ベクトル解析 

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    1.ベ ク ト ル の 定 義       
    2.ベ ク ト ル の 代 数       
    3.四 元 速 度             
    4.四 元 運 動 量           
    5.ス カ ラ ー 積           
    6.双対ベクトル、双対空間         
    7.双対ベクトル、双対空間の例       
    8.共変、反変ベクトルと添字の位置     


1.ベクトルの定義
変位、速度、加速度、力などの様に大きさと方向を有する量をベクトル(VECTOR)といい、質量、密度、エネルギーなどの様に大きさのみを有する量をスカラー(SCALAR)という。ベクトルは矢印のついた線分で  と表す。矢の根元Oを始点といい、矢の先Aを終点という。線分の向きはベクトルの向きを示し、その長さは大きさを示す。簡単に一つの文字で表すにはと表す。二つのベクトル  と  との大きさと方向が共に等しい時は、それらの始点の如何に関わらず  と  は相等しいという。

(1) 基底ベクトル

いかなる系にも次の成分で定義される特別な4個のベクトル(=基底ベクトル)がある。
   (1,0,0,0)  (0,1,0,0)  (0,0,1,0)  (0,0,0,1)
 
系Sに於ける基底ベクトルは 
に於ける基底ベクトルは 
とそれぞれ表す。
添字は下付けとする。詳細は 8.共変、反変ベクトルと添字の位置を参照。

(2) 一般のベクトル

系Sに於ける一般のベクトルは =( )
は系Sに於ける成分。基底ベクトルを用いて表すと(添字は上付けとする。詳細は 8.共変、反変ベクトルと添字の位置を参照。)
   ◆     
に於ける一般のベクトルは =( )
は系に於ける成分。基底ベクトルを用いて表すと
   ◆     


2.ベクトルの代数

(1) ベクトルの成分の変換

系Sに於ける座標値はローレンツ変換により系の座標値に変換出来た。同様にベクトルの成分もローレンツ変換により変換出来る。即ちローレンツ変換行列  を用いて( 空間軸が回転している時のローレンツ変換行列を用いている。 (特殊相対論入門 付録:空間軸が回転している時のローレンツ変換を参照。 簡単な形のローレンツ変換行列は特殊相対論入門 2. ガリレイ変換とローレンツ変換を参照 ) )

 をアインシュタインの総和の規約を用いて書くと
              (=0〜3)

【アインシュタインの総和の規約】

一つの添字が上付けで、それと同じ添字が下付けで出てくる式では常にその添字の取りうる値すべてについての総和を取る事である。( 総和の記号  を省略する。 )
        (=0〜3)
          (=0〜3) ・・・・・ (1)
ギリシャ文字の添字は0〜3の値を取り、ローマ字の添字は1〜3の値を取る。
   ◆ AαPα=AP+AP+AP+AP  ,  AP=AP+AP+AP
尚 ー(A02+(A12+(A22+(A32=ー(2+(2+(2+(2 となり特殊相対論入門で述べた間隔の不変性を満足する。

・  は定数にすぎないことから
      =∂/∂Aα

・ 微分を表す記法を次の様に定める。
     ∂Φ/∂X=Φ,x    ∂Φ/∂Xα=Φ,α     ∂Xα/∂Xβ=Xα,β

・ ダミーの添字とフリーの添字について
   総和を表す為に使用される添字をダミーの添字といい、和をとらない添字をフリーの添字という。
   (1)の式に於いて β はダミーの添字で、 α はフリーの添字である。ダミーの添字もフリーの添字も
   どんな文字を使用しても構わないが、フリーの添字を付け換える時は全てを付け換えなければならない。
   次の式は(1)の式と等価である。
       Aμ=Λμ νν


(2) 基底ベクトルの変換

 と  より 
従って    は任意なので
   ◆ 
基底ベクトルの変換は成分の変換ではなく、系Sの基底を系での基底 の線形結合で表現したものである。
逆変換(を用いての変換)は上記の方法と同様な方法で求めると
   ◆   となる。


(3) 変換行列の積

系Sから系への変換行列  と系から系Sへの変換行列  との積は次の様になる。
   ◆   =δνα    δはクロネッカーのデルタ
この式から行列  が  の逆行列である事がわかる。

