参.日常における妖刀


 五月四日。妖刀皐月雨はいまだかつてない危機に直面していた。
 四方八方からみしみしと軋む音がする。
 己が身をまっぷたつにせんとする強大な負荷がかかっている。
 このままでは……折られる!!
 皐月雨の精神は屈した。自らの敗北を認め、命乞いを……
『お、落ち着けみのり!! わかった、全面的に我が悪かった!! だから折るのは、折るのは勘弁してくれー!!』
 ……現在の己が主、みのりにした。


 ――事の顛末はこうだ。
 この日、みのりは神社に着くなり倉庫に赴き、皐月雨に抗議した。
(皐月雨!! 普通は実際闘わせる前に悪鬼の強さとか闘い方とか前もって教えてくれるべきじゃない!? なんで教えてくれなかったの!?)
 昨日の夜の時点では、慣れない闘いの後で怒る気力もなかったのが、次の日になってだんだん腹が立ってきたらしい。
『まあそういうな。以前の主に前もって詳細な内容を話したら、怖がってなかなか悪鬼を探してくれなかったことがあってな。 それ以来あえてすぐに悪鬼と対面させるようにしているのだ。案ずるより生むが易し、と言うではないか』
 それに対してぬけぬけと言い放つ皐月雨。言い忘れたというわけではなく、確信犯のようだ。
(あのねぇ……!! 一歩間違ったら死んでたかもしれないんだよ?!)
『なに、我が力を使いこなせば万に一つもただの悪鬼ごときにやられることはない。 だいたい、我とて無理に最初から闘わせようとしていたわけではないぞ。初日の目標はあくまで悪鬼との対面だからな。 追跡に難航したときに一度退くべきかと言おうとした。それを、怒りに我を忘れて突っ走ったのは汝であろう?』
 怒り心頭のみのりに、皐月雨も負けじと反論する。
(なによー!! 私のせいだってゆーの!?)
『我は事実を言ったまで。結果的に倒せたから構わんが、今後はあまり感情的になるのは感心せんな』

 ぷっちーん。

 皐月雨の長年生きてきた自信ゆえの偉そうな態度に、みのりの怒りはMAXに達した。
(自分じゃ動けないくせに偉そうにー!! あんまり私を怒らせると折るよ!?)
『!!』
 今まで冷静に受け答えしてきた皐月雨だが、「自分では動けない」という身体的特徴(?)をバカにされて頭にきたらしい。
『ふっ……我を折るだと? 面白い。その細腕でそんなことができるかどうか、試してみるがいい』
 だからこそ言ってしまった、この挑発的な一言が……致命的な失敗だった。
(……ふぅん。いいんだ? じゃあやっちゃうよ?)
 みのりはこめかみに青筋を浮かべたままにっこりと笑い、皐月雨の仕込まれた竹箒を手に取る。

 ……ミシッ……ミシミシッ!!

『……!!?』
 皐月雨は突然の怪音に驚愕した。竹箒のみのりが掴んでいる部分が、あまりの握力に軋むような音を立て始めたのだ。
 みのりは皐月雨を少し鞘から引き、刃の向きを確かめる。
「向き、よーし」
 確認の言葉を呟きながら、竹箒の両端をしっかりと掴む。
 竹箒の中心を、刀の側面が当たるように立てたひざに当て、力を込め始める。

 ミシミシミシッ!!

