交流ラウンジでのビッドから (番外篇)

  © boco_san (ぼこさん) 2002/Aug - 2013/Jan.  メイリオ印刷 (20ページ)
  1. 接近原理とは …,定量ビッドと定性ビッド …  1-5.
  2. ダイヤモンドをとばして ビッドする    …  6-8.
  3. トライアル・ビッド または ゲーム・トライ   …  9-20.

接近原理とは …,定量ビッドと定性ビッド

  1. [ビッドの基本] 先日,ブリッジをしていて,パートナーから「接近原理」という言葉を初めて聞きました。「接近原理」って,どんな原理なんですか ?

    ―― 接近原理 (Approach Principle) は,ブリッジのビッドで とても重要な考え方です。ビッドが一通りできる ようになった人は 誰でも,その意味を知っています。たとえ,「接近原理」という言葉を知らなくても …。

  2. じゃぁ,私も知っているんですか ?

    ―― はい。もちろんです。

  3. [ 1NT オープンに答える] そぅなんですか …。
    でも,「接近原理」って何ですか ?

    ―― この言葉を使うのは,ノートランプの場合が多いですね。
    1NT オープンに対してスラムを試みるとき,定量 4NT を使って 1NT オープナーの HCP を訊ねます。

    WestNorthEastSouth
    1NT パス 4NT
    このように,パートナーの手の強さの数値訊く手法が「接近原理」です。

  4. [接近原理] なぁーんだ。それならよく知っています。

    ―― 一般に,

     あなたの手は,これまでに あなたが 示した範囲の 上限ですか ?
    を訊くのが,接近原理の考え方です。
     接近原理では,上に述べたように,「手の強さの数値を訊ねるビッド」を使います。 このようなビッドを 定量ビッドと名づけましょう。 もちろん,定量 4NT は 定量ビッドの典型的な例です。

  5. [誘い] そういうビッドは,普通は, インビテーション (Invitation,お誘い) と呼んでいると思うんですが ….

    ―― ほぼ同じ意味です (と,とりあえずお答えしましょう)。「お誘い」でも「インビテーション」でもよいのですが,定量ビッドと言う方が分かりやすいでしょう。
    定量ビッドは,上に説明したように,強さ (pts) が十分にあるかどうかを訊ねるビッドです。

  6. [一般的なもの] ところで,単に「お誘い」と言えばいいものを「接近原理」だなんて難しそうな言葉を使うのは, 何か理由があるんですか ? たとえば,「原理」と呼ぶんだったら,4NT だけでなく もっと一般に使えるとか …。

    ―― 理由というのは知らないけれど,この「原理」は,ブリッジのビッドで とても重要な考え方です。 ブリッジに入門した人がこれを理解して使えるようになれば,「ブリッジができる」と言ってよいでしょう … コンベンションなんか知らなくても。

  7. [他の例] じゃぁ,「接近原理」を使う例は,1NT の他に,どんなのがありますか ?

    ―― 2NT オープンもあるけれど,それは,さっきの例と同じ考え方で処理できます。

    YouLHOPardRHO
    1 パス 2 パス
    3
     スートのコントラクトで典型的なのは,この場合です。 パートナーの 2 は,6〜9 pts を保証しています。
    ここで あなたが 3 をビッドするのは
    「パートナーさん,あなたの手が 6〜9 pts の上限だったら 4ビッドして下さい。 もしも下限だったらパスして下さい。」
    と言っています。この 3 が,接近原理に基づく定量ビッドです。

  8. [ディフェンス側] あぁ,これも,よく知っている …。
    上の二つの例は,どちらもオープン側ですが,ディフェンス側も 接近原理を使うことがあるんですか ?

    ―― あまり ありません。

  9. どうしてですか ?

    ―― オークションが競り合いになると,手の強さよりも切り札の枚数の方が重要になるからです。 LoTT (合計トリック数の法則) から分かるように,切り札をたくさん持っているペアの方が, 強気でオークションを競り上げることができます。したがって,この場合,HCP の大きさ (手の強さ) は,二次的なものになります。

  10. その … LoTT とかいうのを知らないのですが …。

    ―― 申し訳ありません。LoTT については,別に書いてあるので,それをごらん下さい。
     競り合っている場面では,接近原理の出番はありませんが,オープン側が黙ってしまって, ディフェンス側がコントラクトを勝ち取る状況になれば,接近原理は,やはり有効です。

  11. [一つの例] 例を挙げていただけますか ?
    K Q J 10
    K Q J 3
    2
    Q 8 3 2
    ( 14 HCP )
    RHOYouLHOPard
    1 X パス 1
    パス ?

