFU社のハッピー・ハッキング・キーボードは発売7年で10万台が売れたというベストセラーのキーボードである。しばらく前に、キートップに何の印刷もない無刻印のキーボードがあっと言う間に売り切れたことで話題になったことがある。それがハッピー・ハッキング・キーボードのプロフェッショナル版である。
私も以前に知っていたかもしれないのだが、少々過激なキーボードに見えたので忘れてしまったのだと思う。ところが、無刻印の話で写真を見て、急にハッピー・ハッキング・キーボードが使いたくなってしまった。
● Happy Hacking Keyboard Lite 2
ハッピー・ハッキング・キーボード(HHKB)は元々はUNIX利用者のためのものらしく、英語配列主体で、今でもHHKBプロフェッショナル版には矢印キーがない。コアなUNIXファンはカーソルもキーボード本体で操作するので、困らないようである。私も一応はUNIXを使ったことがあるし、DOS時代はパソコン版のMicro
EMACS(UNIXで有名なエディタ)を主力に使っていたのだが、UNIX根性ゼロの私は矢印キーにカーソル操作のコマンドを割り当てて使っていた。
今回収穫だったのは、HHKB Lite 2という機種があって、それには矢印キーが付いていることであった。Windowsでは矢印キーは日本語変換にも使うし、とりわけ、ゲームには必須である。パソコン量販店に行くと、プロはほとんど無く、Lite
2がたくさん置いてある。プロに比べて矢印キーを収納するために、少々手前に大きくなっているのだが、それでもコンパクトである。日本語配列の機種もあるが、購入したのは英語配列である。
なお、liteはlightの米語綴りである。Hackerだから隠語風になっているのだろう。
● どこがハッピーなのか
ハッピー・ハッキング・キーボードはかなり前から売られているので、どこがすばらしいのかは語り尽くされていると思う。それでも、改めて紹介したくなる魅力あるキーボードである。打ち間違いが少なくなる。なぜかは分からないが、他のキーボードよりもスムーズに入力できる。
まず、コンパクトである(A4用紙の半分ほど)。必要最小限のキーを厳選したらしい。それにもかかわらず、一つのキーの大きさは標準のキーボードと同一で、妙な縮小キーはない。キータッチはプロよりも少々劣るとのことだが、なかなかどうして、Lite
2も打ちやすい。
英語キーのCaps Lockに相当する位置にControlキーがある。Caps LockはFnキーを押しながらTabキーを押すことになっている。Controlキーは元来は制御コードを端末からCPU本体に送るためのシフトキーで、コンピュータが一般普及する以前は大活躍したキーである。しかし、WindowsでもControlキーは一種の機能キーとして活躍するので、目立つ位置にあるのは悪くない。Escキーが近くにあるのは、非常にありがたい。また、Deleteキーが絶妙の位置にあって、Back
Spaceキーに割り当てることができ、これはやみつきになる。ファンクションキーF1〜F12はFnキーを押しながら最上段のキーを押すことになっていて、これはすぐに慣れる。最近はシフトやコントロールキーを押しながらファンクションキーを押す操作性のソフトが目立たなくなったから、のようだ。
● 矢印キー、その他
Windowsでは矢印キーが必須である。Lite 2の矢印キーは縦方向に少々縮んでいる。私の所有するノートパソコンの矢印キーもやはり縦方向に縮小しており、これはかえって使いやすいと思う。試しにWindowsとDOS/Vでゲームをしてみたが、普通のキーボードと同程度の操作性が確保できていると思う。
私は普段は英語キーでJISカナ配列の日本語入力をする。その場合、たいていは「む」の位置が少々遠くなってしまう。英語配列のHHKB
