いきさつ
1NT オープンは,かつては,16
-18 HCP が標準でした。
しかし,いつの頃からか,これが 15
-17 HCP に変更されて,現在に到っています。
手許の本を
比べてみると,この
移行の時期は,1980 年代だったことが分かります。
これについて,2009 年 9 月に 「かずちゃんのホームページ」の掲示板で
お尋ねしたところ
(#690),
三人の方から 興味深いお答えをいただきました。
同じ頃,Yahoo! のブリッジ・テーブルで,同じ質問を bridge_ski さんにした
ところ,
1NT オープンの機会が 30% くらい増える という話でした。
この「30% 増える」という話は,私の耳にずっと残り,いつの日か 自分の手で確かめたいと思っていました。
けれども,この確率の計算は,非常に難しそうで
(そもそも どうやって手をつけたらよいのか 皆目分からない) ,
実際,WEB で検索しても,そんな確率は見当たりません。この件は,しばらく忘れていました。
一方,LoTT
(合計トリック数の法則) について考えると,切り札のフィットする確率が重要であることに
気づき,その確率の計算に取り組みました。こちらの方は, 考えやすいので,なんとかケリがつき,
そこで あらためて
(確率計算に慣れたので) 表記の 1NT オープンに取り組みました。
結 論
お急ぎの向きのために,結論から始めます。2 種類のハンド
(A) 15
-17 HCP のバランス・ハンド
(B) 16
-18 HCP のバランス・ハンド
を比較すると,前者が後者の 1.371 倍 多く現れます。つまり,ぶりさんから
教えて
もらった 30% より少しだけ大きくて,37.1% であることが分かりました。
ここで バランス・ハンドと呼んでいるのは,通常の定義,すなわち,3 種類
[4333], [4432], [5332]
のカード分布を意味します。
ここから先は,上の結果について立ち入って説明します。
詳しい
(数学的な) 説明は,
付録に回します。
なお,上のように (正しく) バランス・ハンドに限定せずに,シングルトンやボイドを持つハンドも含めて,HCP の大きさ
だけで
(a) 15
-17 HCP のすべてのハンド
(b) 16
-18 HCP のすべてのハンド
を単純に比較することもできます。これは無意味な比較ですが,(a) は (b) の 1.387 倍
多く現れます。
この数値は
WEB 上で 38% として 既に知られています。
結局のところ,バランス・ハンドに限定しても/しなくても,結論にあまり変わりが無い
ことが分かりました。
得られた結果の説明
これは要するに,表題に書いたように,15 ‐17 HCP のバランス・ハンドで 1NT オープンすると,16 ‐18 HCP の場合に比べて,頻度がどのくらい増加するか という問題です。
ひとりのプレイヤーに 13 枚のカードを配る組み合わせは,
52C13 = 635,013,559,600 通り
あります。
これを単純に HCP に従って 0 〜37 HCP
(上限は,40 HCP ではありません) に
分類することもできますが,
それだけでは,上の問題の答になりません。
1NT オープンでは,手の形を上の 3 種類のバランス・ハンドに限定する
必要があります。
これらのバランス・ハンドは,上記の 6350 億通りのうちの 47.6 % を占めます
(13 枚のカードの形は全部で 39 通りあるので,バランス・ハンド 3 種類だけで
全体の半分を占める ―― というのは,ちょっと意外です)。
ほぼ 2 回に 1 回の割合でバランス・ハンドが来るので,バランス・ハンドでのオープニング・ビッドは重要です。
そういう訳で,ここでは,6350 億通りのハンドを,その «
形» と «HCP» の
両方により
分類して,その個数をカウントしました。
そして,得られた結果を,
2 つの巨大な表
(1)
ハンドの個数
(2)
ハンドの発生確率 (単位は ‰ = 1/1000)
として まとめました。それぞれ,クリックしてご覧下さい。
どちらの表も,38 行 × 39 列 = 1,482 個の欄から成ります。
表 (1) は,手の形と HCP ごとに,場合の数を数えた結果です。これらの
総計は,
表の右下にあるように,6350億 です。
これらの個数を それぞれ 単純に 6350 億で割ることにより 発生確率が
得られ,その結果が 表 (2) に示されています。
この表 (2) で,0 と書かれている欄は,確率の数値が 0.001 % 未満で
あって 0 ではない
ことを意味します。いっぽう,空欄は,確率が厳密に 0 であること
(すなわち,そういう場合は絶対に無い) ことを意味します。
分割が非常に細かいために それぞれの確率の数値が小さくなるので,単位を % ではなく,
‰ にしました。したがって,その総計は 表の右下にあるように 1000 となります。
《 バランス・ハンドの発生確率 (%) 》