    ―― あなたは,こんな手を持っています。
    14 HCP ですが,ダミー点で数えれば,17 pts の強い手です。
     1 オープンできる筈ですが,右オポが 1 オープンしたので,ダブルを掛けました。 これに対し,パートナーは 1をビッドしました。相手側はパスしています。

  12. ここでは,どう考えるのですか ?

    ―― やはり,接近原理に従って考えます。
    パートナーの 1 は,どんな範囲の手を保証しますか ?

  13. たぶん,ハートが一番長い。4 枚以上でしょう。手の強さは 0 点のこともありうるけれど,範囲は 0〜9 pts です。

    ―― どうしてですか ?

  14. もしも 10 pts あれば,ジャンプして 2 をビッドしたはずです。

    ―― そうですね。そこで,自分の手と合わせて,接近原理を適用します。

  15. わたしが 17 pts を持っているから,もしもパートナーが 0〜9 pts の 上限を持っていれば, 4 がある。 だから,2 か 3 をビッドすればいい。
    どちらをビッドすれば …?

    ―― 3 は 19+ pts の場合です。 ここでは,2 をビッドします。
    もしもパートナーが 0〜9 pts の上限の手を持っていれば, 4 をビッドしてくれるでしょう。

    8 4
    A 10 7 5
    J 10 9 3
    A 9 4
    ( 9 HCP )

    ―― 参考までに,1 を答えたパートナーの手は,こんなふうでした。

  16. 接近原理というのが,大体分かりました。
    それで,定量ビッドは ノン・フォーシングなんですね ?

    ―― はい。ノン・フォーシングです。
    定量ビッドは,手の 強さ を訊ねるビッドなので, レスポンダは,それまでに示した下限の手ならば,パスします。

  17. それでは,「定量ビッド」の反対のビッドというのは ?

    ―― …。どういう意味で反対なのかな …。
    「定量」の反対語は「定性」だから,「定性ビッド」というのもあってよさそうですが,そういう術語を聞いたことはありません。
     ただし,「定量ビッド」が手の強さを訊ねるノン・フォーシングの ビッドなのに対して,手の内容 (あるいは特徴) を訊ねるビッドは,いろいろあります。こちらの方は,フォーシングです。これを「定性ビッド」と呼んでいいかも知れない …。

  18. どんなのがあるんですか ? その「定性ビッド」には …。

    ―― よくご存じのはずです。たとえば,ブラックウッド …。
    これは,もちろん,フォーシングです。パートナーは,どんなに弱い手を持っていても,A の枚数を 伝えなければいけません。逆に言うと,ブラックウッドを使って,手の強さを訊ねることはできません。

  19. ほかには?

    ―― 自分で考えれば,ほかにも思いつくはずですが …。
    もう一つ よくご存じの例を挙げると,ステイマン …。これは,1NT オープン したパートナーに, で 4+ 枚を持っているかどうかを訊ねるフォーシングの「定性」ビッドです。 ステイマンにより,パートナーの手の強さ訊ねることはできません。
     おわりに まとめの表を示します。

    ビッドの種類フォーシング ?問い合わせの内容
    定量ビッドノン・フォーシング手の強さを尋ねる1NT-4NT, 1-2-3
    定性ビッドフォーシング手の特徴を尋ねるブラックウッド,ステイマン


ダイヤモンドをとばして ビッドする

  1. オープニング・ビッドが 1 のとき, レスポンダは,4 枚のメジャー・スートがあると ダイヤモンドをとばして メジャー・スートをビッドすることがあるようですが …。