『!!!!』
 容赦なくかけられる負荷。
 皐月雨は失念していた。みのりの身体能力が皐月雨自身により強化されていることを。
 強化は皐月雨の妖力によるものだ。 しかし、皐月雨と契約を交わした主は皐月雨を手にしている間、ある程度なら自分の意思で強化の力を引き出せるのである。
 心なしか刀身が若干曲げられてきている気がする。
 金属の弾性で耐えられるうちに降参しなければ……確実に、折られる!!
『ま……待て、待つんだみのり!!』
 こうして皐月雨は思わず白旗を上げたのだった――


 数分後。神社の境内には、単調な掃き掃除の音が響いていた。
(まったく……最初から素直に一言謝ってくれれば、私だってあんな乱暴な真似はしないんだよ?)
『も、申し訳ない……』
 皐月雨は平謝りを重ねた甲斐あって、言葉でのお説教を受ける程度で済んでいた。
(でも、まぁ確かに私もあの時感情に流されて行動しちゃったのは事実だから、皐月雨の言い分もわかるし、ね)
 みのりも平静を取り戻して、自らの行動を反省する。
(……と、いうわけで! これで喧嘩はおしまいね)
 そうしてようやく、皐月雨のこれまでの人生(刀生?)何百年かで最大級の危機は去ったのだった。
『う、うむ。だがみのり、頼むから今後意見が対立しても折ろうとするのはやめてくれ……正直言って怖い。怖すぎる』
(やだなぁ、もちろん本気で折ろうなんて思ってなかったよ)
にこにこと笑って言うみのり。
『……(う、嘘だ……絶対あれは本気だった……本気と書いて“まじ”だった……!!)……』
(ん? 何ぶつぶつ言ってるの?)
『……イヤ、ベツニ。』
(そう? ならいいけど。……さて、と。そろそろピアノ弾こうかな)
 みのりはさっさと竹箒(皐月雨)を倉庫に片付けて、拝殿に向かっていった。
『やれやれ……さて、“解析”を始めるか』
 倉庫にしまわれた皐月雨は、ピアノの音色が響き始めたのを聴きながら、そう呟いた。
 ……“解析”とは、倒した悪鬼の魂の形質を読み解くことを指す。
 妖刀皐月雨はその刀身で悪鬼を倒すと、その悪鬼の魂を己が身に取り込む。いわば魂を“喰らう”のだ。それが皐月雨による「悪鬼を祓う」ということ。
 祓うという言葉を使ってはいるが、その実“毒をもって毒を制す”のが本質なのである。もっとも、それこそが彼が「霊刀」ではなく「妖刀」たる所以なのだが。
 取り込んだ悪鬼の魂は、皐月雨の中において解析される。
 禍年にこの地に現れる悪鬼は、それぞれがその魂に、その代の王鬼の形質を若干ずつではあるが受け継いでいる。その形質は悪鬼に通常以上の力を与える厄介なものであると同時に、皐月雨にとっては王鬼を探し出す手がかりでもある。
 皐月雨は悪鬼を解析することにより王鬼の形質を得て、それをパズルのピースのように集め、組み立てる。そうすることで王鬼の魂の波長を予測し、その手強さや特性をある程度知ると同時に、遠距離からでも探し出すことができるようになるのだ。
 王鬼さえ倒せば悪鬼は通常程度の力に弱まり、危機は回避できる。
 それでも悪鬼を複数祓わなければならないのは、 王鬼との戦いに備える主の“場慣れ”の意味合いと同時に、この“解析”のためでもあるのである。
 皐月雨は意識を己が内に捕らえた悪鬼の魂に集中し、その形質を読み解き始めた。