Lite 2では最上段の右端が「ろ」で、その左隣が「む」になる。「ろ」は日本語での出現頻度が低いので、あまり気にならないが、「む」の読みは意外に多い。私は「む」も「ろ」もソフトで位置を変更して使っている。PFUのホームページを見ると分かるが、HHKBは開発途中でJISカナ配置としての使用をあきらめたようである。それではHHKBに改良の余地があるのかというと微妙で、少々の改造ではかえって操作性が悪化するように思える。HHKBからすると、英語キーでのカナ配列打ちは想定外の使い方である。
HHKBは元々プログラミングのために作成されている。私はプログラミングもするので、なかなか快適である。コンピュータ言語とはVT-100時代からの付き合いなので、英語キーボードの違和感は全く無い。
● 買うべきか
パソコンに同梱のキーボードに満足している人にはHHKBは全く関係ない。しかし、少々打鍵速度が上がってくると、良いキーボードが欲しくなる。
HHKBプロフェッショナル版には矢印キーがない。カーソル操作はキーボードかマウスで十分、と言う人にはお勧めであろう。高価である。
HHKB Lite 2もいくぶん高価とはいえ、使い込むことを考えれば経済的だし、使用感の絶品さは保証付きである。
他のキーボードはどうだろう。パソコンショップに行くと廉価版のキーボードに混じってHHKBプロに負けず劣らずの価格のキーボードも置いてある。縮小キーボードも多数から選ぶことができる。英語キーボードだって自作ショップまで行けば、かなりの程度まで選べる。
キーの調子が悪いノートパソコンのために、最近HHKB Lite 2とは別に、英語キーボードを2つ買ってみた。一つは500円のキーボードで、さすがにシフトキーあたりのキータッチは悪い。また、全体が微妙にゆがんでいる。それでもゲームあたりをしていると悪さも気にならない。文章を打つと多少気になり出すが、十分に500円分は役立っている。
もう一つはUSB接続のJustyブランドの安価なキーボードである。元々の英語101/104キーボードにしつこいほど似せているキー配置が気に入っている。こちらは「む」の位置を含めて日本語カナ入力はまずまずである。Caps
Lockは英文を大量に打つときには役立つから、ハッカーしないときには、このような「互換」キーボードも選択範囲に入るだろう。
● 日本語キーボードについて
さて、仕事場のパソコンは勝手な改造が許されないので、そのまま使うことになる。その場合、私は日本語入力にはJISカナ配列、つまり普通のカナ打ちを使用する。やむを得ぬ場合はカナ・キーボードでローマ字入力も使うが、苦痛、というほどではない。
私の記憶によると、今のWindows機のキーボードは日本IBMの日本語ワープロに発祥するから、20年以上の歴史を持つことになる。出だしのIBM
5550は何とCPUにインテル社の8086が使われていた時代である。残念なことに、この時代(1983年)の5550は知らない。私が使ったのは、次世代の80286を使用した5550の時代(1986年)からである。資料によると、この時代のキーボードはJIS
X6002と呼ばれる規格にある図の思想に近く、短いスペースキーの右に変換キー、左に無変換キーがあり、変換キーの右にはひらがなキー、無変換キーの左には英数キーがある。つまり、日本語を打ちたいときはひらがなキーを押し、直接カナかローマ字カナ変換で入力、変換キーで変換する、ということである。英語を打ちたいときは、もちろん英数キーを押す。
日本IBM社のキーボードは結構変遷をしたあげく、名作と言われた5576-A01でようやく落ち着き、今のDOS/Vパソコンのキーボード、109Aの原型になったという。以上のことから、DOS/Vパソコンの日本語キーボードは、もともとワープロ向きのキー配置であった、ということになる。
一世を風靡していたNEC社のパソコンPC-9801シリーズでは、長いスペースバーの右に変換、左に無変換キーがあって、さらに左にGRPH、カナと続き、カナキーは押すと引っかかり、もう一度押すと離れる、つまりトグルキーであった。