    [レスポンダ]
    8 2
    K 10 6 5     
    Q 10 7 2
    K 8 7
        ( 8 HCP )
    ―― はい。あります。
    人によって意見が異なり,議論が分かれるところです。
    問題になるのは,こういう場合です。
    ここでは,ハートとダイヤモンドが どちらも 4 枚あります。
    オープニング・ビッド 1 に対して
     (A) 1 をビッドするのがよい。
     (B) 1 をビッドするのがよい。
    という 2 通りの考え方があります。
      (A) のように下から順番にビッドするやり方を "up the line" と呼びます。
      (B) は,メジャー・スートを優先するビッドです。
     オープニング・ビッドが仮に 1 のとき, この手では 2 ではなしに 1 をビッドするのが普通なので, それを拡張しているとも考えられます。
    バイパス・ダイヤモンド (Bypassing Diamonds) とか,ウォルシュ・ダイヤモンド (Walsh Diamond) と 呼ばれています。

  2. どちらが良いのですか ?

    ―― 単純にどちらが良いとは言えません。  

  3. それでは,ちょっと虫のよい話かも知れませんが,仮にオーバーコールが無いものとすれば …。
    PardRHOYouLHO
    1 パス 1 パス
    1 パス 2

    ―― オーバーコールが無ければ,(A) 1 で問題ありません。
    もしもオープナーが 4 枚のハートを持っていれば,1 を ビッドしてくれるので,自分からハートをビッドしなくても, ハートの 4‐4 フィットが見つかります。

    PardRHOYouLHO
    1 パス 1 1
    2 ?
  4. なるほど。それで,もしも左オポさんが 1 で割り込んで こうなった場合には ?

    ―― その場合に,自分から 2 をビッドするのは,リバースです。 リバースできるくらいの強さ (16+ pts ) があれば 問題ありませんが …。

  5. リバースできないときには,どうなるのですか ?

    ―― リバースできる強さがなければ,
        パス, 1NT, 2, 2
    の中から最も適当なのを選んでビッドします。

  6. それでは,ハートの 4 ‐4 フィットが隠れてしまうから,損ですね。

    ―― はい。そこで,このようなオーバーコールに備えて,

    (C)  
    9 pts 以下の弱い手では,
    ダイヤモンドをスキップして 1 をビッドする。
    という考え方があります。
     あなたの手が もしも 10+ pts ならば,2 回目に 2 を ビッドできるので,1 回目に 1 で問題ありません。
     しかし,9 pts 以下の場合には,それができないので (許されないので)初回に ハートを示します。

  7. 分かりました。それで,わたしのダイヤモンドが 5 枚の場合には ?
    [レスポンダ]
    Q 2
    K 10 6 5
    Q 10 9 6 5
    8 5
        ( 7 HCP )

    ―― こんな手の場合です。
     ハートが 4 枚,ダイヤモンドが 5 枚あります。
    この場合にも 2 通りの考えがあります。
      (A5) ダイヤモンドが 5 枚あるのだから,それを優先して,1 をビッドする。
      (B5) オーバーコールが入るとハートのフィットが隠れてしまうので,9 pts 以下の手では,5 枚のダイヤモンドをスキップして 1ビッドする。

  8. どちらが良いのですか ?

    ―― 黒川晶夫さんの「 ブリッジ上達法 」は,(B5) を勧めています。
    しかし,手の組み合わせにより,どちらが良いと一概には言えません。

    PardRHOわたしLHO
    1 パス 1 パス
    2 パス パス パス

     私はいつも (A5) にしているのですが,オンラインのブリッジで初めての人と 組んだとき 上の手が来ました。
    そのとき なぜか 気が変わって 1 をビッドしました。
    すると,オープナーは 2 を返してきました。
    私はこれをパス …。

    [オープナー]
    J 8 7
    7
    A J 8 4
    A Q 10 6 2
      ( 12 HCP )
    なぜかオーバーコールは無く,コントラクトは 2に決まりました。
    そして,プレーが始まってダミー (わたし) の手が開くと,パートナーは何も言わずに 立ち去りました。パートナーの手は,こんなふうでした。

  9. いろいろと 話を聞かされると,どうしたらよいのか分からなくなってしまいます …。
    ブリッジを始めたばかりの私は,どうしたらよいでしょうか ?

