【エレキギター講座】プレ・クロマチック1.構え方

 エレキギターを弾いていると、うちの娘がいろいろと指摘してくる。
 「(ピックハンド側は)浅く弾いたほうがいいのは分かりきっているのに強すぎる。」(十分浅いと思うのだが。)「妙な力が入っている。」(抜いているよ、手首ぶらぶらでしょ、と返すと「手首の位置を固定しようとして肘から先に力が入っている」という物凄くもっともな指摘だった。)
 「(フレットハンド側は)小指の押さえる位置が変だ。」(ガキみたいに小指そのものが内角をえぐるように回転するのが人類では珍しいのだが。)「ビブラートの上がりと下がりの速度が違う」(まあ、弦のテンションに逆らうかどうかで速度が変わってたわなあ)。「音程が物凄く悪い」。(フレットあるんだから人によって変わるわけないだろう。これは娘もある程度納得していた。自分で弾いて「あ、<平均律だと>ファが少し上がるのか」。でも逆に僕が後で納得した、弾き方で音程が変わるんだ。)

 数多い指摘で一番きつかったのは「音が裏返っている」。ロックギタリストの音は全て裏返っている(少なくとも基音より倍音の方がレベルが高い)と思っている自分は「へっ?」。言われていることが実感できなかったので試しに著名ギタリストのソロを20人ばかし聴かせて、裏返り方を確認してもらうと、最高の評価を得たのがジミー・ペイジ。「音が全く裏返っていない。音程も正確。ビブラートの具合もいい。かなり気に入った。」だそうだ。(ちなみに聞かせたのは当然Stairway)。他、音が裏返っていないのはゲイリー・ムーアとジェフ・ベックとスタンリー・ジョーダン。興味深かったのがイーグルスのHotel Californiaで、ジョー・ウォルシュは音が裏返ってはいないが左手のタッチが悪くて音が汚い。左手なドン・ヘンリーの方がいいが、こっちは音が裏返っている。そうな。
 なお、ブービーはポール・マッカートニー。本職じゃないからね。なんとなく納得。最低は平沢唯。「他のギタリストと並べて聞かせるのがおかしい。」「けいおん!」自体は好きで見ているし、カラオケでも歌っているのだが音楽に関してはシビアな奴である。が、なんかガキの評価基準は納得できた。そこで素直にいうことを聞くこととした。ちなみにガキはギター未経験者である。

 娘には、友達がギターを弾いていても、こういうことを指摘しないように言い聞かせておいた。少なくとも十人並み以上の(イベントに参加すると取材陣が集中的についてくる程度の)美人である。言われたほうが男の子だった場合、ショックは半端でなかろう。するとガキ、答えて「習いに行ったほうがいいよ、って言うよ。でないとパパみたいに変なクセがつくから、ってね。」
 さすがにムカッ。ちょっと待て。習いに行くはいいが、きちんと教えられる先生がいると思う?と聞くと、この辺は理解しているらしい。「私はパパのを見て、悪い例が分かったから習わなくていいと思う。」一応娘らしくツンデレてくれた。(これでも「デレ」なのだ。少なくともその辺のギタリストよりはよほどまともな弾き方をしている、ということは渋々認めているらしい。)

 一方、巷には「エレキギターやりたい。まずどうすればいいの?」という迷える子羊が多い。
 多すぎる。甘えずに自分でいいやり方を探せ/考えろ、それが出来なきゃ習いに行け、と言いたい。が、ろくな先生はいないだろうし、やり方を探しても見つからないんじゃないかなぁ、という懸念は持っていた。利益追求を考えると、初心者(というか未経験者)用の入門書は未経験者にはためにならないように作られていてもおかしくないのだ。

 例えば迷える子羊が楽器屋で初心者用の教則本を探しに行った時のことを考える。開いてみて「きらきら星」を半年やりましょう、とかロングロングアゴーを3ヶ月やりましょう、なんてのが売れるわけがない。
 じゃあどういうのを選ぶかというと、最後にあこがれの曲が載っているが最初は簡単そうなのを買う。すると途中で飛躍的進歩を求められるページがあることになるのですな。だいたい挫折します。でも出版社はそれでいいんですね。「この本は自分に合わない」と判断してくれた初心者(このころには未経験者から初心者になっている)は他の本を漁ってくれますから。
 そしてで無理矢理その壁を越えた人間はどこかフォームが歪んでしまうことが多く、後からクロマチックを何年もやってフォームの矯正をする羽目に陥る、と。

 そこで何年も回り道するのは気の毒だ。いや気の毒というのは他人行儀だ。まるで自分のことのようだ。そこでだ。仕方ない。私が書こう。試行錯誤と回り道が長すぎたせいか、僕自身はどうしても上手くなれなかったから説得力はないが、Webに書く分にはいいだろう。「読者が上手くならなくても一切関知しない」と検証無しの独善を書いてある教本が「値段つけて売って」あるのだ。少なくとも僕の方がためになることは書ける。誰が見ても異常な角度でギターを構えている人が教則DVDを出しているのだ。僕の方がまだ普通だ。

