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風前の1チップMSX

2005年7月27日 (8月3日追記) (さらに追記 8月10日)

(続き)

●姿を現しはじめたモンスターMSX、1チップMSX

 アスキーで予約受付中の8bit 1ボード・パソコン、「1チップMSX」は予約5000台で生産開始なのだが、予約数の伸びはあるものの、目標数には遠い。
 私は単純に1チップMSXは面白くて楽しそうだ、と考えている。しかし、言われてみれば、意義が分かりにくいとの指摘も分かるような気がする。そこで、この小文では「1チップMSX」の予想される使い方を書いてみようと思う。

●単なるアクセサリとして

 パソコンショップに行くと、昔のゲームカートリッジが動作するマシンがあったり、懐かしい形のジョイパッドなどが売られている。「10年ぶりのMSX」で真っ先に連想されるのは、こうした使い方だろう。

 しかし、MSXは汎用のパソコンでもある。「MSX1相当」とはいえ、ほぼフル規格の復刻だから、少なくとも動くアクセサリとして役立つ。小さいこと自体が新しい価値なのだ。かわいいパソコンがテレビに広告文字を表示するなど、イベント等で役立ちそうである。FM音源等が使えるそうだから、鳴り物も十分であろう。
 これこそが「1チップMSX」の最初の用途である。もし製品が、うんとまじめな筐体だったら、思いっきり着飾らせてあげよう。ついでに、小さな実働キーボード自作などいかがだろうか。

●実用計算機として

 公開されている情報を総合してみると、1チップMSXの計算機としての実力は、現代の水準で考えても十分にある。全く新しい、本体2万円のパソコンと考えて良い。
 現在の32/64bitパソコンは確かにすばらしいし、私もその能力を満喫している。幸せな時代になったものだと、本当に歓迎している。おそらく今後も、大型機でやり尽くしたところまで行くだろう。そうなってほしい。でないと、次の革新は生まれないからだ。

 しかし、日常必要とする計算能力から考えると、どう考えてもオーバースペックだ。なにしろ、いまだにプログラム関数電卓などが売られているのだ。つぼにさえはまれば、活躍の余地はある(こういうの、ニッチとも言うが…)。
 実用計算機は16bit時代からであって、8bit機はついに実用にならなかったではないか、との意見もあろう。同感だが、時代背景を忘れてはならないと思う。
 まず、クロック周波数に限界があった。たしかに8bit機でも、アセンブラなどでは想像を絶する高速性能であったが、ワープロ処理すら苦しかった。次に主メモリと補助記憶。

 MSXの解像度は実用PDAクラスなので、表示に問題はない。キーボードに至っては、今も昔も全く変化がない。そして、上述の限界は今やすべてクリアされている。
 さて、何が起こるか。実物がないことには試しようがない。とにかく、この理由だけでも、私は1チップMSXを手に入れたい。

●データベース・マシンとして

 つまり、サーバとしての用途である。ご冗談を、との声が聞こえてきそうだ。
 だが、私がデータベースで仕事をし始めた頃の必要ディスク容量は10MBとかである。ファイルシステムとデータベースシステムの必要記憶の比は約2倍と考えればよい。検索には、いわゆるインデックスファイルが必要だから、さらに5倍ほどの容量が必要となる。

 書く人なら分かるが、1MBの文章というのは書籍で言うと辞書クラスである。電子辞書が実用的な理由である。
 電子辞書はROMだが、これがRAM/HDになっていると考えればよい。恐るべき能力が予感できるだろう。そして、実際にそうだったのである。
 1チップMSXにはSDカードが接続できる。かなり大容量が使えるようである。

 問題はネットワークだが、最近は便利な部品が売られているようなので、多少の知識があれば接続可能と思う。

●システムの核として

 MSXにはさまざまな周辺装置が付いていた。あまりにバラエティーに富むので、一時期はPC/AT陣営にうらやましがられたと記憶している。私が関わっていたMSX2にも大きなボックスが付いていて、たしかスロット経由で制御していた。