    ―― ぁ,申し訳ありません。余計なことを話しすぎましたね。

    初級者の方には,Bill Root さんが ブリッジ入門書 "The ABCs of Bridge" の中で (A) を勧めています。とりあえず,これでやってみましょう。
     いろいろ言う人がいるでしょうが,自分で判断がつくようになったら,変えてみるとよい。 でもそれまでは,(A) でやってみて下さい。
     ですから,1ビッドしても,4 枚のメジャー・スートを持っている可能性があります。
     付け加えると,[A] が SAYC の標準ビッドです。


《 トライアル・ビッド または ゲーム・トライ 》


はじめに

  1. トライアル・ビッドは,今年 (2002年) の夏に,かずちゃんのホームページの掲示板を賑わせましたね。

    ―― はい,そうでした。
     実は,私 (ぼこ) も トライアル・ビッドについては よく理解できていない点があるので, あの議論がもっと建設的な展開を見せるものと 期待していました。ところが,流れがおかしくなってしまって …。 がっかりでした。

  2. それで,トライアル・ビッドについて,何かここで解説していただけるのですか ?

    ―― いえ,カイセツなんて とてもとても …。何しろ,この名前の通りの腕前ですから。
     ただ,トライアル・ビッドについては,こんなふうに火がつく前にも質問を受けたことがあり,気になっていました。 また,最近ではこれに関心を持つ人が ちらほら おられるようなので,少しばかり考えてみたのです。
     ほんとの初心者の方にもお読み頂けるように,丁寧に書いています。



リレイズ

  1. 表題にある「リレイズ」とは ?
    NorthEastSouthWest
    1 パス 2 パス
    3

    ―― 皆さん よくご存じの … おなじみのビッドです。
    あなたの 1 オープンを パートナーが 1つ 上げた。
    それを もう一度 (Re-) あなたが 3 の代に上げたので Re-raise と言います。
    この言葉をここで定義しておくと,後の話が分かりやすいので …。
    それで,あなたの 3 の意味を,ここで確認しておきましょう。

  2. それは,簡単です。私は,だいたい 16〜18 pts くらいの強さで, スペードを 6+ 持っている。
    パートナーの 2 は,スペードが 3+ 枚で,6〜9 pts の強さを示します。
    私の 3 の意味は ゲームトライで,もしもパートナーの手が
    手の強さコール
     (1) 8 ‐9 pts4
     (2) 6 ‐7 ptsパス
      (1) 上限ならば,4 をビッドしてほしい.
      (2) 下限ならば,パスしてほしい.
      (3) 中間だったら,ハンドを見てどちらか判断してほしい.
    というお誘いです。

    ―― はい。オープナーの 3 を そのように定量ビッドと解釈するのが, 健全な考え方です。
    ところが,この 3プリエンプティブ・ビッドとして使う考え方がある …


リレイズは プリエンプト ?

  1. プリエンプト …ですか ? 
    まだ ダブルも掛かっていないうちから ?

    ―― はい。

  2. A J 7 5 4 2
    J 2
    J
    K 9 6 3
       ( 10 HCP )
    NorthEastSouthWest
    1 パス 2 パス
    パス 3 パス 4
    どんな手でプリエンプトするのですか ?

    ―― このように 6 枚の切り札を持っていて,最低限でオープンした場合です。
     ここで 4 の可能性が無いからというので, North が 3 を ビッドせずに, パスすると, N-S が 2弱い手だということが,相手側にばれる。
     すると,East が 何か バランシング・コールをする。 そこから 3 と応戦しようと思っても手遅れで, 相手側は 4 コントラクトを見つけてしまうかも知れない (疑心暗鬼) …。

    NorthEastSouthWest
    1 パス 2 パス
    3 パス パス パス
     そこで,その前に先手を打って,このように 3ビッドすれば,相手側に 4 のような ゲームがあっても,ビッドできない (見つけられない) だろう という考えです。
     6+ 枚のスペードを持っていて,ぎりぎりの手でオープンしたとき,2 を 3 に上げて,相手側を締め出します。

    NorthEastSouthWest
    1 パス 2 X
    3 パス パス パス
     このような「締め出し」は,West がテイクアウト・ダブルしたときには当然のビッドですが, ここでは,それを一歩押し進めます。
     West がパスしたけれども,East が何かビッドするものと想定し,これを事前に締め出します。
     この事前締め出しビッド 3 を プリエンプティブ・リレイズ (Pre-emptive Reraise) と呼びます。
     "1‐2‐3 stop" とも呼ばれています。

