―― 接近原理 (Approach Principle) は,ブリッジのビッドで とても重要な考え方です。ビッドが一通りできる ようになった人は 誰でも,その意味を知っています。たとえ,「接近原理」という言葉を知らなくても …。
―― はい。もちろんです。
―― この言葉を使うのは,ノートランプの場合が多いですね。
1NT オープンに対してスラムを試みるとき,定量 4NT を使って 1NT オープナーの HCP を訊ねます。
West | North | East | South |
1NT | パス | 4NT |
―― 一般に,
―― ほぼ同じ意味です (と,とりあえずお答えしましょう)。「お誘い」でも「インビテーション」でもよいのですが,定量ビッドと言う方が分かりやすいでしょう。
定量ビッドは,上に説明したように,強さ (pts) が十分にあるかどうかを訊ねるビッドです。
―― 理由というのは知らないけれど,この「原理」は,ブリッジのビッドで とても重要な考え方です。 ブリッジに入門した人がこれを理解して使えるようになれば,「ブリッジができる」と言ってよいでしょう … コンベンションなんか知らなくても。
―― 2NT オープンもあるけれど,それは,さっきの例と同じ考え方で処理できます。
You | LHO | Pard | RHO |
1 | パス | 2 | パス |
3 |
―― あまり ありません。
―― オークションが競り合いになると,手の強さよりも切り札の枚数の方が重要になるからです。 LoTT (合計トリック数の法則) から分かるように,切り札をたくさん持っているペアの方が, 強気でオークションを競り上げることができます。したがって,この場合,HCP の大きさ (手の強さ) は,二次的なものになります。
―― 申し訳ありません。LoTT については,別に書いてあるので,それをごらん下さい。
競り合っている場面では,接近原理の出番はありませんが,オープン側が黙ってしまって,
ディフェンス側がコントラクトを勝ち取る状況になれば,接近原理は,やはり有効です。
| ||||||||||
|
―― あなたは,こんな手を持っています。
14 HCP ですが,ダミー点で数えれば,17 pts の強い手です。
1 オープンできる筈ですが,右オポが 1 オープンしたので,ダブルを掛けました。
これに対し,パートナーは 1をビッドしました。相手側はパスしています。
―― やはり,接近原理に従って考えます。
パートナーの 1 は,どんな範囲の手を保証しますか ?
―― どうしてですか ?
―― そうですね。そこで,自分の手と合わせて,接近原理を適用します。
―― 3 は 19+ pts の場合です。
ここでは,2 をビッドします。
もしもパートナーが 0〜9 pts の上限の手を持っていれば,
4 をビッドしてくれるでしょう。
8 4 |
A 10 7 5 |
J 10 9 3 |
A 9 4 |
( 9 HCP ) |
―― 参考までに,1 を答えたパートナーの手は,こんなふうでした。
―― はい。ノン・フォーシングです。
定量ビッドは,手の 強さ を訊ねるビッドなので,
レスポンダは,それまでに示した下限の手ならば,パスします。
―― …。どういう意味で反対なのかな …。
「定量」の反対語は「定性」だから,「定性ビッド」というのもあってよさそうですが,そういう術語を聞いたことはありません。
ただし,「定量ビッド」が手の強さを訊ねるノン・フォーシングの
ビッドなのに対して,手の内容 (あるいは特徴) を訊ねるビッドは,いろいろあります。こちらの方は,フォーシングです。これを「定性ビッド」と呼んでいいかも知れない …。
―― よくご存じのはずです。たとえば,ブラックウッド …。
これは,もちろん,フォーシングです。パートナーは,どんなに弱い手を持っていても,A の枚数を
伝えなければいけません。逆に言うと,ブラックウッドを使って,手の強さを訊ねることはできません。
―― 自分で考えれば,ほかにも思いつくはずですが …。
もう一つ よくご存じの例を挙げると,ステイマン …。これは,1NT オープン
したパートナーに, か で 4+ 枚を持っているかどうかを訊ねるフォーシングの「定性」ビッドです。
ステイマンにより,パートナーの手の強さを訊ねることはできません。
おわりに まとめの表を示します。
ビッドの種類 | フォーシング ? | 問い合わせの内容 | 例 |
定量ビッド | ノン・フォーシング | 手の強さを尋ねる | 1NT-4NT, 1-2-3 |
定性ビッド | フォーシング | 手の特徴を尋ねる | ブラックウッド,ステイマン |
[レスポンダ] |
8 2 |
K 10 6 5 |
Q 10 7 2 |
K 8 7 |
( 8 HCP ) |
(A) 1 をビッドするのがよい。 |
