2005年10月2日
●テキサス・インスツルメンツ社の電卓
米国テキサス・インスツルメンツ(TI)社は半導体部品の世界的大メーカーであって、私などはTTLと呼ばれる標準論理ICを世に出した会社として記憶している。新しいところでは、DLPと呼ばれるマイクロマシン技術のプロジェクター用素子が有名であろう。
TI社はIC技術を応用した電卓も販売している。かつては日本でも高級関数電卓として大学生協などで見られたものである。私が最初に購入したのはTI-58と呼ばれるプログラム関数電卓で、計算は遅いが機能は豪華で、よく遊んだものである。その後日本では手に入りにくくなった。15年ほど前に旅行先でTI-62 Galaxyと呼ばれる粋なデザインのプログラム関数電卓を買ったが、マニュアルはドイツ語とオランダ語であった。
グラフ・数式処理電卓 TI-89 Titaniumは現在TI社の最上級の機種である。TI-89という先行機種の後続機で、昨年(2004年)の新発売である。日本の店頭では見られないが、正式に輸入され販売されている(3万円程度)。販売先は日本TI社のホームページからリンクでたどれる。私はボストンに旅行の折に自分用のお土産として店頭で購入した。というのも、それまで能力が全く未知だったからである。なお、マニュアル等はインターネットhttp://education.ti.com/で手に入る。
●TI-89 Titanium
まず断っておかないといけないが、電源ONでいきなり「電卓」として使えない。ポケットコンピュータの一種だと思う方がよい。
電源ONすると現れるのは、いわゆる「デスクトップ」であり、ここで使用ソフトを選ばないといけない。「HOME」キーを押すと電卓風の画面が現れるが、何とこれは、TI-BASICの命令入力画面である。その証拠に、5の平方根の値が知りたいっ、と思って、「2nd」「√」「5」「)」「ENTER」の順でキーを打つと現れる答は、
√5
である(実際は√の上の線が5の上まで伸びている)。おちょくられているのではない。これが「正確な」答えである。概算の数値を知りたいときの操作は「2nd」「√」「5」「.」「)」「ENTER」であって、これでめでたく、
2.23607
となる…。あれっ、たった6桁?。TI-89の浮動小数点数の内部精度は10進14桁(指数は-999〜999)であり、表示は「MODE」キーの画面で最大12桁に指定できる。指定しよう(Display
DigitsをFLOATにする)。
2.2360679775
やっと関数電卓らしくなった。(表示が11桁なのは12桁目が0だからであって、これは普通である)
●数式処理
√5の表示は欠点ではなく、長所である。できるだけ数式処理してから、最後に数値計算すると、(多分)計算精度が良くなるからだ。数式は平方根や分数やベキ乗が教科書のように表示される、いわゆる自然表示。ただし、視認性向上のためだろう、小さいフォントはできる限り使われない(私はこの方が良いと思う)。
だから、結果表示がとても美しく見やすいのだが、本ホームページでは一行表示、つまり入力行の表示を使うことにする。この変換はTI-89
Titanium上でも簡単にできる。
黄金比(1:1.618…)は、方程式x*(x-1)=1の正の解である。この解を出すには、
solve(x*(x-1)=1,x)
と入力する。solveは解の探索命令である。「x」や「,」のキーは物理的に用意されているから簡単に入力できる。「solve(」は「F2」ツールバー(ウィンドウシステムでいうメニュー)から簡単に入力できる。
答は、
x=-(√(5)-1)/2 or x=(√(5)+1)/2
となる。-の肩文字は(引き算ではなく)負の符号であり、米国では一般的な表示のようだ。正の符号は当然、肩文字の+である。
カーソルキーで答を入力行に移行し、前半を消去して「(√(5)+1)/2」を残す。「◆」「ENTER」と操作する(概算指令)。
1.61803398875
ちょっと意地悪して、
1/(1+1/(1+1/(1+1/(1+1/(1+1/(1+π))))))
などと入力しても、豪華に表示される。(連分数表示はない)
●多倍長整数と多倍長分数
さて、数式処理をきちんと行うには、多倍長整数と、多倍長整数を2つ組み合わせた多倍長分数が必要である。TI-89
Titaniumは最大255バイトの整数が使えるので、10進換算600桁あまりの正確な整数の数値が扱える。分数は、この多倍長整数を2つ組み合わせている。これに、初等関数の範囲の関数、つまり累乗、累乗根、三角関数、逆三角関数、指数関数、対数関数と虚数単位(i)で「数式」が表される。
四則や初等関数はもちろん、展開、因数分解、通分、解の探索、微分・積分で数式処理が行われる。
この仕様が気に入るかどうかが、TI-89 Titaniumを購入する分岐点になると思う。
●その他のTI-89 Titaniumの仕様
160x100ドットの白黒2値画面に三次元表示や等高線表示を含めた多彩なグラフが描ける
複素数や16進数や行列や統計は同じ画面で扱える。つまり、別モードにならない。パソコンに近い
USBでパソコンに接続でき、データのやり取り等ができる
プログラムは、いわゆる構造化BASICのTI-BASICで行う。高度なパソコンのBASIC並の装備であり、さらに、行列計算などが可能である。LISP風のリスト処理は、直接にはできない
モトローラ68000(15MHz)のアセンブラとC言語が利用できる。RAMは188KB、フラッシュROMは2.7MB
TI-BASICとは別に、個人スケジュール管理や表計算や幾何学お絵かきソフトなどの、10以上のソフトが導入されている
米国を中心にファンクラブがあり、ゲームなどが流通している
キーボードは関数電卓的ではなく、数式入力指向
単四電池4本で駆動、別のバックアップ用ボタン電池有。カバー付きで314g。厚さは本体だけで23mm
統計機能では、記述統計やグラフは随一と思う。統計学的判断は同梱の「Statistics
with List Editor」である程度可能である
音は出ない、ブザーも無い(関数電卓では普通)
(続く)