  3. よく分かりませんが …。

    ―― 実は,1990年頃から,Larry Cohen さんが「合計トリック数の法則 (LoTT) 」というものを普及させました。 この考え方によると,味方が合計して 9 枚の切り札を持っているとき,3 の代まで安全にビッドできるのです。

  4. でも …,3 がダウンすることだってあるはず …。

    ―― あります。大いにあります。
     でも,3 がダウンするくらい 相手側の手が良ければ,相手側に, もともと 4のようなゲームがあるはず … だから 3がダウンしても損はありません。
     「25 のコンベンション」は,この立場で書かれています。
    第 13 章のコラムが,そういう書き方です。
     この立場では,3 という リレイズを,パートナーは必ずパスします。
    なので,これを "1‐2‐3 stop" と呼びます。

  5. でもそうすると 本来の「お誘い」のためのビッドが何か必要ですね。

    ―― はい。そのためのビッドとして,トライアル・ビッドを使います。
    この場合,3 はサインオフとなり,誘いの意味を失います。
    もしも お誘いしたければ,トライアル・ビッドを絶対に使わなくては なりません。
    誤解の無いように,この流儀をまとめておきましょう。

    ◇ 3 = サインオフ (パートナーはこれを必ずパス)
    ◇ トライアル・ビッド = 誘い (パートナーは 3 または 4 をビッド).
     つまり,トライアル・ビッドとは,単独で使うものではなく,"1‐2‐3 stop" と組み合わせて使います。
    ここから先は,この前提に立って,話が進みます。
    3 を「お誘い」に使う人は,この先を読む必要がありません。


ちょっと脱線

  1. ちょっと脱線になって申し訳ありませんが,その … 2002年の夏のできごとというのは … ?
    かずちゃんの掲示板に ぼこさんが書かれた #664 というのは, 今でも読めるので,それなりに分かるんですが,nagunatu さんの #571 は 消されてしまって,今では読めないので …。どんなことが書いてあったんですか ?

    ―― ぁ …。そのことですか …。それは,たぶん正確な内容の投稿だったんだ と思うんです。いま,私の記憶をたどってみると,
      [1] 1‐2‐3 のようなビッドをプリエンプトに使おうという考えが 19xx 年頃に生まれて,その必要から 各種のトライアルビッドが考案された。
      [2] トライアルビッドには 3 通りある。
      [3] トライアルビッドは,気休め程度に使えばよい。
    というものでした。

  2. それで … ?

    ―― 私は,このうちの 3 番目の点が気に懸かり,それがもとで,このページを書いてみようという気になったのです。

     ところが,掲示板で問題になったのは [1] の点でした。
    LoTT を踏まえて議論していた人が何人いたのかは知りません。
    多くの人が 上の前提を 理解していませんでした (私も 当初はその一人でした)
     明らかに,ブリッジの本で調べることを怠って,自分の思い込みに頼って返事を書く人が何人もいました。
     「プリエンプトなんておかしいから,nagunatu さんは 絶対に「25 の本」を読み間違えている 」と, 本を読まずに言う人がいたり,「その本の何ページなの ? 」と書き込む人までいました。 そして,議論がブリッジとはぜんぜん関係無い別の方向に行ってしまったのです。 それで #664 を投稿して,もう一度議論してほしいと 思ったのですが,ダメでした。

     まぁ,率直に言うと,nagunatu さんの書きかたが 勇み足だったのです。
    でも,書かれたことの一つひとつが正しいか間違っているかは,それとは別の話です。
     とにかく,議論が続かなかったのは,残念なことでした。そして,この件は #664 でサインオフとなりました。
     ここで,脱線から もとへ戻りましょう。


トライアル・ビッドとは

  1. それで,その本題のトライアル・ビッドというのは … ?