 しばし経って、物置の戸が開いたのに気付き、皐月雨は解析を中断した。
 入ってきたのはみのりだった。皐月雨はその時まで特に気に留めていなかったが、少し前からピアノの音はやんでいた。
『……? みのりか。どうした?』
(うん、出番だよ皐月雨。掃除掃除!)
『掃除? 今日の掃除はさっき終わらせたのではなかったか?』
(そうだけど、今ちょっとお客さんが来ててね。ピアノ弾いてばっかいると思われてもなんだし、働き者なところをアピールしとこうかなって)
『……………………そうか』
 皐月雨の返事の前の微妙な間は無視して、みのりは皐月雨=竹箒を持って物置を出る。
「速攻で終わらせますからー! 座って待っててー!」
 拝殿の前にいる客人――若い男性である――に大きな声でそう言い、掃き掃除を始めた。
『客人とはあの男か。……汝の想い人かなにかか?』
(はぁ? 違うよ。あの人とは最近ここで何度か会ったことあるだけだよ)
『……そのようだな。反応の淡白さにも、それが如実に表れている』
 皐月雨の言うように、みのりは顔色一つ変えなかった。
(まったく。若い男女が一緒にいたら恋人同士なんて、発想が安直すぎるよ?)
『そうだな、失敬。それでは彼は神社のほうの客人か』
(ううん。それも違うみたい。なんかあの人が言うには、私のピアノの音が綺麗だから来たんだって。 私のピアノも捨てたもんじゃないねー、なぁんて)
 少し照れ気味に言う様子はまんざらでもなさそうだ。
『ほう、“ふぁん”ができたのか。良かったではないか、みのり』
(あはは、まぁせっかくだから掃除終わらせたらまた弾いてあげることにしたんだ。……と、いうわけで。)
 そう言うと、みのりは早々に物置に戻り、皐月雨を置いて宣言する。
「今日の仕事、終わりー!」
「それでいいのかー!?」
『働き者なところを“あぴぃる”するのではなかったのかー!?』
 客人の男性と皐月雨がツッコむのはほぼ同時だった。もちろん、男性は皐月雨の声には気付かないが。
 みのりは二つのツッコミを意に介さず、男性のところへ小走りに駆けていった。
『……まぁ、もともとこの時期の境内にゴミなどほとんど無いしな……』
 しばらくして、またピアノの音色が響いてくる。
『……異国の楽器も悪くないな。……確かに、客人が引き寄せられるのもうなずける』
 そうひとりごちて、皐月雨は悪鬼の解析を再開した。



 五月七日、午後。
『……“アピぃる”。違うな。ア……ピール?』
 皐月雨は物置で一人、今までに使った現代語の発音練習をしていた。知識こそみのりから得ているが、横文字が苦手なため、つい発音が変になってしまうのだ。
 ……何故こんなことをしているかというと。
 五月四日夜は、みのりの初戦の疲れを癒すため悪鬼祓いはせず、三日に祓った悪鬼の解析をした。
 続く五日夜には新しく悪鬼一体を祓うことに成功したが、六日夜は残念ながら逃がしてしまった。加えて、五日に祓った悪鬼の解析は六日の日中に終わっているため、今は解析すべき対象がない。
 ……つまりは、暇なのである。
 なにしろ、刀なので自分では動けないし、一般的な生命体ではないので通常の睡眠は必要としない。
 そして話せる相手といえばみのりただ一人。
 ちなみにそのみのりは現在、一昨日に続き今日も来た客人の男性(溝口春樹という名だそうだ)に聴かせるためピアノを弾いている。
『ふむ。あとは……そうだな、そろそろ一人称も変えてみようか。“我”というのはさすがに時代遅れかも知れぬ』
 ゆえに、彼はこのように一人で思考にふけって時間を潰すしかないのである。
 通例、伝承や伝説、様々な物語に出てくる特殊な存在は、特殊であるが故の魅力的部分ばかり語られる。
 だが、その実どんな存在にもその存在なりの“日常”がある。
『僕、私、ワシ、おいら、アタシ、俺様、わい、おいどん、……むぅ、あらためて考えてみると多くの一人称があるものだな』
 その中には、皐月雨のように滑稽な側面を持つ者がいてもおかしくはないだろう。
『とりあえず、言葉遣いとあわせてひとつひとつ使ってみるか。まずは……』
(さみだれぇ!!)
 皐月雨が新しい一人称を決めようとしているとき、突然みのりが勢いよく倉庫の戸をあけた。
 それに対し皐月雨は……
『やぁみのり! ボクに何か用かい?』
 限りなくさわやか青年風に答えた。声まで若々しい高い声に変えて。
(…………誰?)
 みのりは勢いを削がれ、ぽかんとしている。
『やだなぁ、皐月雨だよ!』
(いや、だってキャラ違うし!? それに皐月雨はもっと渋い声だよ!)
『声は結局のところ魂の共鳴を利用して擬似的に“聞こえてる”と脳に直接思わせてるだけだからね。その気になればいくらでも変えられるのさ!』
 人間だったら確実に歯が白く輝いているであろう口ぶりで皐月雨は説明する。
(……い、いったい何があったの皐月雨!? まさか、あまりの孤独で脳が!? 私が溝口さんのほうにばっかり行ってほっぽらかしたから……?!)
『ハハハ、失礼だなぁ。だいたい刀のボクに脳はないし。なぁに、そろそろボクも現代に合わせて“いめちぇん”しようかと思ってね!』
(な、なんだ。そゆこと…………でもさ)
『ん? なんだい?』
(はっきり言って、変。てゆーか、気持ち悪い。)
 ……このとき、皐月雨は己の刃に一刀両断された瞬間の悪鬼の気持ちがわかったという。