 FPGA化したMSXは今後もコアとして活躍するのだと思う。規格として十分に安定しているのがうれしい。必要なら、MSX3、MSX4と時代に合わせて少しずつ進化することも必要だろう。1チップMSXがそのお手本となることは疑いない。

▼追記 (8月3日)

 たまたまホームページを見ていたら、MSX2へのアップグレードキットが3,000円で正式に発売予定とのことである。詳細は後日(余裕は全くないと思えるが…)とのこと。
 MSX2は人気機種だったし、バランスが取れた優良機だったと記憶している(MSX1は当時としても、いかにも入門機だった)。
 MSX1に対する主な改良点は、ゲームに適した画面モードの追加である。MSX-DOS2との相性も無理がない。すでに発表されている「1チップMSX」の機能と合わせると、ほぼMSXの最大規格(+α)となる。

▼追々記 (8月10日)

1チップMSXの楽しみ方について…、念のため

● ホームコンピュータ? No!!

 本気なのか私が茶化されているのか、「1チップMSX」の予約具合を見ていると、ホームコンピュータ(←懐かしい言葉だ)として使ってみたい方々がおられるようである。
 私の意見では、Windows機等の代替として2万円の計算機を購入、というのなら、はっきり反対する。手にしてがっかりされる姿が目に見えるようである。なぜか「日本語ワープロ」なる商品が消えてから久しいので、気持ちが分からぬでもないが。

 私の記憶ではMSXがホームコンピュータの主流になったことは、他の同時代の8bit機と同様に、かつて無かったし、「1チップMSX」はその延長線上にある装置である。

● じゃ、1チップMSXって、何なのよ

 あまりストレートに言ってしまうと、夢見る人々を次々に撃墜してしまいそうなので嫌なのだが…、1チップMSXは、実用でもなく、模型でもない、個人の楽しみのための計算機だ。何より、しつこく真剣に設計されているのがうれしい。この領域で、これほどの目覚ましい装置はめったにない。現代日本では、この種の洒落が全く通用しなくなっているというのに…。

 もっとも、それほど深く考えなくても、1チップMSXはかわいく振る舞ってくれると思う。簡単なBASICプログラムで、テレビ画面がそれなりに動いて、音がする、そういった装置だ。ファンがいろいろ面白い楽しみ方を見つけてくれそうだし、それでなくても、関連情報のwebページを繰るだけでも楽しい。MSXのBASICプログラムは市販の本にこれでもかと掲載されている(今でも! というのが面白い)。

● その先

 そこから先が微妙になる。思い出のためだけなら、私は1チップMSXを予約する気にはならなかった。何かがあるのだ。それを説明するのが難しい。
 なんだか、これまでの方々での議論の蒸し返しになりそうなので気が引けるが、実はこの文章を記述しているタイミングが絶妙だったりするので、あえて書き下してみる。

 まず過去に向かってだが、MSXという遅れて出てきた8bit機が、なぜあれほど隆盛を誇ったのかが、今考えると不思議な点にある。値段が安くて「コンピュータ」という名前が付いていたからか、優良ゲームがいくつもあったからか、80年代の意味のないノリのせいか…。まさかBASICで何かをやってみたい人が多かったからでは無いだろう(私はそうだったが)。つまり、人を引きつける魅力があったのだ。1チップMSXにもその要素があるに違いない、でないと、そもそも「1チップMSXの予約」など存在しない。

 未来に向かってだが、たしかに1チップMSXには今後の発展の余地がある。しかし、それは単なる可能性に過ぎない。しかも、新時代を開拓するほどの馬力はなかろう。
 そう、何かをやり残したのだ、重大な何か。パソコンの発展はあまりに急速だった。特に486CPUの頃からはマニアでさえ置いてけぼりの状態に入ったと思う。いや、発展はありがたかった。我々が目にしているのは、とてつもないスーパーマシンである。何も文句は言うまい。
 それでも、何かが欠けているように思えてならない。別に1チップMSXでなくてもよい、と言えばそれまでだが、それにしても、この歴史の証人は何かを語りかけてくれるようだ。時を超えてやってきた1チップMSXと付き合うと、我々は忘れた歌を思い出すかもしれない。

(続く)