    ―― ダミー (になる予定の人) が 7〜8 pts で判断に困ったときに,それを助ける目的で使います。
    トライアル・ビッド (Trial bid) あるいは ゲーム・トライ (Game try) には, 次の 3 種類があります。
     [H] ヘルプスート・ゲームトライ (Help-suit game try)
         別名を ウィークスート・ゲームトライ (Weak-suit game try) とも言います。
      [S] ショートスート・ゲームトライ (Short-suit game try)
      [L] ロングスート・ゲームトライ (Long-suit game try)
    この 3 つです。
      3 つとも,下記 Root & Pavlicek の本に説明されています。

必要度

  1. それで,その 3 種類について説明していただく前に,どのくらい必要なものなのでしょうか ?  必要度が低いのだったら,説明を聞いても仕方がないと思うので …。

    ―― 実際のハンドを調べてみました。
    その時点では,私のソフトウェア MiniHand が既に完成しており,交流ラウンジのブリッジ教室で ハンドの記録を採り続けていました。
    2002 年の 7 月と 8 月に,私が記録したのは, 全部で 290 ボードです。

  2. その中で,トライアル・ビッドが役に立ちそうなのは,何ボードくらい ?

    ―― 意外に思うかも知れませんが,リレイズが そもそも少ないのです。
    ハートまたはスペードのリレイズが,全部で数ボードありました。
    その中で,何かのゲームトライをすると意味があると思えるのは,下に 例として挙げる 1 ボードだけでした。
     もっとボード数を多くしないと統計としての意味はありませんが,一応,
    1/290 = 0.3% という数字になりました。

  3. ずいぶん低い数字なんですね。

    ―― はい。リレイズの経過をたどったボードの中で,ダミーが自分で (助け無しに) 判断できるものを 除くと,この数字になります。
     発生件数そのものがこんなに少ないので,トライアル・ビッドをあまり気にしなくて良いのかも知れません。
     「気休め程度に使えばよい」という評価は,当たっているようです。
    … それだと,この話は ここでおしまいです。


ハンド例

  1. それで,3 種類のビッドの具体的な中身を …。

    ―― あっ,まだ続けてお読みいただけるんですか …。

  2. はい。せっかくですから …。

    ―― では,続けましょう。

    例を挙げて説明することにします。

     実は,「例」というのが クセモノ です。
    ブリッジの本を開くと,実に見事な例が 載っていて,それを使うとすべてうまくいくような気になってしまう。
    けれども,世の中,現実はそうではありません。
    そこで,2002 年 8 月某日に交流ラウンジで実際に出てきたハンドを, そのまま例に使って説明しましょう。
     例がたった一つというのは ちょっと弱いけど,身近に実際にあったハンドだし,これを使うと トライアル・ビッドのいろんな側面が少しは分かると思うのです。

    North コントラクト
    6 5 3 3
    10 5 4
    K Q J 10 9 3
    West J East
    9 7 K 8 2
    A 7 6 3 K Q 9 2
    A 6 5 4 7 2
    Q 9 4 10 8 5 3
    A Q J 10 4
    J 8
    8
    A K 7 6 2
    South   (15 HCP)
    こんなハンドです。
    オークションは単純なリレイズ
    SouthNorthEastWest
    1 パス 2 パス
    3 パス パス パス
    となりました。South は,15 HCP ですが,5‐5 の 2 スーターという 良い手なので,3ビッドして ゲームをトライしました。
     ここで もしも何かのトライアル・ビッドを使っていた場合 …。

  3. [H] ヘルプスート・ゲームトライ を使っていれば,ハートが弱いので,
    South は 3 をビッドします。
     South の手では,ハートを頭から 2 トリック取られる可能性があります。
    しかし,ダミーに もしも
        (1) ハートの確実なストッパーがあるか,
    または
        (2) ハートがシングルトン (またはボイド)
    ならば,ハートの負け札が減るので,それを期待したビッドです。
     これに対して,North は,ハートをどちらかの意味でサポートできれば 4 を, できなければ 3 を ビッドします。
     この例では,どちらの意味でもサポートできないので,North は 3ビッドします。これは, サインオフ (South がパスしなければならないビッド) です。
     なお,シングルトンの意味でサポートする場合には 切り札が 4 枚必要です。
     これが,「25 のコンベンション」に取り上げられている ヘルプスート・ゲームトライです。 オープナーが自分の弱点のスートをビッドするので,ウィークスート・ゲームトライとも呼ばれます。