(B) 1 をビッドするのがよい。 |
―― 単純にどちらが良いとは言えません。
Pard | RHO | You | LHO |
1 | パス | 1 | パス |
1 | パス | 2 |
―― オーバーコールが無ければ,(A) 1 で問題ありません。
もしもオープナーが 4 枚のハートを持っていれば,1 を
ビッドしてくれるので,自分からハートをビッドしなくても,
ハートの 4‐4 フィットが見つかります。
Pard | RHO | You | LHO |
1 | パス | 1 | 1 |
2 ? |
―― その場合に,自分から 2 をビッドするのは,リバースです。 リバースできるくらいの強さ (16+ pts ) があれば 問題ありませんが …。
―― リバースできる強さがなければ,
パス, 1NT, 2, 2
の中から最も適当なのを選んでビッドします。
―― はい。そこで,このようなオーバーコールに備えて,
(C) |
|
[レスポンダ] |
Q 2 |
K 10 6 5 |
Q 10 9 6 5 |
8 5 |
( 7 HCP ) |
―― こんな手の場合です。
ハートが 4 枚,ダイヤモンドが 5 枚あります。
この場合にも 2 通りの考えがあります。
(A5) ダイヤモンドが 5 枚あるのだから,それを優先して,1 をビッドする。
(B5) オーバーコールが入るとハートのフィットが隠れてしまうので,9 pts 以下の手では,5 枚のダイヤモンドをスキップして
1 をビッドする。
―― 黒川晶夫さんの「 ブリッジ上達法 」は,(B5) を勧めています。
しかし,手の組み合わせにより,どちらが良いと一概には言えません。
Pard | RHO | わたし | LHO |
1 | パス | 1 | パス |
2 | パス | パス | パス |
私はいつも (A5) にしているのですが,オンラインのブリッジで初めての人と
組んだとき 上の手が来ました。
そのとき なぜか 気が変わって 1 をビッドしました。
すると,オープナーは 2 を返してきました。
私はこれをパス …。
[オープナー] |
J 8 7 |
7 |
A J 8 4 |
A Q 10 6 2 |
( 12 HCP ) |
―― ぁ,申し訳ありません。余計なことを話しすぎましたね。
初級者の方には,Bill Root さんが ブリッジ入門書 "The ABCs of Bridge" の中で (A) を勧めています。とりあえず,これでやってみましょう。
いろいろ言う人がいるでしょうが,自分で判断がつくようになったら,変えてみるとよい。
でもそれまでは,(A) でやってみて下さい。
ですから,1 を
ビッドしても,4 枚のメジャー・スートを持っている可能性があります。
付け加えると,[A] が SAYC の標準ビッドです。
―― はい,そうでした。
実は,私 (ぼこ) も トライアル・ビッドについては よく理解できていない点があるので,
あの議論がもっと建設的な展開を見せるものと 期待していました。ところが,流れがおかしくなってしまって …。
がっかりでした。
―― いえ,カイセツなんて とてもとても …。何しろ,この名前の通りの腕前ですから。
ただ,トライアル・ビッドについては,こんなふうに火がつく前にも質問を受けたことがあり,気になっていました。
また,最近ではこれに関心を持つ人が ちらほら おられるようなので,少しばかり考えてみたのです。
ほんとの初心者の方にもお読み頂けるように,丁寧に書いています。
North | East | South | West |
1 | パス | 2 | パス |
3 |
―― 皆さん よくご存じの … おなじみのビッドです。
あなたの 1 オープンを パートナーが 1つ 上げた。
それを もう一度 (Re-) あなたが 3 の代に上げたので Re-raise と言います。
この言葉をここで定義しておくと,後の話が分かりやすいので …。
それで,あなたの 3 の意味を,ここで確認しておきましょう。
手の強さ | コール |
(1) 8 ‐9 pts | 4 |
(2) 6 ‐7 pts | パス |
―― はい。オープナーの 3 を そのように定量ビッドと解釈するのが,
健全な考え方です。
ところが,この 3 を プリエンプティブ・ビッドとして使う考え方がある …
―― はい。
| ||||||||||||
|
―― このように 6 枚の切り札を持っていて,最低限でオープンした場合です。
ここで 4 の可能性が無いからというので,
North が 3 を
ビッドせずに, パスすると,
N-S が 2 の弱い手だということが,相手側にばれる。
すると,East が 何か バランシング・コールをする。
そこから 3 と応戦しようと思っても手遅れで,
相手側は 4 コントラクトを見つけてしまうかも知れない (疑心暗鬼) …。