HCP | [4333] | [4432] | [5332] | 合計 | %
|
15 | 0.469 | 0.958 | 0.688 | 2.115 | (A) 15 ‐17 合計 4.866
|
16 | 0.355 | 0.723 | 0.518 | 1.596
|
17 | 0.259 | 0.523 | 0.373 | 1.155 | (B) 16 ‐18 合計 3.550
|
18 | 0.180 | 0.363 | 0.256 | 0.799
|
この 表 (2) から 青色の部分 すなわち
15 〜18 HCP バランス・ハンド の
部分を
抜き出したのが,右の表です。
ただし,こちらの表では,確率の
単位を
‰ ではなく % にしました。
この抜き出された表から,
(A) 15〜17 と (B) 16〜18 の
発生
頻度の比 4.866 / 3.550 = 1.371 が得られます。
結論として, (A) により 1NT オープンすると,(B) による場合よりも 37 %
だけ その機会が増えます。平たく言うと,(A) 15 〜17 HCP で 4 回 1NT オープンする間に,
(B) 16 〜18 HCP では 3 回しか 1NT オープンできません。
この違いの原因は,15 HCP と 18 HCP で発生確率が非常に異なるためです。
この状況は,グラフで見ると よく分かります。
右のグラフは,全ハンド (黒),
バランス・ハンド (青) の発生確率を HCP により分類した結果です。
さきほど述べたように,
黒線は,青線のほぼ 2 倍です。
また,40 HCP を 4 人で分けるので,どちらの曲線も,10 HCP あたりに
山を持ちます。
15 〜18 HCP の範囲は
この山の右裾にあるので,
18 HCP を捨てて 15 HCP の
場合を取り込むと,
確率が
かなり増えることが理解でき
ます。
《 全種類ハンドの発生確率 》
HCP | %
|
15 | 4.425 | (a) 15 ‐17 HCP 合計 10.097 %
|
16 | 3.311
|
17 | 2.362 | (b) 16 ‐18 HCP 合計 7.278 %
|
18 | 1.605
|
ここまでの結論は,グラフの青線
(バランス・ハンド) に限定して導きましたが,
バランス・ハンドに限定せずに黒線のデータで比較すると,右表が
得られます。そこから,
(a) と (b) の発生確率の比 10.097 / 7.278 = 1.387 が求められます。
結局, バランス・ハンドに限定しても しなくても,確率の比は ほとんど同じです。
付録: 確率の計算方法
ひとりのプレイヤーに (52 枚のカードの中から) 13 枚を配る方法は,
52C
13 = 635,013,559,600 通りあります。
これらを
1. 手の形により分類する.
2. HCP により分類する.
このように 2 重に分類して ハンド個数を数え上げ,
上の表 (1) を作成します。
表 (1) が得られれば,すべての数字を
52C
13 で割ることにより,
確率の表 (2) が得られます。
《 多重度の表 》
手の形の内容 | 例 | 多重度
|
すべて異なる | [5431] | 4! = 24
|
2 つ 同じ | [4432] | 4! / 2! 2! = 6
|
3 つ 同じ | [4333] | 4
|
はじめに 手の形について考えると,[4333],[4432],…,[13,000] の 39 通りあります。
ここで,たとえば,[3424] のような分布を独立に
考える必要はありません。[4432] の場合に
多重度 6 を掛ければ十分です。すなわち,この多重度は
4 スートの
内容を入れ換えることに対応します。
次に,HCP により更に分類しますが,これが やっかいな作業です。
単純に HCP だけで場合分けするのは,難しくありません。
また,手の形だけで場合分けするのも,難しくありません。
これらの場合の確率の計算方法とその結果は,
Durango Bill さんのホームページに載っています。
厄介なのは,ハンドの形を特定して,しかも HCP により分類する ―― と
いう 2 重の拘束条件があるためです。
何かうまい方法があるか (上の 2 通りの場合分けを発展させれば) と思って長い間
考えました。結局は,以下の方法を見つけたのですが,もっと旨い方法があるのかも知れません。
ここには,私なりの考え方を示します。
例として,21.6% という最も頻度の高い形 [4432] で 15 HCP のハンドが
何個あるか
を数えましょう。
この場合,4 スートの枚数分布は
4 枚,
4 枚,
3 枚,
2 枚
です。
次に,HCP の合計が 15 でなければなりません。
《 各スートの内容 》
絵札枚数 | 絵札 | HCP
|
4 | AKQJ | 10
|
3 | AKQ | 9
|
3 | AKJ | 8
|
3 | AQJ | 7
|