  4. [S] ショートスート・ゲームトライを使っていれば がシングルトンなので,South は 3 をビッドします。
     このときの考え方は,ちょっと難しいかも知れません。
     こちらのダイヤモンドがシングルトンなので,ダミーが ダイヤモンドにスポット・カード (2〜9 のカード) を 持っていれば 好都合です。
     もしも ダミーの絵札がダイヤモンド以外にあれば,自分とよくフィットするので トリックをたくさん取れる,という考え方です。言いかえると,両者の強さに「むだ」が無い場合です。
     このハンドの場合は それとは逆であり,ダミーの絵札がダイヤモンドに集中しているので, 好ましくありません。ですから,この場合には ショートスート ・ゲームトライに対して North は 3 をビッドします。

  5. [L] ロングスート・ゲームトライを使っていれば,South は一番長くて しっかりしているクラブを 3 と ビッドします。
     もしもダミーにクラブが沢山あれば,スペードとクラブのダブルフィットで,たくさんのトリックを取れる,という考え方です。
     このハンドの場合には,North はクラブをたった 1 枚しか持っていないので ロングスート・ゲームトライに対して  3 を ビッドするでしょう。

  6. この例は,どのトライアル・ビッドを使っても 3 で止まれる,という意味ですか ?

    ―― はい,そういうふうに読めますね。
    ブリッジの本に載っているのとは,逆です。
    実際 このボードの場合,4 の可能性は無くて  3 さえも どうなるか 分かりません。


問題点

  1. 「問題点」というのは … ?

    ―― ブリッジの本は ビッドのことしか書いてない … というのが 問題点です。
    実際には,このあとにカードのプレイがあります。
    それについて,ブリッジの本が何も触れていないのは おかしいと思うのです。

  2. というと ?

    ―― 実は このとき,このテーブルの 4 人のうちの一人が 私 (ぼこ) でした。

  3. おや,まぁ。どこにお座りでしたか ?

    ―― West にいました。オープニング・リードする役目です。
    単純な リレイズで,何も情報は無かったので,4 を打ち出しました。
    見やすいように,ハンドを再掲しましょう。

    North コントラクト
    6 5 3 3
    10 5 4
    K Q J 10 9 3
    West J East
    9 7 K 8 2
    A 7 6 3 K Q 9 2
    A 6 5 4 7 2
    Q 9 4 10 8 5 3
    A Q J 10 4
    J 8
    8
    A K 7 6 2
    South   (15 HCP)
     見てお分かりのように,その結果,ダミーの J を勝たせて しまいました。
    ディクレアラーにすれば,1 トリック丸儲けです。
     このとき,9 を出すこともチラッと考えました。
    でも,クラブの方が 損の可能性が低いだろうと思ったのです。

     ここで South が リレイズ ではなしに,何かの トライアル・ビッドをしていたと仮定して,オープニング・リードを考えてみましょう。

  4. [H] ハートのヘルプを もしも South がしていたなら, 私がいくら ボコボコ でも,クラブをリードなんかしません。 敢然と A を打ちます。
     ダミーが開いて,ハートの K も Q も無いことがわかれば, ディクレアラーが 2 〜4 枚の弱いハートを持っていることを期待して,ハートを続けます。

  5. [S] ショートの場合は,ダミーが 3 で止まれば,オープニング・リードに何が適切かは分かりません。
     しかし,ショート・トライ を ダミーが受け入れて ゲームをビッドした場合には,ディフェンス側の 方針は,はっきりしています。
     リードのたびに ダイヤモンドを打ち,ディクレアラーに切らせ, その切り札を短くして,切り札の制御を失わせます。これは,ディフェンス側の常套手段です。 したがって,South は これに耐えられる枚数の切り札を余分に持っている必要があります。

  6. [L] ロング・トライ の場合には,もちろん,オープニング・リードは クラブ以外です。
    したがって,上のような 1 トリック丸儲けは ありえません。

  7. [ヘルプとショートの問題点] 結局,どういうことが問題点 …。

    ―― トライアル・ビッド には,普通のビッドと比べて 大きな違いがます。
    ビッドというのは,ふつう,自分の手の強さを表現するのに使います。
     ところが,[H][S]弱みを公表するビッドです。 それも 漠然とではなしに,はっきり どのスートであるかを公表します。
     それが プレイに不利に はたらきます。
     自分のビッドが 二人のディフェンダーにも聞こえているのです。
     ですから,トライアル・ビッドを使う場合には,そこまで全体的に考えて使う必要があります。 ディフェンス側に何も情報を与えずに 1 トリック丸儲けだったら, ポイントカウントにして  3 点くらい得したことになりますから。

