業務パソコンとゲーム …"万能マシン"の罠

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(2015年4月公開)

1990年前後、公共施設にパソコンを導入したときの、常識外れの公務員の話だ.

県の施設
ある地方自治体(私が住んでいる県)が管理する施設にPCを導入する仕事の依頼があった.ゲートに設置したセンサーで利用者数を検出して把握したり、チケットの販売管理などをおこなうシステムだ.

無事システムの納入を完了した数日後、その施設の職員から電話がかかってきた.「納入された業務PCでゲームをやったのだが、元の業務システムに戻す方法がわからないので教えてくれ.」という問い合わせだ.
業務用PCでゲームをするということ自体が前代未聞だったし、元に戻す方法も知らないで操作し、恥も外聞もなく後始末の方法を業者に問い合わせてくることも驚きだった.これほど間抜けな問い合わせを受けたことはなかったので唖然としたが、一応顧客なのでやむをえず教えた(電源を入れ直してハードディスクから起動させるだけなのだが).

翌日、昨日の職員の上司から別件で電話があったので、昨日こんな問い合わせがあったと話したら、「ゲームなんかやらないように言ってやってください.」と言われた.つまり、少なくともこの上司は、ゲームなんてするべきでないことは自覚していたようだ.なぜ自分で言わないで納入業者である私なんかに頼むのか、責任放棄もはなはだしく返事のしようがなかった.

市民の視点
何が問題なのかと思う人もいるかも知れないが、公共の財産という観点からすれば、納税者としては納得できない.

・PCをゲーム機として使えば、キーボードやフロッピー・ドライブなどは通常の業務よりはるかに早く消耗する.市民の税金で買ったPCをそんなふうに使ってよいものだろうか.

・職員の管理もろくにできず、外部の業者に職員教育めいたことまで押しつけようとするのは何の冗談なのだろう.

・当時のPCでは、ゲームで遊ぶためにはいったん電源をオフにし、フロッピードライブにディスクを装填して再起動する…という操作が必要だった(フロッピーディスク1枚の中にゲームの全機能が詰め込まれていた).このため、ゲーム中は業務システムは一切稼動しない.
常時稼動しているPCを止めてゲームマシンとして使用するということ自体が信じられない行動だ.業務に支障が出ないのが不思議だ.

・PCの使用者は所内で研修をした上で使うことになっていた.そのために、製本した操作マニュアルを大量に(人数分の何倍も)納品してある.研修を受けた者は業務システムの起動方法を承知しているはずだった.
業務システムに戻す方法も知らない半端な知識しかない人間が、操作マニュアルも見ず操作研修も受けずに勝手にゲームマシンとして使うことを許すとは、どんな管理体制なのだろうか.

・黙って使うだけなら外部にはわからないのに、ゲームを元に戻す方法を平気で業者に尋ねるなんて、こうしたことに罪悪感が全くないからできるのだろうな.

・当時のPCゲームは、PCの内蔵時計を00時00分にリセットしてしまうなど、ハードウェアの設定を勝手に変更してしまう無謀なソフトが当たり前のように流通していた.このため、業務システムで使っているPCをゲームに流用するのはとても危険なことだった.内蔵時計が正常な日時を示していなければ業務システムの動作にも支障が出るからだ.

公務員の自覚
この施設の所長さんはきちんとした模範的な公務員だったのだが、その規律を職員教育に反映させようとは考えなかったらしい.所長と(一部の)一般職員との「公務員としての自覚の有無」の格差にも驚いた.

今でも時々、勤務時間中に私用でネットにアクセスして告発される公務員のことなどが報道されるが、「公僕」という自覚があるのか、管理者は徹底するように努力しているのか、いつも疑問に思う.
市長が不良職員に大ナタを振るうニュース報道などを見ると、どこの自治体もいつの時代も改善されない現状に溜息が出る.朝礼で毎日「私たちは公僕です」と唱和するくらいのことをしてはどうだろうか.


民間会社でも…
もう一例思い出した.上記より数年後、PCゲームもハードディスクにインストールするようになった頃の話だ.

ソフトウェアの一部を外注(下請け)会社に依頼し、開発用にPCを貸し出した.(当時はメーカー毎にPCの仕様が大きく異なっていたこともあり、ユーザーが購入した新品のPCを借り受けて開発するのが通例だった.)
外注から返却されたPCのハードディスクの検査をしたところ、何本ものゲームをインストールして消去した痕跡が見つかった.納期も迫っているのにゲームで遊ぶ余裕があるのも驚きだが、最終的にユーザーに納入するPCだったので、厳しく戒めたのは言うまでもない.

私の会社で出荷検査をしたからよかったものの、納入先のユーザーがもし同様の検査にかけたら、返品/賠償要求されかねない愚行だ.
アンインストールすれば見つからないと思っている知識レベルの低さもさることながら、開発者としてのモラルの低さは看過しがたいので、以後その外注に仕事を依頼することは控えるようになった.

そんなにゲームがしたければ自分でPCを購入すればいいのに、わざわざ借り物のPCを使うなんて、理解しがたい行動だ.


事務用品かゲームマシンか?
とはいえ、私の知る多くのソフトウェア会社では、昼休みにはPCのゲームで遊ぶ風景が当たり前のように見られた.会社として許可している民間企業なら特に問題のあることでもないだろう.
私の会社も例外ではなかったが、総務の評判は良くなかった.仕事用の装置で遊ぶというのは門外漢から見ると異様に見えるのだろう.厚生施設の一環と考えて大目に見ても良いという意見もあったが、PCの内蔵時計をリセットするソフトなどは当然使用禁止にしていた.

おもちゃとしても使える事務用品」という特殊な位置づけの商品がこういう事態を生み出したとも言えるだろう.

ゲームソフトもインストールしないと遊べないようになった現在でも、事務用PCはゲームマンンとしても使われているのだろうか.Windowsなら業務システムを止めずにゲームも動かせるから、かえって増えてるかもね.