(4) 変換の具体例

系  の基底  を系Sでの基底  で表現すると

 = γ  +γ Vx  +γ Vy  +γ Vz     ( γ =  )
 = γ Vx  +(1+(γ -1)Vx 2/V2 +((γ -1)VxVy/V2)  +((γ -1)VxVz/V2)
 = γ Vy  +((γ -1)VxVy/V2)  +(1+(γ -1)Vy 2/V2 +((γ -1)VyVz/V2)
 = γ Vz  +((γ -1)VxVz/V2)  +((γ -1)VyVz/V2)  +(1+(γ -1)Vz 2/V2
ベクトルの系Sでの成分を(6,3,1,4)とすると系での成分()は
   
     = 6γ-3γVx-γVy−4γVz
     =-6γVx+3+3(γ-1) Vx2/V2+(γ-1) VxVy/V2+4(γ-1) VxVz/V2
     =-6γVy+3(γ-1) VxVy/V2+1+(γ-1)Vy2/V2+4(γ-1)VyVz/V2
     =-6γVz+3(γ-1)VxVz/V2+(γ-1)VyVz/V2+4+4(γ-1)Vz2/V2


3.四元速度
ガリレオの三次元幾何学では速度は粒子の軌道に接するベクトルである。接ベクトルの成分をX(),Y(),Z()  三元速度をV,V,Vとすれば
     V=dx/dt, V=dy/dt, V=dz/dt
ミンコフスキーの時空図に於ける四次元幾何学では速度は粒子の世界線に接するベクトルであり、接ベクトル  の成分は固有時間τの関数として表される。四元速度  の系Sに於ける成分をU,U,U,Uとすれば
   Ut=dtτ, UX/τ, UY/τ, UZ/τ
時間の遅れにより τ= dt の関係があるので
  ◆ U, U, U, U
,U,U,Uをローレンツ変換行列  により変換し、の成分で表すと(1,0,0,0)となる。これは系に於ける基底ベクトル  である。従って一様な運動をしている粒子の四元速度を、その粒子の静止系でのベクトル  として定義する事が可能である。


4.四元運動量
四元運動量  は  ( 静止質量  四元速度 ) として定義される。系Sに於ける成分を  =( 0123 ) とすると
   ◆ 0 ,  1 ,  2 ,  3
0はエネルギー(=E 証明は下記参照)である。上記の式の関係からE22+(12+(22+(32である事が分かる。の系に於ける成分は(,0,0,0)である。
 を二項定理で展開すると 1+V2/2+3V4/(4x2!)+・・・  なのでVが小さい時エネルギーは
     E=2/2
第2項はニュートン力学に於ける運動エネルギーで、第1項は静止エネルギーである。静止しているものもその質量のためにエネルギーを持っている。質量とエネルギーとは同等なのである。静止エネルギーを含めてエネルギー保存の法則が成り立つ。

【 0 (=E)はエネルギーである 】
Eをで微分すると  
dE/d =  /2
 であるから
   dE/d = )(1−V2-3/2
     ( /dt, /dt,  /dt,   V=V+V+V )
K =  ,   L = (1−V2) とおくと
   dE = KL-3/2  d = ((  K(1−V2)+KV2 ) L-3/2 ) d
                 =  ( KL-1/2 +KV2 L-3/2 ) d
KL-1/2 +KV2 L-3/2 に於いて左の K と V2 を展開すると
   KL-1/2 +KV2 L-3/2 = () L-1/2 + (V+V+V) K L-3/2
X, Y, Zの項にそれぞれまとめると
   KL-1/2 +KV2 L-3/2 = (Vx L-1/2 +Vx2 K L-3/2
                   +(Vy L-1/2 +Vy2 K L-3/2
                   +(Vz L-1/2 +Vz2 K L-3/2
dx=Vxdt ,  dy=Vydt ,  dz=Vzdt を用いると
   (KL-1/2 +KV2 L-3/2) dt = ( L-1/2 +Vx K L-3/2) dx
                      + ( L-1/2 +Vy K L-3/2) dy
                      + ( L-1/2 +Vz K L-3/2) dz
従って
   dE =  L-1/2 +Vx K L-3/2) dx
       + L-1/2 +Vy K L-3/2) dy
       + L-1/2 +Vz K L-3/2) dz       ・・・・・・・・・・@