『……で、“我”に何の用だ、みのり? また溝口殿に働き者ぶりをアピールするのか?』
 仕切り直し。皐月雨が従来の落ち着いた低い男性の声で問う。いや、いつもよりいくらか沈んだ声かもしれない。
(あー、いや、違うよ。溝口さん絡みではあるけど。……さっきので勢い削がれたから、半分用がなくなっちゃったようなもんなんだよね)
『?』
(いやね、今日も溝口さんの期待に応えてピアノ弾いてたんだけどさ。弾き終わっていい気分で拝殿出たら溝口さん寝てるんだもん。 頭にきたから制裁として皐月雨でザクッと)
『斬る気!?』
 皐月雨がわりと本気で恐怖と驚愕の入り混じった声をあげる。
(……皐月雨いこーる竹箒の穂先でつつこうと思っただけだよ)
『な、なんだ。そういうことか……』
(……皐月雨、私を一体なんだと思ってるの? いくらなんでも悪鬼以外を、ましてや人を斬ったりしないよ……)
 みのりがジト目で責める。
『い、いや、……ははは。失敬失敬』
 笑ってごまかすしかない皐月雨。折られかけた一件以来、みのりにたいして“暴力的”という恐怖心に近いイメージが染み付いてしまったらしい。
(……はぁ。ともかく、溝口さんに正義の鉄槌をお見舞いしようと意気込んでたのが、皐月雨の強烈なボケで冷めちゃった、と。そういうこと)
『ボケたつもりはないのだが。……まあいい』
 皐月雨がやや悲しげに呟く。
(それでね。考えたんだけど、溝口さんにも悪鬼って憑いてるのかなぁ?)
『む? どうだろうな。先刻彼に近づいたときはそれらしい気配はなかったが……』
(だってこないだも寝てたし、今日だって10時間寝たって言ってたのにまた寝てるんだよ? 悪鬼のせいで疲れがたまってるんじゃないかな?)
『ただ寝るのが好きなだけとも考えられるがな。……だが、そういえば彼は今年に社会人になったばかりと言っていたか。 憑かれやすい状況ではあるな。せっかくだから彼が寝てる間に妖魔眼で見てみるか?』
 ……と言う訳で、拝殿前。みのりが皐月雨を手にし、目をつぶる。
 次に目を開いた時には、その瞳は紅の輝きを宿す、妖魔眼と化していた。
(あ、ホントにいた)
 拝殿前の石段の上に寝そべり眠りこけている溝口の額の上に、悪鬼はいた。
 夜とは違い、手乗りサイズの不気味な人形といった風貌で、ぼーっと虚空を見つめて座り込んでいる。
 たまに溝口の額に手を当てると、その場所から小さな光の球体が現れ、悪鬼はそれを口に放り込む。
(なにやってるの、こいつ?)
『溝口殿から出る光球が精神力だ。悪鬼はああして憑いた対象の精神力を少しずつ削り、喰らうのだ』
(へぇ。じゃあ、この光も妖魔眼の力で見えてるんだ?)
『然り。……それにしてもこの悪鬼、どうやらまだあまりたくさんは精神力を喰らっていないようだな』
(そうなの?)
『うむ、気をつけなければ気付かないぐらい、ほとんど妖力を感じない。 それに、ある程度力をつけた悪鬼なら、ここまで近づけば我の存在を察知するはずだ。 憑いてから間もないか、溝口殿の精神が強いかのどちらかだな』
(憑いてから日が浅いんじゃない? 溝口さん、そんなに強そうでもないし)
 みのりは即答した。
『……さりげなくひどい言い草だな。それはそうとどうする? この程度の輩なら、簡単に祓えるぞ?』
(えぇ? でも刀を抜くのはまずいんじゃない? 顔の近くだから危ないし、途中で溝口さんが起きたりしたら面倒だよ)
『いや、この程度の力しか持たぬのなら、竹越しでも効果はあるだろう。それどころか、場合によっては柄で叩くだけでも十分かもしれんな』
(ふーん。……あ。)
『ん? なんだ?』
(……いいこと、思いついた♪)