North | East | South | West |
1 | パス | 2 | パス |
3 | パス | パス | パス |
North | East | South | West |
1 | パス | 2 | X |
3 | パス | パス | パス |
―― 実は,1990年頃から,Larry Cohen さんが「合計トリック数の法則 (LoTT) 」というものを普及させました。 この考え方によると,味方が合計して 9 枚の切り札を持っているとき,3 の代まで安全にビッドできるのです。
―― あります。大いにあります。
でも,3 がダウンするくらい
相手側の手が良ければ,相手側に,
もともと 4のようなゲームがあるはず … だから 3がダウンしても損はありません。
「25 のコンベンション」は,この立場で書かれています。
第 13 章のコラムが,そういう書き方です。
この立場では,3 という リレイズを,パートナーは必ずパスします。
なので,これを
"1‐2‐3 stop" と呼びます。
―― はい。そのためのビッドとして,トライアル・ビッドを使います。
この場合,3 はサインオフとなり,誘いの意味を失います。
もしも お誘いしたければ,トライアル・ビッドを絶対に使わなくては なりません。
誤解の無いように,この流儀をまとめておきましょう。
―― ぁ …。そのことですか …。それは,たぶん正確な内容の投稿だったんだ
と思うんです。いま,私の記憶をたどってみると,
[1] 1‐2‐3 のようなビッドをプリエンプトに使おうという考えが 19xx 年頃に生まれて,その必要から
各種のトライアルビッドが考案された。
[2] トライアルビッドには 3 通りある。
[3] トライアルビッドは,気休め程度に使えばよい。
というものでした。
―― 私は,このうちの 3 番目の点が気に懸かり,それがもとで,このページを書いてみようという気になったのです。
ところが,掲示板で問題になったのは [1] の点でした。
LoTT を踏まえて議論していた人が何人いたのかは知りません。
多くの人が 上の前提を 理解していませんでした (私も 当初はその一人でした)。
明らかに,ブリッジの本で調べることを怠って,自分の思い込みに頼って返事を書く人が何人もいました。
「プリエンプトなんておかしいから,nagunatu さんは 絶対に「25 の本」を読み間違えている 」と,
本を読まずに言う人がいたり,「その本の何ページなの ? 」と書き込む人までいました。
そして,議論がブリッジとはぜんぜん関係無い別の方向に行ってしまったのです。
それで #664 を投稿して,もう一度議論してほしいと
思ったのですが,ダメでした。
まぁ,率直に言うと,nagunatu さんの書きかたが 勇み足だったのです。
でも,書かれたことの一つひとつが正しいか間違っているかは,それとは別の話です。
とにかく,議論が続かなかったのは,残念なことでした。そして,この件は #664 でサインオフとなりました。
ここで,脱線から もとへ戻りましょう。
―― 実際のハンドを調べてみました。
その時点では,私のソフトウェア MiniHand が既に完成しており,交流ラウンジのブリッジ教室で ハンドの記録を採り続けていました。
2002 年の 7 月と 8 月に,私が記録したのは,
全部で 290 ボードです。
―― 意外に思うかも知れませんが,リレイズが そもそも少ないのです。
ハートまたはスペードのリレイズが,全部で数ボードありました。
その中で,何かのゲームトライをすると意味があると思えるのは,下に
例として挙げる 1 ボードだけでした。
もっとボード数を多くしないと統計としての意味はありませんが,一応,
1/290 = 0.3% という数字になりました。
―― はい。リレイズの経過をたどったボードの中で,ダミーが自分で (助け無しに) 判断できるものを
除くと,この数字になります。
発生件数そのものがこんなに少ないので,トライアル・ビッドをあまり気にしなくて良いのかも知れません。
「気休め程度に使えばよい」という評価は,当たっているようです。
… それだと,この話は ここでおしまいです。
―― あっ,まだ続けてお読みいただけるんですか …。
―― では,続けましょう。
例を挙げて説明することにします。
実は,「例」というのが クセモノ です。
ブリッジの本を開くと,実に見事な例が
載っていて,それを使うとすべてうまくいくような気になってしまう。
けれども,世の中,現実はそうではありません。
そこで,2002 年 8 月某日に交流ラウンジで実際に出てきたハンドを,
そのまま例に使って説明しましょう。
例がたった一つというのは ちょっと弱いけど,身近に実際にあったハンドだし,これを使うと
トライアル・ビッドのいろんな側面が少しは分かると思うのです。