力は運動量の時間に対する変化率で定義されるからX方向の力をfxとすると
   fx  Vx =  L-1/2 +Vx K L-3/2)・・・・・A
同様にY方向の力を fy とすると
   fy  Vy =  L-1/2 +Vy K L-3/2)・・・・・B
同様にZ方向の力を fz とすると
   fz  Vz =  L-1/2 +Vz K L-3/2)・・・・・・C
@, A, B, C より  dE = fxdx+fydy+fzdz
両辺を積分すると  = fxX+fyY+fzZ +C   V=0 の時  なので C=
     ∴  = fxX+fyY+fz
上記の式の右辺の第1項のは静止エネルギーで fxX+fyY+fzZ は運動エネルギーである。


5.スカラー積
(1) ベクトルの大きさ

特殊相対論に於けるミンコフスキーの四次元時空では間隔の不変性によりベクトル  の大きさを
   ◆ 2=ー( )2+(2 +(2+(2
と定義出来る。この大きさは負にもなる。  2 が正の時は空間的ベクトルで、ゼロならヌルベクトル、負なら時間的ベクトルという。ヌルベクトルはゼロベクトルではない。ゼロベクトルは全ての成分がゼロであるが、ヌルベクトルは 2 = 0 ではあるが必ずしも全ての成分がゼロというわけではない。

(2) 二つのベクトルのスカラー積(内積)
)・()= (2+(2+2
(1)により
   ()・()= -(A0+B0)2+(A1+B1)2 +(A2+B2)2+(A3+B3)2
       =-(A0)2+(A1)2 +(A2)2+(A3)2 -(B0)2+(B1)2 +(B2)2+(B3)2
        +2(-A0B0+A1B1+A2B2+A3B3)
従って二つのベクトルのスカラー積  は
   ◆ =-A0B0+A1B1+A2B2+A3B3 となる。
 = 0 なら二つのベクトルは直交しているという。
このスカラー積は全ての系で同じ数値をとる(証明は下記参照)。

【 スカラー積は全ての系で同じ数値をとる 】
)・()= 2 2+2 である。
ー(A02+(A12+(A22+(A32=ー(2+(2+(2+(2
であるから 2 2及び(2 は不変である。
従って  も不変である。



6.双対ベクトル、双対空間(そうついくうかん)
(1) 一形式の定義

実数又は複素数の全体をRとする。R上の4次元ベクトル空間をVとする。VのおのおののベクトルにRの数を対応させる(写像する)関数を  とする。任意のベクトル  、  と実数λに対して
   ◆ )=)+)   (λ)=λ
を満たす時、 をベクトル空間V上の一形式又は双対ベクトル又は共変ベクトル又はコベクトルと呼ぶ。V上の一形式の集合をVで表し、ベクトル空間をVの双対空間と呼ぶ。
(記号の上に〜をつけたものは一形式(=双対ベクトル)、→をつけたものはベクトルである)
   )=  )=  )  = ) とお くと (  は の成分 )
   )=    (α=0〜3)     ・・・ ・・(1)
 

(2) 双対空間の共役性

Vの一つのベクトルに対してV*に於ける一形式 * を次の様に定める事が出来る。即ち各  に対応するRの値を
   *)=)     ・・・・・(2)
* が一形式である事を確認する。
(2)の式で  を  で置き換えると *)=()()=)+
(2)の式で  を λ で置き換えると *(λ)=λ
従って
   *)=*)+*) , *(λ)=λ*)   ・・・・・(3)
よって一形式の定義より * が一形式である事がわかる。
VもV*に双対な空間V**も又同じ次元であるから に対して決まる V*の一形式*と同じと見なす事が出来る。
従ってVの双対な空間V*の双対な空間V**はVとなる。 これがVとV*の共役性である。
(2)と(3)に於いて*で置き換えると
   )=)   ・・・・・(4)
   )=)+) ,  (λ)=λ)   ・・・・・(5)
が成り立つ。


(3) 一形式の成分

ベクトルと同じ様に一形式も成分をもつ。それらは次のように定義される。
系Sでの一形式の成分  は系Sでの基底ベクトル{  }を変数にとった時の値である。即ち
   ◆  )


(4) 一形式の基底

全ての一形式の集合はベクトルの空間を作るから、一形式を任意な四つの線形独立な基底(=双対基底)を用いて表す事が出来る。 任意のベクトル  を  の第α成分  に対応させる(=写像する)関数を  とする。  は一次形式である。(添え字は上付けとする。詳細は8. 共変、反変ベクトルと添え字の位置を参照。)
   