 ざっ!

 みのりが溝口の前に仁王立ちになる。
 手に持つ皐月雨を仕込んだ竹箒を逆向きにし、持ち手の先端を溝口の額の40cmほど上のところで静止させる。
「すたんばい、ふぉーあくしょん」
『……何を始める気だ、みのり?』
 体勢からなんとなく先が読めるが、言動がよくわからなかったため一応尋ねる皐月雨。
(悪鬼も祓えて、溝口さんにお仕置きもできる一石二鳥の方法! あとはあれだよ、すぐ実行するのも面白くないから趣向を凝らそうと思って)
 笑みを浮かべながらみのりは答える。
「爆撃投下まで10秒前……。9……。8……。」
『……それで“かうんとだうん”か。やれやれ……』
 皐月雨が呆れる。
 悪鬼がはっとみのりを見る。殺気を感じたのだろうか。……もっとも、みのりの殺気の半分は溝口に向けられているのだが。
 そして悪鬼は挑戦的ににやり、と顔をゆがめた。
『(……みのりが何をしようとしているか理解している?)』
 悪鬼はじっとみのりの様子を見ている。どうやら投下の瞬間に避けてやろうという魂胆らしい。
「7……。6……。」
 みのりはかまわずカウントダウンを続ける。
「5……」
『 (……まぁ、逃したとしてもまだ溝口殿は危険な状態ではないし、今はとりあえず見守るか……)』
「投下」
『え゛』
 その瞬間、心の準備もままならぬまま、皐月雨は落下した。

 がつっ。

"ギャぶッ!?"
 クリーンヒット。悪鬼は竹箒の先端に見事に押しつぶされ、霧となる。
『……そうきたか。“かうんとだうん”そのものが罠だったとはな……』
 霧と化した悪鬼を吸収しながら、皐月雨は呟いた。
「………うぐぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
 同時に、溝口が痛みでのたうち回りだした。
 それはそうだろう。日本刀一本分余計に重い大型竹箒の一撃を受けたのだから。
「あ、起きた?」
 まったく悪びれずにみのりが溝口に声をかける。溝口は返事どころではないらしく、まだのたうち回っている。
「はぁ……。まったく! 人が折角丹精込めて演奏してあげたっていうのにコイツはー!! ……」
 それからみのりは溝口の頬をつねりながらぎゃんぎゃんと不満をぶつけ始めた。
『……平和だな……ある意味』
 みのりと溝口のほほえましい(?)やりとりを聞きながら、皐月雨はなんとなく空を仰ぎたいような気分でひとりごちた。
 五月の空は、今日も蒼く澄み渡っていた。

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