North | コントラクト | |
6 5 3 | 3 | |
10 5 4 | ||
K Q J 10 9 3 | ||
West | J | East |
9 7 | K 8 2 | |
A 7 6 3 | K Q 9 2 | |
A 6 5 4 | 7 2 | |
Q 9 4 | 10 8 5 3 | |
A Q J 10 4 | ||
J 8 | ||
8 | ||
A K 7 6 2 | ||
South (15 HCP) |
South | North | East | West |
1 | パス | 2 | パス |
3 | パス | パス | パス |
―― はい,そういうふうに読めますね。
ブリッジの本に載っているのとは,逆です。
実際 このボードの場合,4 の可能性は無くて 3 さえも どうなるか 分かりません。
―― ブリッジの本は ビッドのことしか書いてない … というのが 問題点です。
実際には,このあとにカードのプレイがあります。
それについて,ブリッジの本が何も触れていないのは おかしいと思うのです。
―― 実は このとき,このテーブルの 4 人のうちの一人が 私 (ぼこ) でした。
―― West にいました。オープニング・リードする役目です。
単純な リレイズで,何も情報は無かったので,4 を打ち出しました。
見やすいように,ハンドを再掲しましょう。
North | コントラクト | |
6 5 3 | 3 | |
10 5 4 | ||
K Q J 10 9 3 | ||
West | J | East |
9 7 | K 8 2 | |
A 7 6 3 | K Q 9 2 | |
A 6 5 4 | 7 2 | |
Q 9 4 | 10 8 5 3 | |
A Q J 10 4 | ||
J 8 | ||
8 | ||
A K 7 6 2 | ||
South (15 HCP) |
ここで South が リレイズ ではなしに,何かの トライアル・ビッドをしていたと仮定して,オープニング・リードを考えてみましょう。
―― トライアル・ビッド には,普通のビッドと比べて 大きな違いがます。
ビッドというのは,ふつう,自分の手の強さを表現するのに使います。
ところが,[H] と [S] は 弱みを公表するビッドです。
それも 漠然とではなしに,はっきり どのスートであるかを公表します。
それが プレイに不利に はたらきます。
自分のビッドが 二人のディフェンダーにも聞こえているのです。
ですから,トライアル・ビッドを使う場合には,そこまで全体的に考えて使う必要があります。
ディフェンス側に何も情報を与えずに 1 トリック丸儲けだったら,
ポイントカウントにして 3 点くらい得したことになりますから。
実は これを書いてからずっと後になって,Bergen さんの本にこの問題点が書かれてるのに気づきました。
どのゲームトライを使うにしても,オープナーの持ち札の情報が洩れるのが,ゲームトライの欠点です。
そこで この欠点を回避する方法として,Bergen さんは,オープナーが 2NT をビッドして,レスポンダにダブルトンの
スートをビッドしてもらう方法を提案しています。
詳しくは,「Better Bidding with Bergen 」をお読み下さい。
―― はい。[L] の場合には,その (弱点をさらけ出す) 欠点はありません。
ですから,使うとすれば [L] が良いと Root さんは勧めています。
| ||||||||||||
|
―― はい。たとえば,[S] を使うことに取り決めてあったとしましょう。
その場合,ゲーム・トライをしたいときに,シングルトンのスートがあれば 問題ありません。
でも,必ずシングルトンがあるとは限りません。
仕方なくごまかして,ダブルトンのスートを
ビッドする/パスする/目をつぶって 4 をビッドする …
このどれかを選択するしかありません。こういうことも弁えて使う必要があります。
更に言えば,切り札 6 枚の 16 〜18 pts の場合に,どうやって誘いを掛けるかが
問題として残ります。
―― はい。ゲーム・トライを全く使わないという選択も有力です。そもそも,
コンベンションというのは何でも使えばよいというものではありません。
参考までに付け加えると,Audrey Grant の新しい教本 (2000,2001) でも,David Lindop の SAYC 講座 "What's Standard ?" (2003‐2008) でも,トライアル・ビッドには全く触れていません。
|
|
| ||||||||||||||||||||||
N-S は,スペードを切り札にして 8 トリック取ります。 | ||||||||||||||||||||||||
W-E は,ハートを切り札にして 10 トリック取ります。 |