 というわけで以前も「クセのないギター」「武道ピッキング」なんてのを書いたりしていたが、あらためて多少なりとも体系的にまとめて書こうか、と思った次第。

 不定期連載の第一回目は「弾くときの姿勢」である。
 まず大原則として「エレキギターは立って弾くもの」です。確かにロバート・フィリップのように「(立って弾くという)そんな難しいこと、私には出来ない)なんていうのもいるが、そういう人は例外。好きにやっとけという気分になる。(無責任に聞こえるだろうが、ロバート・フィリップを知っているひとはある程度賛同してくれると思う。)

 まずギターを持たずに構える。まず直立して、足の間は肩幅程度。そして肩の力を抜く。そこで肩を引きながら肩の骨と肋骨の間を広げるようにして自然と肘を張り、腕を前に出して丸くおおきなクッションを抱えるようにする。肘から先は力を抜いてダラン。次いでフレットハンド側の足を半歩前に出し軽く前傾姿勢。なんとなく全身が動かしやすそうでしょ。なんのこたぁない、舞踏の基本姿勢だ。
 ストラップをかけてギターを吊るし、両腕をストンと落とします。このときあたかもギターが無いかのように落とすこと。説明しづらいのだが物理的にはフレットハンドがネックにぶつかるが、ないものと想像して通過したと仮定し、フレットハンドをネックのうしろ側に回すということ。
 ピックハンドはギターの前面です。どういうことになるかというと。以後右利きで説明すると、ボディは右手と体の間に入り、ネックは左手より体から遠くなる。ぶっちゃけ、真上から見るとギターはネックを前に突き出した方向で傾いてるんだな。
 ここまでで言いたかったことは「腕を左右対称にしてギターを構えると、ギターは頭の上から見て傾いた状態になる」ということ。これをたいていの入門書は無視している。

 さて上から見た角度はそんなもんとして、正面から見た一番弾きやすい位置と角度を(目安ですが)得る方法を。
 ギターを抱えたまま、畳の上に仰向けに寝ます。両肘が畳みに付きますが、そこで左手の肘から先を鉛直に天に向けます。人差し指と親指の間にネックを置きます。ネックのどこを握るかは考えなくていいです。肘が鉛直になっている、を優先。この位置を覚えておいてね。
 右手の親指と人差し指で4弦をつまめるように「ギターのボディを」動かします。そのまま肘を支点に回転させ、ギターのボディが体の上に来るように、ストンと置く。右手をを決めた上で左手とネックをさっきの位置に戻す。多少落ち着きが悪いでしょうが、そこはモゾモゾ調整。
 ストラトだとボディが薄いので、だいたいこんな感じで決まる。あとは右手で弦のどの辺(フロントピックアップの上が落ち着くと思うが)がいいかなあ、なんて「寝ながら」考えます。この状態でストラップの長さを調整して、さ、起きようか。

 その構えたポーズのまま起きたつもりでも、さっきよりギター本体は重力で下に下がるでしょう。肘は先程の「舞踏の基本姿勢」を思い出して、寝ている時より張ると思う。それでいいのだ。が、ネックの位置はあまり動かしたくないんじゃないかな。というのは肘から手の甲までがほぼ真っ直ぐになっていて楽だから(ここ、あとあと重要なポイントになります)。結果真正面から見たネックの傾きは結構大きくなると思うけど、でもなんとなく収まりがいいでしょ。まあ練習しているうちに徐々に変わってきますが、自然に変わってくる分には気にしないで。でも構えに迷ったら/迷わなくても時々、もう一度仰向けに寝てください。だんだん「なるほど妥当なアドバイスだった」と納得してくれるようになると思う。何?もっと低く構えたほうがカッコいいって?そうだなあ、見た目も大事な要因だ。まあ、しばらくこのまま練習しな。あとで趣味で変える分にはいいし、「低く構えたほうがノリがいいからそうする」というなら止めはしないから。

 しばらくは立って練習すること。座ると確かに楽ですが、ギターを抱え込んだ状態になるのだなあ。当方が皆さんに望むのは要するに「へんなクセをつけるな」です。娘に指摘されるでもなく、当方、変なクセがついてしまったおかげで相当の無駄な労力を強いられましたので。

 次回は(多分)「ピックの持ち方」。チューニングの仕方、なんてのはどこにでも書いてあることなので省略。ギターの選び方というのは都合が悪いので割愛。どこが都合が悪いかというと、僕は初心者向けとは言えないストラトとレスポールしか持ってないのだな。テレキャス持っていれば構え方の説明もテレキャス前提でもっと具体的に述べることが出来たんでしょうが、、、ううん一挙に説得力がなくなってきたなあ。
 あ、写真が無いのは容易に想像できるとおり、当方の顔その他ルックスが悪いからです。
 これは説得力ありますね。私の写真見て「オエッ」となりたい人はいません。なお、うちのガキは「個人情報だ」と言って撮影に応じてくれません。

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