NECはPC-9801とは別に日本語ワープロを発売していたから、パソコンの方は特に何の変哲もないキーボードであった。そのため、パソコンの日本語ワープロは「変換」「無変換」キーの操作性を当てにすることはできず、その結果、スペースバー、矢印キー、ファンクションキーによる変換操作が主流になってしまった。おかげで、Windows機にいきなり英語キーボードをつないでも、日本語入力にはちっとも困らない。
● 日本語配列のバリエーション
親指シフトは富士通の日本語ワープロOASYSに搭載されたキーボードである。今でも専用キーボードが手に入るし、熱心なファンがいるらしい。その後提案されたTRONキーボードなどが親指シフトを参考にしていることからも、いかに親指シフトが優れた入力方法であるかが分かる。私も2年間ほど快適に使ったことがある。
今のJISカナ配列は批判にさらされやすいし、私も極上の配置とは考えていない。しかし、政治的理由以外に、生き残っている理由はあると思う。一つは、熟考されたタイプライター配置から派生した配置なので、通常のタイピングの技が利く点にある。
右手小指の出動回数が多い、という批判は当たっている。しかし、小指を使っても、小指の筋肉のみを使う動きは間違ったタイピングである。前腕全体を使ってピアノを弾くようにリズミカルに打つのが本筋というものである。最上段を含む4段全部を使っているのも話題になるが、ホームポジションに常に手を置いているのならともかく、少し腕を振れば届く。数字を打つのにモード切り替えが必要であるが、日本語キーボードなら1操作であり、12.5mg/dlなどと打つ場合にはローマ字入力と同等である。
とはいうものの、仕事でも使ってはいるが、今のJISカナ配列キーボードはできれば使いたくない、というのが本音である。最近は109Aキーボードの普及で、以前のようにパソコンを買ってから付属のキーボードに愕然とする確率は激減した。それでも、単体のキーボードは買い続けることになると思う。
● ノートパソコンのキーボード
A4ノートパソコンでの私の選択基準はキーボードに関する限り、以下のとおり。
逆に、CtrlキーやAltキーは左に一つあるだけでOKである。どうやら、この私の好みは発売当時名作と言われたCompaq
CONTURA 410Cを使っていたことにあると思う。
B5ノートだとキーボードによる選択基準はぐっと甘くなる。右のシフトキーと「ろ」のキーの間に上向き矢印キーのあるB5ノートを一年間ほど使っていたが、小さなシステム一つと、そのドキュメントが作成できた。もともとキー幅が狭いので、まじめにタッチタイピングしなかったのだと思う。ただし、その経験に懲りてしまったためか、自分で購入したのはすべてA4ノートである。
Compaq CONTURA 410C のキーボード部分
●追記 (2006-3-13)
上記の記事を書いてから2年半経っている。最近流行り出したのは、リターンキーの大型化で、そのあおりかPgUpとPgDnがFn+矢印キーに割り当てられるようになった。こればかりはハッピー・ハッキング・キーボードの誤解に基づく悪影響と考えて良いだろう。
ハッピー・ハッキング・キーボードの利点の多くは、すべてのキーに指が簡単に届くことにある。そのためにキー数を減らさざるを得ず、結果PgUpとPgDnが犠牲になったわけだ。ついでに言えば、F1〜F12もFn+数字キーである。
ここまでは涙をのんで許せる。許せないのは場所に余裕のあるキーボードにPgUpとPgDnが独立していないことである。
いったい、売っている会社は自分たちでその計算機をハッピーに使っているのだろうか。PgUpとPgDnを省略するなら、テンキーもF1〜F12も付けないで欲しい。そうすればずっとキーボードは小さくなる。そして打ち間違いが少なくなるのだ。逆に、広くするのなら便利さを追求しないといけない。
名作キーボードは、いいかげんにいじると改悪になる、という典型例であろう。
まともなキーボードは別に売っているからデスクトップなら買い足すまでだが、困るのはノートパソコンである。少なくとも主な国産各社は壊滅状態である。今のところ少数の分かっている会社と外資系は大丈夫なので選択で済むのだが、なんだか以前に戻ってしまったようで、悲しい。