3 | KQJ | 6
|
2 | AK | 7
|
2 | AQ | 6
|
2 | AJ | 5
|
2 | KQ | 5
|
2 | KJ | 4
|
2 | QJ | 3
|
1 | A | 4
|
1 | K | 3
|
1 | Q | 2
|
1 | J | 1
|
0 | なし | 0
|
ところで,絵札の持ち方というのは,右の 16 通りの
どれかに限られます。
この表には, 4 枚から 0 枚までの
絵札の内容と,
それに対応する HCP が 16 通りに分類されています。
そこで,4 スート
に 右の表を上から順番に 割り当てていきます。
最初の候補は,
AKQJ
AJxx
xxx
xx
です。ここでは,スペードに AKQJ
(10 HCP), ハートに AJ
(5 HCP) を与え,
残りの 7 枚には 屑札 x
(10〜2,HCP なし) を与えます。
このとき,6 枚の絵札は完全に指定されましたが,
7 枚の屑札 x には任意性が残っています。
どのスートにも屑札は 9 枚あり,その中から
スペード: | 9 枚の中から 0 枚,
|
ハート: | 9 枚の中から 2 枚,
|
ダイヤモンド: | 9 枚の中から 3 枚,
|
クラブ: | 9 枚の中から 2 枚
|
を選びます。そこで,この選び方に対応して,ハンド個数は,
9C0 × 9C2 × 9C3 × 9C2 = 1 × 36 × 84 × 36 = 108,864
|
通りあります。上の表を にらみながら これを続けると,
AKQJ
| KQxx
| xxx
| xx
|
9C0 ×
9C2 ×
9C3 ×
9C2
| = 1 × 36 × 84 × 36
|
AKQJ
| KJxx
| Jxx
| xx
|
9C0 ×
9C2 ×
9C2 ×
9C2
| = 1 × 36 × 36 × 36
|
AKQJ
| QJxx
| Qxx
| xx
|
9C0 ×
9C2 ×
9C2 ×
9C2
| = 1 × 36 × 36 × 36
|
AKQJ
| QJxx
| Jxx
| Jx
|
9C0 ×
9C2 ×
9C2 ×
9C1
| = 1 × 36 × 36 × 9
|
AKQJ
| Axxx
| Jxx
| xx
|
9C0 ×
9C3 ×
9C2 ×
9C2
| = 1 × 84 × 36 × 36
|
etc. ….
|
これらのハンド個数を,許される全ての「絵札の持ち方」について加え,その
結果に 多重度 6 を
掛けると 2,976,568,236 という数字 (ほぼ 30 億) が得られます。これが,6350 億個のうち,15 HCP を持つ
[4333] ハンドの個数です。
その発生確率は,30 億 / 6350 億 = 0.469 % と求められます。これが,
前に示した表の左上隅の数値です。
この計算を 39 通りの枚数分布 と 38 通りの HCP という全ての組み合わせ 1,482 通りについて実行した結果が 表 (1) です。
この計算法の要点は,
枚数分布が [4432] で 合計 15 HCP
という条件下で,各スートに右上表のあらゆる組み合わせを許し,そのとき,
カード x が取りうる場合の数 9C屑札枚数 を掛け合わせる
ところにあります。
このアルゴリズムが正しいことは,各行,各列の合計数値が,これとは独立に得られた数値と一致することにより
確かめられます。総数が
52C
13 に一致することは,
言うまでもありません。
なお,転記のミスを防ぐため,上の 2 つの表 (1) と (2) の HTML ファイルは,VB プログラムにより直接に作成しました。
移行の時期
この移行がいつ頃だったのかを知ろうと,手許の本・ソフトウェアを調べました。
- (A) Ned Dowley & Ellen Pomer: Standard Bidding with SAYC (2005).
- (A) Fred Gitelman: Learn to Play Bridge (2003).
- (A) Audrey Grant: ACBL Spade Series (2000).
- (A) Barbara Seagram & Marc Smith: 25 Bridge Conventions You Should Know, (1999).
- (A) William S. Root: The ABCs of Bridge (1998).
- (A) Mike Lawrence: Conventions (1996).
- (B) Audrey Grant: ACBL Club Series (1987).
- (B) Charles H. Goren: Goren's New Bridge Complete, (1985)
- (A) William Root & Richard Pavlicek: Modern Bridge Conventions, (1981)
付録: 確率の計算方法 (2)
本稿では,
(1) 手の形により分類する.
