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(2015年3月公開)
これは、ある会社(以下G工場と呼ぶ)が作る装置のソフトウェア開発を請け負ったときの、人権無視の未熟なプロジェクト管理者の話だ. G工場は大手総合電気メーカー(以下H電気)の子会社で、数百人規模の会社だ.主に企業向けの電気製品を作っており、H電気ブランドの製品として売っていたようだ.我々のソフトウェア会社からは数人の開発チームがG工場の一室に常駐し、ある製品のソフトウェアを開発していた.(H電気 → G工場 → 我々のソフトウェア会社 という受注関係だ.) ソフトウェアの状況 ソフトウェアの開発にはかなり無理な要求が課せられていた.特定の時間(何ミリ秒)内に一定の処理を終えなければならないが、そのハードウェアでは理論的に不可能な要求だった.もう少し高速なハードウェア(CPUの種類やクロック速度)を使えば楽々クリアできるが、コストダウンのためにそれができないのでソフトウェアで何とかしろということだった. そのため、アセンブラの全命令の1つ1つの実行時間を手作業で集計し(そういうツールはないので)、いわゆる「カリカリにチューンナップする」ということまでおこなった.数千ステップの命令を全部再検討し、より短い時間で同じ機能を果たせる命令群に置き換えるという地道な作業だ.結局、そのようにして可能なかぎり高速にすることで何とか妥協するということだったので、休日も返上して実行時間の計算をしたりしていた. 管理者の責任 しかしどうやらハードウェアの開発もかなり遅れていたらしく、G工場の社員の人たちはかなり残業などをしていた.親会社であるH電気から乗り込んできた管理者が何度も怒鳴り散らしていた. ある時その管理者がミーティングで「何人か入院してもらわなければ製品の遅れについて申し訳が立たない」と言ったのを聞いて、耳を疑った.つまり、病気になって倒れるまで働いた人間が居れば、自分が管理者として乗り込んで怒鳴りまくった意味がある、というわけだ.その対応法や表現方法の強烈さ、稚拙さに驚愕した. 怒鳴りまくって社員の士気を落とせば仕事の達成はかえって遅れるということは、プロジェクト管理の基本セオリーだ.大メーカーがその程度のこともわかっていない人間に子会社の管理を任せることも驚きだ. 遅れの原因を特定し、それを取り除くよう努めるのが管理者の役割のはずだが、その管理者は本社へ遅れの言い訳を考え出すことが自分の役目だと考えていたらしい. 他人の不幸を踏み台にすることでしか自分の存在価値をアピールできない、という考えの情けなさ、幼稚さにはあきれるばかりだ.こんなことをいう男こそすでに病気だろう.そんな価値観で作られた製品に何の価値があるというのか. 大企業の体質 たまたまH電気の1人の社員が変人だったのかというとそうではない.私の同僚や先輩で、このH電気本体の工場に常駐して仕事をしていた者たちは口をそろえて、H電気の社員からは常に見下した態度・非人間的な扱いを受けたと話していた.他の会社での常駐仕事でこういった話はあまり聞かないので、下請けや外注を見下すことはどうやらH電気特有の習慣らしい.昨今のブラック企業に通じる企業体質だ. H電気は健康機器なども作っているが、「開発者が病気にならないと作れない健康機器」なんて、冗談にもならない矛盾だ.私はこの事件以降、H電気の製品を一切買わなくなった. 幸せの理由 |