神戸電鉄と朝鮮人労働者

最終更新日付:2003年11月06日

撮影:るなーる 機材:OLYMPUS CAMEDIA

 六甲山地の北側の住宅地から神戸の中心街へ出る足として、また、ハイキングへの 足として親しまれている電車・神戸電鉄は、有馬線が1927年から1928年に三木線が1936年に建設されましたが、その工事が朝鮮人労働者によって担われたことはあまり知られていません。
 補助金の期限に間に合わすために昼夜を問わない突貫工事を急峻な山の中で強行したので、5度の死亡者を出す事故が起きて犠牲者は合計二桁にのぼっています。日本の朝鮮半島植民地化によって、遠く故郷を離れた地で無惨に亡くなったこれらの人の存在は伝え続けていかねばなりません。

 画像はクリックすると2〜3倍の画像が見れます。 画像の無断転載を禁止します。


東山トンネル(JPEG 3K 拡大24K) 地下の湊川駅を発車した電車は地上に出てすぐまたトンネルに入る。東山トンネルである。土被りが4.5-8.5mと薄く、工事中の1928年1月15日の午前2時半にトンネルが崩壊して5名が生き埋めになり、日本人の監督と朝鮮人労働者2名は救出されたが、朝鮮人労働者2名は遺体で発見されている。当時、会社は悪天候のせいだとしたが、トンネル上の松の木の根がぐらついていることがわかっており、その対策を怠ったゆえの人災といえよう。このトンネルは震災でも全長に渡ってひび割れが生じたため、トンネルを作り直すほどの大規模な改修を必要とし、復旧は6月22日と神戸電鉄の他の区間に比べて大幅に遅れて5ヶ月かかった。





下谷上(JPEG 5K 拡大17K) 最初の死亡事故は1927年8月1日午後2時頃に起きている。武庫郡山田村下谷上(しもたにがみ)で高さ約15mの竹やぶを切り取り中に土砂が崩壊し、朝鮮人労働者2名が生き埋めになって死亡している。現在の箕谷(みのたに)駅と谷上駅の間であるが、1988年4月2日に開通した北神(ほくしん)急行の工事で、このあたりの地形は一変している。神戸電鉄は、前方左側に見える竹薮に沿って迂回していたのをトンネルに入るように付け替えられた。右手が北神急行の車庫。





原野(JPEG 6K 拡大23K) 3番目の死亡事故は1928年5月7日午後5時頃に発生。武庫郡山田村原野(はらの)字奥谷(おくたに)で高さ約15mから大岩石が墜落し、朝鮮人労働者2名が即死している。原野は、現在の山の街駅の前後。1965年1月までこの区間は単線であった。その後の大規模な宅地開発で険しい地形であることがわかりにくくなっているが、うっそうとした森は沿線に残っている。






菊水山(JPEG 3K 拡大22K) 有馬線は1928年11月28日に開業するが、その直前にも事故が起きている。1928年10月23日、架線工事に必要な電線を運搬するトロッコの制動が外れて暴走、前方のトロッコに衝突。積み荷の下敷きになった一人が死亡、重軽傷者4名を出した。当時、烏原貯水地奥と報道された菊水山駅の周辺は現在も砂防ダム以外何もなく、もっぱらハイキング客が利用するだけの駅である。このあたりは50‰(水平1000mに対して垂直に50m上がる)と箱根登山鉄道を除けば日本一の急勾配区間。治水用の大規模なダム建設のために、上り線は1994年12月18日に下り線は1995年9月10日に移設されて当時のトンネルは放棄されている。






藍那トンネル(JPEG 5K 拡大24K) 最大の事故は1936年11月25日、藍那トンネルで起きた。トンネルの東口(写真中央)が崩落し、11名が生き埋め、うち6名が死亡した。補助金をもらうために年内に完成させるべく会社は昼夜を問わない工事を強行し、事故発生は午前零時40分と記録されている。年内に電化工事まで完成せずに12月28日に開通したときはガソリンカーでの運行であり、電化は翌年4月15日になった。工事の着工から開通まで約4ヶ月半しかなく、これは震災復旧に要した期間より短い。 現在、この区間は複線化するためにもう一本トンネルを掘削している。





源平町(JPEG 3K 拡大12K) 丸山駅の北東の長田区源平町に当時、飯場が作られ工事完成後も朝鮮人労働者とその子孫が暮らしている。長田区はゴム工業、それを発展させたケミカルシューズ産業の日本有数の拠点だが、それは家内工業的な零細企業の集合によって形成され、戦前に神戸電鉄敷設工事を始めとする苛酷な建設土木工事に従事した朝鮮人労働者たちの努力によって支えられてきた。







参考文献

鉄路にひびくアリランの唄−神戸電鉄敷設工事と朝鮮人−
  神戸電鉄敷設工事朝鮮人犠牲者を調査し追悼する会 1996年11月
  事務局 財団法人 神戸学生センター

交友社 鉄道ファン 1997年2月号(通巻430号)
  阪神大震災 被災と復旧の記録 6 神戸電鉄 鎌田嘉夫


E-mail: PXB11436@nifty.ne.jp
Cette page: http://www.vector.co.jp/authors/VA009150/kobe/dkourai1.htm


(C) 2003 るなーる / 小松敏郎 (KOMATSU Toscirou)