(2) HCP により分類する.
という 2 重の条件を課して,場合の数を数えました。条件が 2 重であるために,1,482 通りに
分ける必要が生じ,計算が複雑になりました。
この条件がどちらか片方の場合には,計算がずっと
簡単になります。
この 2 つの場合についても,計算法をここにまとめておきます。
(1) の場合 ( 一人のプレイヤーに配られるハンドの形の分布 ).
スペード 13 枚
|
ハート 13 枚
|
ダイヤモンド 13 枚
|
クラブ 13 枚
|
手の形 [
a, b, c, d] が指定されているので,
52 枚のカードをスート別に 13 枚の 4 つの山に分け,それぞれの山から
a 枚,b 枚,c 枚,d 枚 を抜き出します。
このような場合の数は,
N [a, b, c, d]
=
13Ca × 13Cb × 13Cc × 13Cd
|
により与えられます。ただし,抜き出すカードの合計枚数が 13 なので,
a +
b +
c +
d = 13
です。ここで,
a, b, c, d を入れ換えた場合も
含めて数えるには,これに
多重度 を掛けます。
こうして得られた結果が,さきほどの
巨大な表の最下行に示されています。
これをすべての可能な
a, b, c, d について加えると,
その結果は
52C
13 ( = 6350 億) となります(これには,
2 項係数の和公式を 3 回使います)。
(2) の場合. ( 一人のプレイヤーに配られる HCP の分布 )
今度は HCP が指定されていて,各スートの枚数は不定なので,少しだけ複雑です。
この場合には,52 枚のカードを,右のように,5 つの山に分けます。
Ace 4 枚
|
King 4 枚
|
Queen 4 枚
|
Jack 4 枚
|
残りの 36 枚
|
そして,それぞれの山から Ace
A 枚,King
K 枚,Queen
Q 枚,Jack
J 枚 を抜き取り,
最後の山からは,
S 枚の屑札を抜き取ります。
抜き取るカードの枚数が 合計 13 なので,
A +
K +
Q +
J +
S = 13
です。また,HCP が指定されているので,このうちのどれか 2 個 ( たとえば,
J と S ) は
上式と
4
A + 3
K + 2
Q +
J = HCP
により制限されます。したがって,HCP を指定したとき,場合の数は
N (HCP)
=
A, K, Q
4C
A ×
4C
K ×
4C
Q ×
4C
J ×
36C
S
となります。この右辺は,すべての可能な
(階乗記号の中の引数が負にならない範囲で) A, K, Q について加えます。
こうして計算した結果が,
さきほどのグラフの黒丸の線です。
なお,これを 0 から 37 HCP まで加えると,その結果は やはり
52C
13 (= 6350 億) となります。
付録: 確率の計算方法 (3), ペアに配られる HCP の分布
すぐ上で考えたのは,自分ひとりに配られるカードの HCP の分布でした。
同様に考えると,自分とパートナーの二人に配られる HCP の分布も計算できます。
今度も同じように 52 枚のカードを,右のように 5 個の山に分けます。
Ace 4 枚
|
King 4 枚
|
Queen 4 枚
|
Jack 4 枚
|
残りの 36 枚
|
そして,それぞれの山から Ace
A 枚,King
K 枚,Queen
Q 枚,Jack
J 枚 を抜き取り,
最後の山からは 屑札
S 枚を抜き
取ります。
抜き
取るカードの枚数が 合計 26 なので,
A +
K +
Q +
J +
S = 26
です。また,HCP が指定されているので,このうちのどれか 2 個 ( たとえば,
J と
S ) は 上式と
4
A + 3
K + 2
Q +
J = HCP
により制限されます。したがって,HCP を指定したとき,場合の数は
N (HCP) =
A, K, Q
4C
A ×
4C
K ×
4C
Q ×
4C
J ×
36C
S
となります。この右辺は,すべての可能な
( 階乗記号の中の引数が負にならない範囲で) A, K, Q について加えます。
さきほどとの違いは,抜き取る枚数が 13 から 26 に変わったことだけです。
これを 0 から 40 HCP まで加えると,その結果は
52C
26 となります。
この場合の発生確率が 右のグラフです。
横軸は ペアに配られるカード 26 枚の HCP を, 縦軸はその確率 (%) を表します。
当然のことながら,このグラフは HCP = 20 に山を持ち 左右に対称です。
ここで HCP
25 ならば何かのゲームが
あると
考えて,25 HCP 以上の確率を合計すると 17.5% という数値が
得られます。
すなわち,平均的には,6 回のディールのうちで 1 回程度ゲームがあります。