 は任意のベクトルなので  が恒等的に成り立つ為には
   
上の式はα番目の一形式(=双対ベクトル)のβ番目の成分を与えている事が分かる。これらの成分を書き下ろすと
   =(1,0,0,0)  =(0,1,0,0)  =(0,0,1,0)  =(0,0,0,1)
 は明らかに線形独立であるからVの基底(一形式の基底)となる。
次に  の様にベクトル  が基底ベクトル の線形結合で表せた様に
一形式  が一形式の基底  の線形結合で表せる事を示す。つまり
)= とおいた時  である事を示す。
 とおくと、 )=)=
  とすると、 )= )=   )
)=) だから   )= ) →  )=) 
 は任意なベクトルだから
   ◆ 


(5) 一形式の成分の変換

添え字は下付けとする。詳細は8. 共変、反変ベクトルと添え字の位置を参照。
系Sから系 への変換は
   ◆  = )=  )= 
 から系Sへの変換は
   ◆  =  )= 


(6) 一形式の基底の変換

添え字は上付けとする。詳細は8. 共変、反変ベクトルと添え字の位置を参照。
から系Sへの変換は
      =  
    は任意だから
      ◆  
同様に、系Sから系への変換は
      ◆  


(7) 一形式の大きさとスカラー積

ベクトルの場合と同じように一形式の大きさは
   ◆ 2=ー(P02+(P12 +(P22+(P32
スカラー積は
   ◆ =ーP00+P11+P22+P33



7.一形式、双対空間の例
ベクトルと一形式はお互いに双対的なものである。そのような双対空間は物理数学の他の分野にも見つけることが出来る重要な概念である。

(1) 行ベクトルは一形式

行ベクトル=(P0,P1,P2,P3

   
上式は 6. 双対ベクトル、双対空間に於ける式(1)と同等である。従って行ベクトルは列ベクトル上の一形式である。


(2) 関数の微分は一形式

ミンコフスキーの四次元時空のある領域の各点(,,,)に数Φ(,,,)が対応させられる時、Φはスカラー場であるという。ある粒子(又は物体)の世界線はそれに沿っての固有時間τの関数である。即ち各点(,,,)はτの関数である。従ってスカラー場Φもτの関数となる。 合成関数の微分法により次の式が成り立つ。

上の式に於いて  ,  ,  ,  は四元速度で粒子の世界線に接するベクトル の成分である。
上の式に於いてベクトル  から数dφ/dτを作る方法を見つけた事は明らかである。この数はベクトル  の方向のΦの微分係数といい、 が接ベクトルとなる曲線上でのΦの変化率を表す。またこの数dφ/dτは明らかに の線形関数であり、従って一形式を定義したことになる。
6. 双対ベクトル、双対空間に於ける式(1)と比べることによりこの一形式は成分
    ,  ,  , 
をもつ。この一形式をΦの勾配と呼び、 ( 又は ) と書く。
Φ=C(定数)となる等位面上の点(t(τ),x(τ),y(τ),z(τ))に於ける接平面の方程式は

従って、勾配  ( 又は ) は接平面に垂直であることが分かる。これを垂直一形式という。



8.共変、反変ベクトルと添え字の位置
基底ベクトルと同じ変換性(=同じ変換行列を用いる)が共変(covariant)ベクトルと呼ばれる由来である。普通のベクトルは基底ベクトルとは逆に変換する(=逆の変換行列を用いる)ので、反変ベクトルと呼ばれる。最近では反変ベクトルを単にベクトル、共変ベクトルを一形式又は双対ベクトルと呼ぶのが普通である。
◆ 基底ベクトルと同じ変換性の時は、添え字は下付けとし、逆の変換性の時は添え字は上付けと定める。
・ベクトル(=反変ベクトル)の成分は逆の変換性だから、添え字は上付けである。
・一形式の基底の変換も逆の変換性だから、添え字は上付けである。
・一形式(=双対ベクトル、共変ベクトル)の成分は同じ変換性だから、添え字は下付けである。
◆ ローレンツ変換行列  は
・系 から系Sへの基底ベクトルの変換の時使用する。
・系Sから系 へのベクトルの成分の変換の時使用する。
・系Sから系 への一形式の基底の変換の時使用する。
・系 から系Sへの一形式の成分の変換の時使用する。

◆ ローレンツ変換行列  は
・系Sから系 への基底ベクトルの変換の時使用する。
・系 から系Sへのベクトルの成分の変換の時使用する。
・系 から系Sへの一形式の基底の変換の時使用する。
・系Sから系 への一形式の成分の変換の時使用する。
  
  
     ( ε  V=Vx )

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