     実は これを書いてからずっと後になって,Bergen さんの本にこの問題点が書かれてるのに気づきました。 どのゲームトライを使うにしても,オープナーの持ち札の情報が洩れるのが,ゲームトライの欠点です。
     そこで この欠点を回避する方法として,Bergen さんは,オープナーが 2NT をビッドして,レスポンダにダブルトンの スートをビッドしてもらう方法を提案しています。 詳しくは,「Better Bidding with Bergen 」をお読み下さい。

  8. [ロングの問題点] ロング・トライだったら,そういう欠点はありませんね。

    ―― はい。[L] の場合には,その (弱点をさらけ出す) 欠点はありません。
     ですから,使うとすれば [L] が良いと Root さんは勧めています。

    A K 10 6 4
    A K 3
    7
    9 8 5 2
       ( 14 HCP )
    WestNorthEastSouth
    1 パス 2 パス
    3
     けれども,[L] にも 気に入らない点があります。
    その親切な説明が,本に書かれています。
    そこには 右の例が載っています。
     パートナーとのあいだで [L] を使うことに 取り決めあれば,3 は サインオフです。
     ここで ゲーム・トライをしたければ,3 しかありません。クラブの内容がもっと良ければいいのですが,こんなに 弱い 4 枚のクラブでも  3ビッドするのです。
     [L] を採用する場合には,こういうことも弁えておく必要があります。
    〔注: このハンド例では,パスが妥当なように思います。〕

  9. [S にも共通する問題点] そういう欠点は,[S] にもあるのでは ?

    ―― はい。たとえば,[S] を使うことに取り決めてあったとしましょう。
    その場合,ゲーム・トライをしたいときに,シングルトンのスートがあれば 問題ありません。 でも,必ずシングルトンがあるとは限りません。
     仕方なくごまかして,ダブルトンのスートを ビッドする/パスする/目をつぶって 4 をビッドする … このどれかを選択するしかありません。こういうことも弁えて使う必要があります。
     更に言えば,切り札 6 枚の 16 〜18 pts の場合に,どうやって誘いを掛けるかが 問題として残ります。

  10. いろいろ説明をうかがうと,私には使えそうもありませんね。

    ―― はい。ゲーム・トライを全く使わないという選択も有力です。そもそも, コンベンションというのは何でも使えばよいというものではありません。
     参考までに付け加えると,Audrey Grant の新しい教本 (2000,2001) でも,David Lindop の SAYC 講座 "What's Standard ?" (2003‐2008) でも,トライアル・ビッドには全く触れていません。


リファレンス

  1. [H] Barbara Seagram & Marc Smith: "25 Bridge Conventions You Should Know" (1999), Chap. 13, Help Suit Game Tries. (25 のコンベンション, JCBL)
  2. [S,H] Harold Feldheim: "Five Card Major Bidding in Contract Bridge"(1985)
      [S][H] が丁寧に説明されています。 (TWO OVER ONE とは何か ?, JCBL,ただし,この日本語訳で付加された 2/1 の記述は,僅か 20 ページです)
  3. [L,S,H] William S. Root & Richard Pavlicek: "Modern Bridge Conventions", (1981) p.54, Pre-emptive Reraises.
  4. [?] Max Hardy: "Two Over One Game Force − Revised" (1989)
  5. [Bergen 2NT asking] Marty Bergen: "Better Bidding with Bergen",Vol. 1,Uncontested Auctions (1985)
  6. [不使用] Audrey Grant: "ACBL Bridge Series: Spade Series, Notrump Series"(2000, 2001, ACBL; 日本語版,JCBL)

疑心暗鬼の裏づけ
[West]
10 6
Q 10 9 4
A Q 7 5
10 9 8
[East]
K 8
A K 7 4
10 8 4 3 2
A 8
NorthEastSouthWest
1 パス 2 パス
パス 3 パス 4
   N-S は,スペードを切り札にして 8 トリック取ります。
 W-E は,ハートを切り札にして 10 トリック取ります。